はじめに (石村)|making for daily life
自宅を改修して
44.5㎡の小さなマンションを妻が購入した。僕(Ishimura+Neichi)が設計を行い、事務所で知り合った近所の職人さんと協力して工事を行って早三年。色々ありながら、毎日手直しを考えながら暮らしている。何故、手直しをしてるかと言えば、夫婦の掃除担当は僕であり、掃除がし易くなれば、家事の時間が少なくなり自分の時間に当てられると考えていたからだ。
モノの置き場と掃除
引っ越して早々、掃除の問題が発生した。暮らしながら家具を揃えようと意気揚々と新生活を過ごしていたが、家具が無いとモノは床に置かれることが多くなり、部屋が散らかりはじめた。何故掃除に時間がかかるかと言えば、掃除機をかける度にいちいちモノをどかさないといけなくて、たまになら動かしてもよいけど、夫婦共働きということもあってお互い心に余裕は無く、モノはどんどん床や椅子に置かれていった。引っ越し前想像していた理想の暮らしとは程遠い。改善するために家具を沢山調べたけど欲しい家具はいわゆるデザイナーズ家具で高くて買えないし、俗にいうシンデレラフィットの家具は既製品でみつからない。致し方なく少しづつ家具をDIYして部屋を整えていくことにしたのだが、僕は不器用で、おっちょこちょいということもあって、丸ノコでカットするなんて怖くてできない、DIYをするにしても、自分の能力の無さに絶望するのでした。
掃除のしやすい家具とは?
自分の能力の無さを嘆きつつも、嘆いてばかりもいられないので、簡単につくれる方法で家具を考えていくことにした。簡単な棚をつくってモノを収納していくと掃除がしやすくなり、掃除担当の僕は嬉しくなり、どんどん棚をつくっていく。これで掃除がしやすくなるな、、、と暮らしていると、夫婦二人だけの家に急に犬がやってきた。犬は自分の縄張りをつくるためにマーキング(オシッコ)を棚にしはじめる。棚はモノが収納されてるので重く、棚下を拭くためには一度モノをどかさないといけないので、かなり面倒。完璧だと思っていた棚は家の環境が少し変わっただけで、掃除のしにくい家具に変わってしまった。とは言えこのままでは掃除のし辛い日々に戻るだけなので、棚を少し浮かせ、おしっこをふき取りやすく手直しをして、場当たり的に改善をしていった。
空間に馴染む普通の家具
自分で自宅を設計したこともあって、建築のキャラクターが少し立っている。なので、家具の存在が空間に違和感を与えないで、馴染むことが重要だった。奇抜なカタチは入らないし(家具が目立つのではなく置いたモノが目立ってほしい)、モノが置きたくなるような、でも犬のこともあるので、掃除もし易すく、普通のカタチをした家具。そんなことを思いながら、僕は掃除をしながら仕事をしているのか,,,,?と錯覚しながら日々を過ごしていくと、少しずつ自分が望んでいる家具のカタチが頭に浮かんでいるような気がした。
日々の生活と試行錯誤
完璧な家具だと思って置いてみると妻からは良い家具だねっていう言葉はほとんどなく、「また家具のレイアウトを変えて、折角覚えた習慣を乱すのね、とりあえず生活してみないとわからないから、良い悪いの判断は直ぐにできない」と言われることが多く、こっちは折角つくったのに、と気落ちすることもしばしば。生活の中でフィードバックを言われ、僕は家具のプロじゃないし、このDIYは仕事でもないから、腹ただしく、しかし、一応僕がつくったから、できる限り手直しをした。だから、この家具は今僕が過ごす環境の中での試行錯誤がそのまま現れていて、プロダクトデザイナーや家具屋さんからすれば、みるに耐えないデザインかもしれないけど、3年前購入することを前提に自宅の家具を揃えようとしていた僕なりの反省で、プロフェッショナルなモノとアマチュアリズムなモノが共存できるということへの挑戦でもあるのか、と暮らしながら気が付いた。そして、考えた家具はどれも自宅で使っていたモノやリスペクトしているデザイナー、現場で施工頂く職人さんに大いに影響を受けているモノばかりで、プロフェッショナルとしてのモノを考える素晴らしさとアマチュアとしてつくる喜びを改めて考えるきっかけにもなりました。
誰の為のデザインか
「世界のデザイナーの95%は、世界の10%を占めるにすぎない最も豊かな顧客向けの製品とサービスの開発に全力を注いでいる」 という問題提起からはじまった、”Design for the other 90%: 残りの90%のためのデザイン”という展示の存在を妻に教えて貰った。この問題提起は僕自身も無関係ではなく、誰のためにデザインをしていくか考えさせられる内容でした。まだ明確な答えはでていないけど、少しでも自分の職能を多くの人に役立てたいという気持ちが高まったのは事実で近所の人たちと行っている、あだちシティコンポストの活動もその一貫と言えるかもしれない。 しかし僕は建築家なので、カタチとして日々の生活の役に立つこともしたいという欲求も同時に生まれてきました。そこで、僕が生活をしながら試行錯誤した家具のレシピを公開することで自分が設計として関われない人にでも、生活の中で役立つきっかけになるかもしれないと思い、簡単な資料を妻と一緒に作成しました。ちょっとDIYできる人は写真だけみればある程度つくり方はわかってしまうと思うので、つくり方まで詳しく知りたい!という人は購入してみてください。レシピはPDFになっていて、材木のカット寸法などその資料をそのままホームセンターに持って行けばつくれるようになっています。板の勝ち負けなど間違えやすい箇所のアドバイスも記事に書いてあって、改造レシピもいくつかのっています。又、このレシピを自分なりに参照して頂き、より良い家具が生まれることを期待しています。自宅家具の多くは僕が関わっている現場の廃材を使っていることが多いので、今回のレシピはホームセンターで購入しやすい3×6板を使いなるべく無駄なくつくれるようにデザインし直しました。ただし、DIYレベルの家具なので詳細な検証は行なっていません。もしかしたら不具合が生じるかもしれませんが、大目にみて頂き一緒に試行錯誤しながらDIYを楽しみましょう。
生活の環境から変わっていった思考
暮らしながらモノを動かして、掃除をしながら、また考えて、増えていくモノが置いても違和感がないように、生活をしながら考えていると、DIY家具に不思議と愛着が生まれ、今では何を作ろうか?と日々暮らしながらつくることを前提に暮らすように思考が変わっていきました。人間とは環境で考え方がガラリと変わってしまうのだと素晴しくも感じ、同時に怖さも抱きました。とは言え、この経験はかけがえのないモノであり、僕自身のこれからの設計に大きく影響を与えてくれるのだろうと大変楽しみでもあります。是非皆さんもつくることを通じてナイスな生活をつくり出してください。
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この家具を考えるにあたって、色々なアドバイスと工具と場所を提供してくれたLRFの皆さんとこの資料のインスピレーションを頂いた「Hammer & Nail : Making and Assembling Furniture Designs Inspired by Enzo Mari」の作者であるErik Eje Almqvistさん、様々な現場でつくることを通じて僕につくり方を教えて頂いた職人さん、毎日フィードバックしてくれた妻と日々のおっしこチェックを通じて掃除の重要性を教えてくれた犬(琥珀)に感謝申し上げます。
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