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小野耕資「権力のコバンザメ吉本興業」(『維新と興亜』令和5年7月号)

 前号に引き続き政治と芸能について論じたい。
 本年五月十七日、大﨑洋の吉本興業会長の退任と「大阪・関西万博催事検討会議」の共同座長への就任が発表された。近年の吉本興業は権力に近づくことでその隆盛を担保してきた。その路線を引いたのは大﨑だと言ってよかろう。
 大﨑は二〇一八年に内閣官房まち・ひと・しごと創生本部事務局「わくわく地方生活実現会議」委員に就任するなど、政府系の委員も務めてきた。また、大阪においては日本維新の会とも密接であり、特に大阪万博には大﨑ら経営陣のみならず、所属タレントまでもが露骨に旗を振っていることで知られている。そしていよいよ大﨑が万博関連の仕事に異動したという形になったわけである。権力者にとっても、自らがやることをマスコットとなって盛り上げてくれる芸人は使い勝手がいい。そんな背景もあってか、吉本興業所属芸人がニュース番組のコメンテーターを務めることが多くなったのも前号論じた通りである。
 例えば岸田総理の息子である岸田翔太郎が総理秘書官を六月一日に更迭された。昨年末の「首相公邸忘年会」で不適切な写真撮影を行っていたことが暴露されたためである。この事件に対し、笑福亭鶴瓶(松竹芸能→個人事務所)は以下のようにコメントしている。
 「総理もちょっと考えなイカンですよね、自分の息子のこと。あんなもんヒドイですよ、アレ」「自民党もそうですし、野党ももっと怒らないとアレ。『こんな躾してんのか』と」「もう辞めるべきですよ、そんなの。辞めさすべきやし」「アホばっかりやな。ンなもん。腹立ってしゃあないわ」「親戚も『やめとこ』って言うのん、誰かおるやろ」
 きわめて常識的な反応と言える。
 対して吉本興業所属、「ブラックマヨネーズ」吉田敬の反応は次のとおりである。
 「この件で、また国会の時間を使うのか。それは勘弁してくれや。国会はもっと、少子化対策にはオムツは何才まで無料でできます!じゃあメーカーは? 何才まで? みたいな、具体的な話に使って欲しい。これでまたどう責任とるんすか?とかになんのか? それは、ファミレスでやれや」
 ずいぶん政権擁護的だと呆れるが、なるほど政争ではなく、具体的な政策議論を行うべきだという意見は一定の世論でもあるともいえる。
 しかしこの吉田敬、自身が安倍・菅政権寄りなのではないか? とツイッターで突っ込まれたとき、「去れよカス」と暴言を吐き、大阪維新の会の熱烈な支持者であり、同党が推進する大阪都構想に賛成していることを知ると、別の顔も見えてくるのではないか。
 吉田は、日頃から吉村洋文大阪府知事や元府知事の橋下徹氏などを持ち上げている。大阪万博の話題においては、吉田は「万博なんか楽しみでしかない」と語り、またコロナ禍であることやそもそもインバウンド目当てであることなどが批判を集めた東京オリンピックについても、「(東京)オリンピックをせなあかん」と熱烈支持を表明していた。
 更に二〇二〇年、住民投票によって大阪都構想が否決された際には、「子供の養育費、給食、塾、妊婦さんの検診費用。他にもたくさんのお得がある♪未来の人の事を、己の給料を削ってまでやってくれた政治家の夢が、今日、散った。最高だった大阪が、一夜で、最悪に変わった」と悔しまぎれにツイート。さらに、同都構想においては高齢層に反対が多かったことを受け「老人から選挙権を取り上げろ」と暴言を吐いた。
 ちなみに、毎日放送の元日特番において、橋下徹、松井一郎、吉村洋文がそろって出演し、政治的な話題をして「政治的中立性に疑義がある」と批判を集めたが、その番組は「東野&吉田のほっとけない人」であり、吉田はその番組のMCを務めていた。
 今回取り上げた吉田敬は一例であり、このように自民党、日本維新の会寄りの発言を隠さない吉本興業所属芸人が続出する背景に、「会社の方針」を疑いたくなるのはうがった見方だろうか?
 最後に余談ながら私は「ブラックマヨネーズ」の漫才は大好きである。ぜひ吉田には政治コメントではなく漫才を披露していただきたいと願う者である。

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