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[後編]地元の布でつくる、心地よい服-香川県/ツムギ-

またまた民です

この「使い手による ブランド紹介」では、日本諸国テキスタイル物産店の広報紙「民ノ布」に登場した「ツムギ」のデザイナー平川めぐみさんへのインタビューを前編・後編にわけてお届けします。
高松で江戸時代から織られ続けている伝統織物「保多織(ぼたおり)」をいまの暮らしになじむデザインで身にまとえるようにと、生まれたブランドが平川さんの手がけるツムギです。
保多織のもつ生地の心地よさをいかした服たちはどのように生まれているのでしょうか?前編では、平川さんが保多織に出会ったきっかけやブランド立ち上げのエピソードをうかがいました。

※前半はこちらから

お客様の顔が見える服づくり


民さん(以下/民)
ここからはインタビュー後編です。
「ツムギ」のデザイナー 平川さんに
引き続きお話を伺っていきます。

平川めぐみさん(以下/平川)
よろしくお願いします。
前編では2017年に
「ツムギ」を立ち上げるまでの
エピソードをお話ししましたが
ここからは、ツムギの服を
つくりながら日々考えていること
などをお伝えできたらと思います。


よろしくお願いします。
では、まずお聞きしたいのは
平川さんが「ツムギ」の
服づくりを続ける中で
やっていてよかった!と
感じたエピソードについて
教えていただけますか。

平川
そうですね。一番は
企業に所属していたときには
できなかったことを
いま、実現できている!と
実感していることですね。


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2019SSコレクションのキービジュアル。舞踏家の女性をモデルに。



平川
かつて東京で携わっていた
服の仕事とは、やっぱり
ぜんぜん手応えが違います。

東京で携わった仕事では
つくった実感も、売れた実感も
得ることができませんでした。
買ってくれた人の顔はもちろん
1着の服ができあがるまでに
関わった人の顔すらも
見えないというものでしたから。


人の顔が見えないと
不安になる気持ち、わかります。

平川
不安にもなるし、続けていても
「何のためにやっているんだろう」
というような虚無感も
少なからずありました。

その点、ツムギの服づくりは
服をデザインして、できた服を
お客様に対面販売するまで
一貫して関わることができる。

顔が見えることのありがたさは
独立してひとりで服作りを始めたことで
かなりしっかりと実感しました。

それに、対面販売で
お客様とお話できることで
デザインをするときも
お客様の顔を想像して浮かんだ
アイデアを服に反映できたりと
良い面がいっぱいあります。


着てくださっている方の
笑顔がいくつも浮かんで
くるようなエピソードですね。

会場5
岡山県での販売会の様子。「お客様同士の出会いの場にもなってます。」


平川
「あの人に似合うといいな」と
具体的にイメージしながら
服のデザインをすることも
あるんですよ。

届けたい人の顔が見えるって
大事なことだと思いますし、
「健全」なあり方だと感じます。


手元でできあがっていくものが
どこへ届いていくのかが、
わかる服づくりなんですね。

平川
まさにそれは、ものづくりを
やる上での醍醐味だと思います。

対面販売をして気づいたのですが
ツムギの服を気に入ってくださる
お客様の年代も20代から
上は90代までと、幅広いんです。

こんなにいろんな世代のお客様が
手にとってくださるんだ!
ということも、自分自身が
売り場に立たないとわからない。

ツムギの服を届けるべき
ターゲットの姿は、対面販売で
より深く知ることができました。


地元野菜で染める新しい保多織


東京から地元・香川に戻ってみて
改めて気づいたことはありましたか?

平川
地元のことなのに
「知らないことだらけ」というのは
東京から戻ってきて痛感しました。
香川で生まれ育っていても
見逃していたことが、山ほどあって。

それに岡山の児島や愛媛の今治など
世界に誇る技術のある町って
香川から車ですぐ行ける距離なんです。
繊維産地も西日本エリアにたくさんある。

でも、この仕事を始めるまでは
そんな貴重な場所が近くにあるなんて
全然気づいていませんでした。

得ようと思わないと得られない。
インターネットで探しても出てこない。
自分の足で行って、現場の人と
話してみないとわからない。
――繊維関係の現場って、ほんと
そんな感じなので、気になったら
自分で動いてみるのが一番いいです。


行動あるのみ!ですね。

平川
思い切って行ってよかった!と
思うことが多いです。
そして、いま行っておかなきゃ!
という気持ちは産地を訪れるたびに
どんどん強くなります。
職人さんも高齢化が進んでいますし
残された時間も限られています。

そうやって生地がうまれる
現場を見て、作り手と話して
確かめたこと、気づいたことを
もっと発信していきたいという
気持ちが最近強くなっていて。

今後は、中四国エリアで
一体となって発信していく
おもしろさや醍醐味を感じる
取り組みをしていきたいですね。


地元とのコラボなども
積極的にされていくのでしょうか?

平川
いま、いくつかのプロジェクトに
取り組んでいるところです。
2021年の春夏コレクションから
スタートしたのは地元の野菜で
染めた生地での服づくり。

「まんば」と呼ばれる葉物や
香川が生産数 全国シェア
約70%といわれる金時人参など
香川の特産野菜で染めた生地で
服を仕立てることで
地元の野菜と布、どちらにも
興味をもっていただける
きっかけになれば、と
始まったプロジェクトです。

この新しい生地を作る取り組みは
2020年の「新かがわ中小企業
応援ファンド等事業」に選定され
助成金を使って進めています。

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野菜染めは、倉敷市の染工場に協力してもらった。



先ほど、野菜染めの生地で
できた服を手にとって
見せていただいたのですが
色合いがやさしくて、
洗いがかかっているから
ほかの生地とは
手ざわりがちがいました。

平川
ありがとうございます。
天然染料100%で染めたものを元に
いまの生活に合わせて
化学染料を加えて色を調整しました。
仕上がりは化学染料だけでは
出せない微妙なニュートラルカラー。
いい具合に染まりました。

保多織となにかをかけあわせて
新たな価値をうみだす
という考え方は、岩部社長と
日々やり取りする中で
出てきたもの。

岩部社長も、新しい保多織を
つくっていきたいという想いを
強くもっていらっしゃるので
たくさんアイデアをお持ちですし
社長とのやりとりを通して
刺激をいただくことが多いです。

今回は地元野菜で染めた生地
ということで、地元メディアの
取材を受けたりと反響も上々です。

見たことのない保多織をつくる


ツムギのものづくりを通して
これから取り組みたいことを
最後に聞かせていただけますか?

平川
今年からは、これまでにない
保多織をつくってみようと
岩部保多織本舗とツムギで
共同開発を進めているんです。


共同開発!? すごい!
これまでにない保多織をつくる
革新的なプロジェクト
なのでしょうか。

平川
先ほどご紹介した野菜染めは
従来の保多織を使っていますが
この共同開発は新たな生地を
一からつくっていくので
プロジェクトを進めながら
わたしも、ワクワクしています。

共同開発している生地は
いくつかあって、1つ目は
スラブ糸で織ったぶ厚い保多織。

一本の糸の中に、細い部分と
太い部分を不規則にもつのが
「スラブ」糸ですが、
そのムラのある糸で
保多織を織ると手織りのような
雰囲気があらわれて
おもしろい風合いになります。

また、スラブ糸で織った生地の
特徴に「肌離れのよさ」もあり
保多織の織り方との相性もよい。
製品化できる日が楽しみです。


生地
岩部保多織本舗との共同開発で生まれた、スラブ糸で織った保多織




糸と織り方の組み合わせ次第で
新たな生地がうまれていくんですね。

平川
そうですね。生地を織る段階で
柄を織るのか、無地にするか
岩部社長にいろいろと実験を
していただいているところです。

もう一つ、計画しているのは
「極薄保多織」です。


ネーミングがすでに
キャッチーで惹かれますね!

平川
スラブ糸のぶ厚い保多織と
対極にあるのが極薄保多織ですね。
岩部社長のインタビューでも
お話しされていたかと思いますが
厚みのある生地は保多織らしい
凹凸が生地により強く現れます。

そこで考えたのは、
生地をとことん薄くしても
保多織らしさって生まれるのか?
ということでした。
これはまだ実験段階ですが
製品化できたらおもしろい
と思っています。


ツムギさんの思い描く
見たことのない保多織、
手に取る日が楽しみです!
今日はありがとうございました。


使い手によるブランド紹介〈後編〉

地元・香川が誇る伝統工芸品
保多織のよさに惚れ込み、
ご自身でブランドを立ち上げた
「ツムギ」のデザイナー、平川さん。

お客様の顔が見えることが大切、と
対面販売を通して、仕立てた服を
直接届けることにこだわる
真摯な姿勢が印象的でした。

また、服のデザインだけでなく、
生地そのものを新たにつくる
プロジェクトをスタートした
エピソードもおもしろく、
織りや染めの職人たちと共同で
「未来の保多織」をうみだそうと
奮闘するエネルギッシュさに感服!

その行動力の根っこにあるのは
「保多織ってこんなにおもしろい!」
とたくさんの人に伝えたい気持ち。
保多織の魅力の奥深さに
改めて驚いたインタビューでした。


取材日:2021年5月28日
取材・執筆:杉谷紗香(piknik/民ノ布編集室)
撮影:岩崎恵子(民ノ布編集室)

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