「日本」は縄文人がつくった。小林達雄著『縄文文化が日本人の未来を拓く』が文化的遺伝子で解き明かす「日本」の意味
首都圏は非常事態宣言が続いていることもあり、なかなか縄文の異物を眺めに行けない日々が続いています。まあ博物館や郷土資料館は空いてるので、行こうと思えばいけるんですがね。
そんな事もあって、縄文不足を補おうとちょっと本で勉強しようと思い立ちました。ということで、まず読んだのは小林達雄先生の『縄文文化が日本人の未来を拓く』です。
現代から見た縄文文化の意味を200ページあまりに短くわかりやすくまとめた本なので、なんでいま縄文が注目されてるのか、なんで自分は縄文に惹かれてるのかと思っている人はぜひ読んでください。数時間で読み終えられると思います。
人間は動物ではなくなり文化圏をつくった
この本でまずはっと思ったのは、縄文時代に日本列島の人類は定住して、ムラという人工の空間を作ることで動物ではなくなったという視点でした。それ以前の遊動生活の時点では火や言葉は使っていても生活スタイルとしては他の動物と変わらず自然の中で生きていたのが、「人工」の空間を作ることで人類はヒトになったというのです。
なんとなくヒトは動物とは違うと思っていましたが、そうなった瞬間が明確にあったというのは発見でした。そして、ということは定着を始めた人類が文化を共有したエリアが現代まで続く文化圏となったのです。
この本では、縄文土器や翡翠という文化指標によって、縄文文化の文化圏を北海道から沖縄までに置き、今の日本とほぼ同じ範囲としています。そして、そこで文化圏が区切られた理由は「言語」にあったといいます。
対馬では縄文土器が見つかるけど、朝鮮半島では見つからない、その理由はその間で言葉が通じなかったからだと。まったく同じ言語でないにしても言葉が通じなければ、共通の文化を持つことはかなわない、それが日本列島を一つの縄文文化でまとめたというのです。
文化的なまとまりをつくるのは地理的な条件だけじゃないというのはなるほどと思いました。
沖縄の縄文土器
日本の共同体意識と縄文
この本のメインの内容は、小林達雄先生がずっと言っている日本の縄文文化が正当に評価されていないという恨みつらみで、他の本を読んだことがある人にとってはすでに知っている内容も多いです。
しかし、これまでの研究成果を、現代の日本人に伝わる「文化的遺伝子」という視点で整理し直してあってわかりやすく理解できます。現代の日本人の思想、主に自然崇拝をベースとした宗教観の起源が縄文にあり、それが脈々と続いていることを、山岳信仰などをモチーフに説明しています。
中でも面白かったのは、ストーンサークルの形から当時の共同体のあり方を推測しているところです。
秋田県の大湯を始めとしたさまざまなストーンサークルの形を見ると、きっちりとした円形をしていないところが多かったり、同心円の場合に2番めの円が不完全なのに3番めの円の一部が作られていたりすることが多いそうです。
小林達雄先生はこれを、周辺のムラがそれぞれストーンサークルの一部を担当しているために、出来上がりが均一ではなかったり、あとから参加したムラが外側に円を広げていったことでアンバランスな形になったというのです。しかもそのストーンサークルの制作は何世代にも渡ったと。
さらにこのストーンサークルづくりは、年に1回数日とか数週間という限られた期間に行われたという説を披露します。
つまり、ストーンサークルづくりは周辺の村々が集まって行う祭りであり、小さな強固な共同体が集まってできるゆるい大きな共同体の統合の象徴だということなのです。
ローカリゼーションと共同体
この話を読みながら思ったのは、グローバリゼーションが進みすぎた現代において、ローカルの小さな共同体への回帰が進みつつあるということです。
その理由はグローバリゼーションの行き過ぎによる貧富の差の拡大等と言われていますが、もともと私たちは小さな共同体で暮らすという文化的遺伝子を持っているのかもしれません。だから、共同体が大きくなっていくとどんどん居づらく、生きづらくなっていくのではないか、そんなことを思いました。
あくまで「そうかもなー」というぼんやりとした感慨に過ぎませんが、縄文の遺物に惹かれる気持ちと同じような感覚がそこにあるようにも思ったのです。
この本はあまり「日本人の未来を拓く」指針を示してくれているわけではないですが、縄文人の共同体の有り様は、これからの日本の社会のあり方のヒントになるんじゃないかという前から思っていたアイデアは少し強化された気がします。
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