渋谷で?時の夢の中
私は渋谷駅の南口と東口の間にあるマクドナルドを抜けて、そこから続くモールのようになっているアーケードを全速力で走っていた。
呼吸器が痛い。口の中に血のような味が滲んできた。
ビルの隙間から開けた空を見るのが好きで、私は空き地に寝転ぶ。
雲は渦を巻いている。
突然、空き地の目の前の道の向こうから、こちらへ向かってくる激しい音がした。
近づいてくるガソリンと焦げた匂い。
赤ちゃんの人形が付いた火炎放射器が、辺りにガソリンを撒き散らし、近くのものを焼きながら目の前を通り過ぎていった。
私は衝動に駆られた。
走ってその火炎放射器に付いている縄を捕まえると、自身が焦げていくことも構わずに引っ張り、渋谷の駅までの元来た道を走り始めた。
マクドナルドが近づいてきた。
火炎放射器が激しく抵抗する。
とうとう縄を掴んでいられなくなって、手を離してしまった。
火炎放射器は文句を言うように縄を鳴らしながら、速度を上げてどこかへ行ってしまった。
このまままたどこかを焼き始めるのだろう。
身体中の火傷が熱い。服がへばりついてむず痒い。
疲れた。
放心状態で、何も考えられずトボトボと歩いた。雲は相変わらず渦を巻き、今にも竜巻をこの地上へ降さんと狙っている。
気付くと私は、坂を登り切った上を歩いていた。
信仰宗教の真っ白い建物が、眩しく光っている。
ヴィヴィッドな教祖の写真が私を嘲笑っているように見え、ハッと我に帰った。
私はアレを止めねばならない。
さっきまでの衝動を思い出した次の瞬間、目の前の広い坂道を駆け降りた。
昼間なのに何故か閑散とした渋谷。空からの攻撃を受け止める為に、バリアを張っているかのような渋谷。
人気のない渋谷を走り抜け、ファーストフード店のあるアーケードへ走り込んだ。こんな渋谷は知らない。見たことがない。
店の入り口には、さっきまでの激しい動きを止めた火炎放射器が不気味に鎮座していた。
戦車のような下半身、キューピッドのように矢を構えた赤ちゃんの人形、そしてその矢の先に黒々と光る炎の吹き出し口。
火炎放射器を捕まえたのは私の母だった。
母だけでなく、妹、妹の子供達も店内の椅子に座ってハンバーガーやポテトやナゲットを美味しそうに食べ、コーラを飲んでいる。
甥っ子や姪っ子、みんなに怪我がなくてよかった。
火傷だらけの身体でそう思うと、私は目を閉じた。
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