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情報社会を生き抜くための本56「オードリー・タン」その6 ソーシャル・イノベーション(オードリー・タン)

「一人も置き去りにしない」という言葉は、アメリカのNCLB法(No Child Left Behind Act)による教育改革を思い浮かべてしまうが、オードリー・タンは社会全体をデジタル化するにあたってこの言葉を掲げている。

境界をとりはらうことから始めたオープン・ガバメント。執務するオフィスは歴史ある建物にあったが、その建物を覆う壁を壊してしまう。通りを歩く人は、「あ、オードリーがいる。」といって入ってこれるようにした。これもオープン・ガバメントだという。それは外形的な取組。デジタル技術で省庁の壁を壊す。「デジタル技術は、『上から下へ、下から上へ』という垂直の情報システムを横断的に連結でき、そのことが幸せにつながるオープン・ガバメントになる。」

「公僕の中の公僕になる」と宣言したオードリーは、自分自身が「何かを変えたい」ということを捨てる。社会が望むこと、市民の知恵が最も大切でITを活用して何ができるかを考えるのが自分の役目だという。AIについても、Ariteificial Intelligence ではなくAssistive Intelligenceと捉えるべきと考える。オードリーの思考は常に優しい。「・」で連結するイノベーションという考え方もそうだ。我々が日常的に使っている「○○的○○」は、平等な捉え方ではない。例えにつかっているのは「社会的企業」。「社会的」が形容詞だと、やはり企業を修飾するものとして「社会」が捉えられる。社会問題を解決するのが企業だという考え方もある。だからオードリーは「社会・企業」と「・」で連結する。「・」こそイノベーションであるという。このような考え方の根っこにあるのが多文化国家である台湾のインクルージョンあるいは寛容の精神なのだという。やおよろずの神がいるとする日本人の考えとよく似ていて台湾でもどんなものにも精霊が宿るという考えをする。その考えが「神は一つ」と主張し他を排斥する思考にならず、インクルージョン、寛容を生み出す。日本も台湾も寛容が精神的な柱になっている。

オードリーは、20代のときに男性から女性に性をかえた。自分自身の男性ホルモンが少ないことからトランスジェンダーであることを知ったためだ。唐鳳(オードリー・タン)と名前もかえる。オードリーは男性でも女性でも使える英語名。そして、漢字の「鳳」をあてると日本語の読み「おおとり」にもなる。そのことを承知で名前をかえている。自分はマイノリティだ、だからこそできることがあるとオードリーはいう。だからオープン・ガバメントが重要なのだ。

台湾の文化は、漢文化・西洋文化・日本文化でなりたつ多文化である。これは台湾に旅行するとだれもが強く感ずるはずだ。むしろ昔の日本文化をしっかり残している。妙に懐かしくて安心感に満ちてくる。オードリーが、いつも彼ならどうするだろうと考える李登輝元首相は、自分は日本人が80%と言ってはばからなかった。李登輝は本省人と話すには、まず日本語で考え、台湾語に直し、それを漢語に訳してはなしていたという。

あー、台湾にまた行きたい。



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