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三体Ⅱを読みました。

SF小説が好きです。特にクラシックなものが好きです。純文学や歴史小説はほとんど読みません。その為、有名な邦作家さんや誰もが知っている作品を知らないことが多く、本物の本好きの人と話をすると知らないことだらけで終始ハラハラしてしまいます。あと、ネコがとても好きです。

「三体Ⅱ暗黒森林」を読み終わり、三体Ⅲまでの記憶の維持や期待を込めて、ネタばらしはせずに、感じたことを書き散らかしたいと思います。そのため、あらすじやキーワードの解説などは行いません。結果的に内容の薄い文章になっています。

この下に貼った「好書好日」の特集にいろいろ詳しい解説やインタビューが掲載されててよかったです。詳しく知りたい人や既に読了した方はこちらをご覧いただくと良いのかなって思いました。

三体の読み方 〜SF小説に慣れていない人へ〜

三体は中国の小説家、劉 慈欣(リュウ・ジキン)著の作品が原作です。日本語版は、SF小説の翻訳者として超有名な大森 望さんが中心となり他の翻訳者や作家と協力しながらリライト(改稿)されたものです。三体Ⅰの英語版は、ケン・リュウ(「紙の動物園」が有名なアメリカのSF小説家)が翻訳をしたことでも有名です。(三体Ⅱ「The Dark Forest」はジョエル・マーティンセンが英訳しています)オバマ元大統領や、ザッカーバーグが称賛したことで世界的大ヒットをした超大作です。(いちいち説明しなくてもわかりますよね。すみません。)

とてもエンタテイメント性が高く、スリリングにテンポよく展開してく為、読み始めから割とすぐに引き込まれ、物語の世界を、まるで映画館で見ているような臨場感や没入感で体験できる(これを私は「ゾーンに入る」と勝手に言ってます。)作品です。はっきり言って、三体は初心者向きです!まるでガンダムやスター・ウォーズを見ているような壮大でちょっと古臭く分かりやすいストーリーになっています。最近のモダンなSF小説は、もっとミクロなテーマが多く、サイバーパンク一辺倒だったり個人や精神性にふれる内容が多いのですが、本作は小難しすぎることもなくとてもおもしろい内容です。

ただ、SF小説ですし、中華系小説の為、慣れていない人はもしかしたらなかなか読み進めるのに苦労する場合もあるのかも知れません。少しだけ私の読み方をご紹介します。

難しい漢字は勝手に雰囲気で読み方を変えてもいい

三体Ⅰも三体Ⅱも主要登場人物が中国人であるため、普段使っている音読みと違い、正確に読もうとすると中々頭に入ってきません。「葉文潔(イエ・ウェンジエ)」や「楊衛寧(ヤン・ウェイニン)」、「史強(シー・チアン)」、「羅輯(ルオ・ジー)」「章北海(ジャン・ベイハイ)」「智子(ソフォン)」などなど。本の中では適所でルビを振ってくれているので頑張って正確な音を覚え読み進めても良いのですが、覚えるのに苦労してゾーンに入りにくいくらいなら、適当に雰囲気で読み方を変えちゃっても良いんじゃないかと思っています。私の場合は

 葉文潔・・・ヨウ
 史強 ・・・シキョウ
 羅輯 ・・・ラシュウ(後半は「ルオ」って呼んでいました)
 章北海・・・ホッカイ(後半は「ジャン」って呼んでいました)
 智子 ・・・トモコ(人物ではないですが作中でも「彼女」という三人称が使われます)

という具合です。他にも「ワンさん」「ヤンさん」「チャンさん」「テイさん」「ソウちゃん」と言った感じに置き換えていました。登場人物表が付録されているのでそれを常に置いて読み方確認しながら読み進めるでも良いかも知れませんね。

科学用語はあんまり気にしない

三体は「ハードSF」というジャンルに分類されます。科学的な知見や理論を物語の骨組みにしているスタイルです。その為、作中はとにかく難しい言葉がたくさん出てきます。

おそらく映画などの映像でみたら「なんか分からないけどすごい技術なんだね」で流せるものも、文章として見ると気になって頭に入らなくなる人もいるようです(理系アレルギーのようなもの)。

しっかりとした科学理論に裏付けされた仕掛けが及ぼすストーリー展開や伏線回収こそがハードSFの醍醐味ではありますが、慣れていな人はこれもあんまり気にすること無く、読み進めちゃってもいいと思います。

例えば、作中で新しく開発する宇宙船のエンジンについて「媒質型核融合推進」と「放射ドライブ推進」の議論がありますが、燃料が必要な物とそうでない物くらいに押えておけば良いのかなと思います。ファンタジーでは無いですがフィクションなので登場する物理や技術はそういうものだと順応していくのが正解です。でも、三体Ⅱ下巻に出てくる200年後の未来世界は、突飛な技術革新が無かった前提で描かれて折り、なかなかリアルな描写だなと私は印象深かったです。

ハードカバーは重たい

私は紙の本ばかりを買っています。読み終わった本をいつも目の届く場所に陳列し達成感のようなものを感じていたいからだと思います。漫画や技術書は電子書籍で読むことが多いです。

三体に限らず新書はハードカバーが多いので、ちょっと持ち歩いたり電車の中で読書するには少し重く、腕力が必要です。重たいのでちょっと嫌だなという人は、電子書籍でも全然OKだと思います。三体Ⅰも三体Ⅱも、もちろん電子版が出版されています。

最近、老眼なのか小さな文字が霞んで読みにくい時があります。電子書籍だったら文字サイズを大きくしたりも出来て良いですよね!あとハードカバーは思いですが筋力強化になったり、読み終わったら古本として売りやすかったりもしますね。

作品を読んで感じたこと 〜引用・オマージュ・リスペクト〜

著者の劉 慈欣は、本当にSF小説が大好きなんだなーと強く感じました。もしくは、SF小説が好きな読者の心の掌握術を完璧に会得しているかです。ともかく、SFファンの心を鷲掴みするような引用やオマージュ、リスペクトを要所で感じる内容となっています。SF大好きな劉氏の考える「最高のSFエンターテイメント見したるぜ!」が押し寄せてくる作品です。

まさかの、「銀河英雄伝説(田中芳樹著)」ヤン・ウィンリー(自由惑星同名の主人公)からの引用は胸が熱くなりました。「ファウンデーション(アイザック・アシモフ著)」のハリ・セルダンへの言及の際には、主人公の羅輯が葉文潔から託された「宇宙社会学」とハリ・セルダンの「心理歴史学」が頭の中で共鳴し鳥肌が立ちました。(ただ、その時はまだ中盤だったので、大いなる計画のような物を勝手に想像していましたが、読み切った後は良い意味で裏切られた気持ちになりました。)

私は勝手に、アシモフ/クラーク/田中芳樹/小松左京/ホーガン/谷甲州 の各作品を思い出したりもしました。つまり、面白いと思う作品のエッセンスが本作にはとにかく沢山盛り込まれているということです。

「わたしがきみを愛しているとして、きみがそれとなんの関係がある?」というゲーテの言葉も作中で引用されています。私はこの言葉を知らなかったのですが、この言葉のもつ意味や恐怖、作品後半で暴かれる「暗黒森林」という言葉へとつながる伏線回収は素晴らしかったです。

邦訳の素晴らしさ

私は中国語がわかりません。中国文化もわかりません。英語も得意ではありません。海外の映画や小説で日本人や日本文化が描写されたものに触れた際に違和感を感じる事ってありませんか?文化も言語も違う場合、おそらくコンテンツを配給する主たる文化圏で持っているイメージやステレオタイプにあわせてデフォルメされることがあるのだと思います。

本作でも日本人が登場したり、日本文化的な部分に触れるくだりが何箇所かあります。特に「神風特攻隊」や「原爆」の話、京都の自宅で想いを打ち明ける科学者の話など。しかし、日本人の私が読んでも、全然違和感が無いのです。そのためB級作品になっていません。

暗黒森林の「訳者のあとがき」部分を読むと、本作の翻訳・改稿の努力やご苦労がひしひしと伝わり頭が下がりました。というか、訳者さんの情熱やプロとしての仕事があって生まれた日本語版なのだなと強く感じました。ありがたいことです。

まとめ

・圧倒的な科学力を持った異星人の侵略
・それに向き合えず、右往左往する人類
・人類が人類に対していただく絶望や諦め
・苦肉の策で考えらたとんでもない計画と選ばれたヒーロー(一般人)
・ヒーローも人間だもの。失敗するだもの。
・苦難を乗り越えたどり着いた究極の真理
・要所で登場するやたらと人間臭い宇宙人

これだけ見るとなんか、すごいバカ小説に見えませんか?
はい。ある意味すごく単純で古典的な小説です。だから面白いのです。
しかも、シンプルですがその一つ一つの描写や構成、物語中で描かれる頭脳戦(何回も裏をかかれます)はとても素晴らしく読み応えがあります。

また来年「三体Ⅲ 死神永生」が発売されたら、改めて三体Ⅰ三体Ⅱを先頭から読み返したいと思います。それと、どうやら三体って映画化(ドラマ化?)が企画されているようですね。AppleTVで来年開始予定のファウンデーションとあわせて楽しみでなりません。


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