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fpとはじめてのArtレンズ

深い森の中で偶然出くわしたその沼は、怪しげな鈍い光を水面に映し出していた。ゆっくりとたゆたう群青色の液体は、水というよりもコールタールのようなドロッとした粘度を保っているように見える。しかし、その美しくも妖艶なマチエールは、まるで呼吸をする巨大生物の肌のように蠢きながら、何とも形容し難い禍々しい引力を放っている。そして、眼の前に存在するすべてのものを、ズルズルと深い暗闇の中に引きずり込もうとしていた―。

世に「レンズ沼」と呼ばれる底なし沼が存在するという。どうやら自分も、知らず知らずのうちに片足を飲み込まれようとしているのかもしれない。

SIGMA fpを使い始めて5ヶ月ほどになる。これまでは、キットレンズである45mm F2.8 DG DN をメインに使いながら、時折用途に応じて、もともと持っていたEFレンズを何本か、マウントコンバーターを介して使ってきた。

しかし、レンズ交換式のカメラというのは何とも恐ろしいもので、撮れば撮るほど、違うレンズも試したくなってしまうものなのだ。

今回、たまたま機会があって 24-70mm f2.8 DG DN というズームレンズを試してみている。これはSIGMAのArtラインと呼ばれるラインナップに属するレンズで、前から使ってみたかったものだ。ちなみにDG DNというのはフルサイズのミラーレス専用設計を示すもので、fp発売後に出たレンズとあっては、fpユーザーなら誰でも使ってみたい一本にちがいない。

今まで他にもSIGMAのレンズは何本か使ってきたが、Artラインを使うのは実はこれが初めて。Web上で様々な作例を見る限り、圧縮された画像でも分かるほどに高精細な解像力を持っていることは、明らかだった。

実際に使ってみると、前評判通り、いやそれ以上の描写力を実感することができた。

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写真というものは往々にして、シャープに写ればいいというものでも、ボケればいいというものでもない。ゴツゴツとした硬さや、ふわふわとした柔らかさなど、被写体の持つ「質感」や「魅力」を、どのくらい平面上にリアルに再現できるかが求められるものであるはずだ。

そういう意味でこのレンズは、シャープネスもソフトネスもバランスよく両立することを可能にし、本物以上にイメージ通りの質感を再現してくれるという信頼感がある、と感じた。

一見柔らかそうに見えて、実は独特のゴワゴワした質感を持つヒツジの毛。両手でそっと持ち上げると、ふっくらモフモフした感触とともに感じる、デロンとたわむようなウサギの皮下脂肪のあの感覚。

そういったイメージ上の質感ですら、リアルに感じられるような描写力だ。もちろん触ったことはないけれど、おそらくサイの肌は岩のようにゴツゴツザラザラしているんだろうなと、何となく想像できてしまう。

また、当たり前だが動物はよく動く。それも、ときとして予測不能な動きをする。しかしながら、このレンズのAF精度は非常に高く、しっかりとついて来てくれる。あとからMac上で拡大してみても、狙ったとおりにピントが来ている確率が高かったように思う。

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最近よく撮っているのが、いろいろな種類の植物だ。これも当たり前だが、植物は動物と違ってまったく動かないので、じっくりと撮ることができる。

植物を撮るときには、その柔らかな印象を表現するために、できるだけ被写界深度を浅くして、ボカして撮りたくなるものだ。しかしながら、植物は動物に比べて形が複雑だ。AFではなかなか狙ったとおりにピントを合わせることは難しいので、必然的にMFで撮ることが多くなる。

このレンズの重量だと、fpに付けたときはどうしてもフロントヘビーになってしまうのだが、フォーカスリングがとてもスムーズなので、人差し指だけで軽々と微調整ができる。

AFで撮るときも、自然に親指で押しやすい絶妙な位置にAFLボタンが付いているのはありがたい。UIとして、実によくできていると思う。

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建造物や工業製品などの人工物を撮るときには、当然直線や曲線の輪郭に明快なシャープさが欲しくなる。

その点、さすがはArtライン。f5.6〜f8程度に絞れば驚くほど細かい線までしっかりと表現されるし、開放でもピントが来ている所はキリッとメリハリをつけてくれる。

さらにRAW現像で明瞭度を上げていけば、ゴリゴリにテクスチャを表現することもできる。むしろ、やりすぎに注意したほうがいいくらいだ。

ただ、そのシャープさもドギツさやエグみを持ったものではなく、ただそこに写るものの存在感を自然に際立たせてくれる、ジェントルな印象がある。

もはやdpiという数値では表せない、圧倒的な解像感。そして、それによって表現される、被写体の「実在感」。これこそ、このレンズの最大の魅力だと思う。

そして、24mm〜70mmという「ちょうどいい」ズームレンズの利便性とも相まって、どんな状況でも非常に汎用性の高い一本であることは間違いなさそうだ。

しかも、このクラスのレンズとしては、(決して安い値段ではないが)かなりコストパフォーマンスも高いと言えるだろう。

いつも持ち歩いてスナップを撮るにはちょっと重いので、そこはさすがに45mm f2.8 DG DN のような取り回しの良さはない。

しかしながら、いざ本気で作品をねらって撮りに行く場合や、仕事でしっかりと構えて撮影する場合には、圧倒的に頼もしい存在になりそうだ。

やばい。やばすぎる。

気づかないうちに、もう腰ぐらいまで沼に浸かってしまったようだ…。

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↑いいカメラを持つと、たくさんよそ見をするようになり、いろんなものを観察する目が養われます。それこそが「面白い表現」の入り口。詳しくは、この本をお読みくださいませ…。






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