金木犀伝説

仄かな香りは人を浸らせて狂わせるだろう
とすれ違いざまに誰か呟いた
どこから香って来るのか 謎を解き明かしたくなってしまう
その謎を解いてはいけない
カラスの群れの向こう側へいってはいけない
木々の生い茂る中に入ってはいけない

昔いなくなった人に会ってしまう

真偽不明

麒麟の鬣を全て刈った

都市に眠る獅子深夜3:30目覚めよ
石像蠢け
漆黒の人魚天高く飛べ
真白の天使よ地深く潜れ

古代エジプト様式の壁画が笑っている
文字の中に宇宙はある つまり手の中に それからこの空の向こうに 或いは一杯のミントティーの中に

真偽不明

砂嵐の画面の中を往く 一対の蝶のつがいを観た時
新しくオートクチュールの 鳥肌を纏いました
それこそ私が恐れたものだったのです
それこそ私が望んだものだったのです

雨の日は御用心を

ついに紅いお空は揺れて地面を剥がしにかかり始めた
あれは今も弱く、しかし確かにはっきりと香っている
闇に潜んでいたかった人が
私が
叫び声も出ず顔を歪ませている

この箱を開けたら最初から

丸いお空に向かってみんな
とんでゆく 雲突き抜けて
とんでゆく 膨らんでゆく
とんでゆく 苦しくなって
とんでゆく バタバタうごく
とんでゆく 希望の色が
とんでゆく 目の前いっぱい
とんでゆく 苦しくなって
とんでゆく バタバタうごく
丸いお空に向かってみんな

この箱を開けたら最初から

月も沈んだ後に鳴る 夕方の町内放送
重力が少しずつおかしくなって来たから
今日はそろそろ帰りましょう
重力がおかしくなってきた暗い道
走って転ばないように気を付けて
お空もこんなに暗いでしょう
こんなにも
だから言ったでしょう、早く帰ろうって言ったでしょう
足元だって何にも見えないし
だから早く帰りたいと言ったのに
銀色の鬣の獅子が来る
新雪の静けさのように来る
遅かった

昨日消息を絶った少女は
生命の起源を模した世界地図を広げて熱心に眺めていたという

鳳凰の鱗を全て剥がし切った

止めの毒牙を今

私という観測地点からのこの世界を、どうやったら貴方に伝えられましょう。
世界は全くもってそう言ったことに無関心でいるうちに、途方も無い数の穴を自身に開け続けています。
何と禍々しく美しい姿でしょう。
毎日同じような、しかし全く違うこの世界に目を凝らし続けているうちに
途方も無い網に絡め取られていく人々を見ました。今日も、明日も、その先も見ていたのでした。或いは見ていたかったのでした。

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