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ひきこもりが元気で幸せになる道をいろいろ考えてみました③

(ひきこもり大国ニッポン2019、改題)
(石川清)

 僕は2000年頃からひきこもり支援にたずさわっています。主に訪問支援や家族教室、若者の集いなどを埼玉県朝霞市で行っています。訪問支援の範囲はほぼ関東全域となっており、またひきこもりの当事者と一緒に、国内各地や海外へ一緒に旅行に出かけたりしています(というか、趣味や仕事が旅だったりします)。

 僕はNGOのピースボートが実施している洋上フリースクール「グローバルスクール(Grobal School)」の活動に協力していて、よくナビゲーター役として10日〜4週間ほど、旅の初めに乗船しています。

 さて、そんなピースボートに乗っている時、僕はほぼ毎回「ヒキコモリ大国ニッポン」という講演をしています。このタイトルはもう10年前についたもので、果たして今の時代に適したものかどうかはわかりませんが、ただ10年前にはこういう認識だったということを忘れないという意味では、思い入れのあるタイトルの講演となっています。

 さて、最近はピースボートも海外の旅客が多くなり、講演で話す内容を事前に原稿でまとめて、事前に数カ国語に翻訳しておかなければいけなくなりました。そこで、2019年12月〜2020年1月に僕が乗船している期間に講演した内容の要旨を、noteで発表したいと思います。

 僕のひきこもり支援について考えている要旨や一部をまとめてありますので、何かの参考にしていただければ幸いです。

 蛇足ですが、コロナ禍でクルーズ船の運行が活動の柱であるピースボートも深刻な影響を受けていそうです。若者やひきこもりの癒しや成長の場でもあるので、なんとか活動を再開、継続してほしいですね。

 さて、この③で今回の一蓮の記事は完結です。完成が遅れてすみませんでした。僕個人が具体的に実践していることや、現場での体験から自分なりに見えてきたものなどを記してあります。実際にアウトリーチの現場にいる方には、ほんの少しは参考になるかと思っています。

 5)「ひきこもりの早期回復や改善のこつ」では、18歳以前、20歳前後から30代前半まで、30代後半以降の3つの時期に分けて、改善のこつなどを簡単に紹介しています。また、中には自分をオープンにできず、頑なに押し黙ってしまうために、社会参加できない人もいます。これはかなり重要な問題と考えていて、そういった時にどう対応するかなど、ポイントを紹介しています。この章の途中から有料の記事となります。

 6)「アジアを歩いたひきこもり」では、異国への旅を通して、ひきこもりの若者の成長をはかる旅療法について簡単に書いています。少しここに書いた別の記事とも重なっているかもしれませんが、基本は別に書いたものです。参考になるかと思います。

 この記事の収入については、ひきこもり支援活動の資金として大切に使わせていただきたいと思います。この原稿を書いているのは2020年の5月中旬で、実は新型コロナウィルスの感染拡大で、日本国内も大混乱の最中です。僕が埼玉県朝霞市で主宰しているCVN(コミュニケーション・ボランティア・ネットワーク)の毎月の家族教室と若者の集いも2〜6月を中止と決め、7月もどうなるかわかりません。(個別面談や訪問支援はコロナ禍でも実施しています)

 家族教室は補助や助成をほとんど受けていない僕にとって、重要な自己財源でしたが、思わぬ事態にけっこう困っています。皆さんも同様と思いますが、もしよければ購入やサポートなど、よろしくお願いいたします。

 また、トータルの分量が多いため、3つに分けて、発表する予定です。(つい加筆しまくって、この記事だけで11000字を越えてしまいました。どうもすみません)

             2020年5月14日 石川清


全体の目次
1)ひきこもりとは何か?
2)ひきこもりは日本にどれくらいいるの?
3)ひきこもり支援の問題点
4)20年の小さな支援で見えてきた多様なタイプ
(以下が今回掲載されている部分です)
5)ひきこもりの早期回復や改善のこつ
6)アジアを歩いたひきこもり


5)ひきこもりの早期回復や改善のこつ

 こうすれば必ずひきこもりは元気になる、という方法やマニュアルはありません。

 僕の場合、訪問こそしていますが、原則としては個別での対応が基本です。とはいえ、それでも20年ほど支援活動を続けて見えてきたものはあります。タイプ3や4(②参照)という、重度のひきこもりであっても、その改善のヒントはいくつかあります。

 現状では、3、4年の訪問支援を繰り返してもだいたい50%程度の改善にしか至っていないのですが、参考にしていただければと思います。

①18歳前後以下。本人が自ら動きだす状況を作ろう!

 12歳から18歳の間は、思春期の後半で、ほおっておいても人は自分からいろいろな活動をする時期です。

 恋愛など、その典型でしょう。この時期のうちでしたら、僕はできるだけ早期に、本人が自分の意思で動きだせるように、当事者の周囲の環境を整えるサポートに努めます。やはり早く改善できるにこしたことはありません。

 例えば14歳前後での離島などへの山村留学などは、早期であれば有効です。

 親の意識の改善、居住環境、時には治療、さらに様々な刺激も必要です。もちろん、当事者が過度に疲労したり、ストレスを溜めたり、症状などがみられる場合は、休息や治療などを優先するのは言うまでもありません。

 日本では16歳から18歳の間の義務教育を終えた高校生の時期が、心身の変化の多い若者にとって修羅場の多い大変な時期となります。ひきこもり治療に長年携わる精神科医の中垣内正和さんと話した時も、そう指摘されました。

 高校時代は、かなり傷ついたり、不安定になっても、適切な支援や助けをもらえないことが多いです。義務教育でもないので、ちょっと荒れただけで、学校から放逐されてしまうこともあります。

 若者たちは核家族化やひとりっ子の増加、異動の多いサラリーマン世帯の増加で地域のコミュニティーから引き剥がされて幼なじみや親友を作りにくくなっており、自力で思春期の問題を解決できずに、逃避(例えばひきこもり化)せざるをえないこともあります。

 この高校生年代で部屋にひきこもって、時にはネットやゲームに過度にはまってしまうなどして、長期ひきこもり状態に陥るケースは少なくありません。

 ただし、ネットやゲーム自体が短絡的に悪いわけではありません。それはあくまで程度や頻度、質の問題だったりします。最近のゲームには情操面や学習面を鍛えたり、複雑な発想を促す教育効果の高いものもあります。適度に遊ぶのはあまり問題ではありません。

 問題なのは、青年を頑なな孤立に追い込み、追いつめる社会や大人たちのあり方や考え方にあると言えそうです。

 また、ゲーム依存の深刻な状態の時には布団にこもって、ごく単純なスマホのゲームばかりを毎日何十時間も続けて、それが数年、十数年にいたる場合もあり、その場合は重度のゲーム依存と言えそうです。

 だから、幼い時からひきこもり傾向のある当事者とその家族には、できれば中学2年生の時(14歳)までに思い切った経験をするよう勧めています。

 日本の中学生の年代は、15歳の中学3年生になると高校受験が控えています。すると、どうしても思い切った冒険ができなくなります。

 そこで、その前の年。中学2年か1年のうちに、それまでと違う、ちょっとした冒険などの「いい刺激的な経験」「感動的な体験」を積むことを勧めています。

 とはいえ、単に勧めて成し遂げられるような単純なものではありませんので、念のため。本人の意識をそういう方向に持っていくのはたいへんですよ。

②20歳前後から30歳前半まで

 この年代で疾病のある人は、治療やケア、休息が必要となります。それで改善すれば問題ないのですが、それだけでは十分ではないことが多いです。

 この年代はまだ若いです。

 しかし、10代の頃に比べると、どうしてもエネルギーは減ってしまっています。そんなエネルギーの減じている時に、あえて本人を一人で放置しておいて、「自分でなんとかしてほしい」と期待しても、簡単には改善しません。

 この辺の対応を間違えると、ひきこもり状態が長引いて、8050問題まで発展してしまうこともあります(ひきこもり状態が50歳以上まで続いてしまう状態。その年代になると親の健康状態も崩れて、生活や生存に支障が出ることがあります)。とはいえ、心が傷ついたり、生活に疲弊して燃え尽きかけている若者には休息は必要です。わからない場合は、経験のある支援者に助言してもらうことをお勧めします。

 特に20歳までの間に、ある程度成熟するに足るような一定の経験(教養や経験値)をまだ積んでいない場合、何らかの周囲の大人や友人のサポートがあったほうがいいと思います。この成熟度については、僕はかなり重視しています。

 ひきこもり状態が長くなると、脳や心、体の成長に合わせて本来人間が吸収、体験すべきだった経験を、その機会やチャンスを逸したままに年齢を重ねることが多くあります。

 多少の不十分な経験程度でしたら、全く問題はありません。むしろ、人間が成長していく過程では、完璧にこなし続けるということはありえず、多少不十分というのは“普通”です。挫折や試行錯誤は怖がる必要がない、生きていくうえで必然のものということもできます。問題は本人が未成熟すぎると、そこで成長や発達が止まってしまうことがあって、そうならないように周囲の大人たちが気を配ることが肝要です。

 ただし、ひきこもり中の思考や行動はかなり偏ってしまうので、多少どころではない大きなバランスの乱れが生じることがあります。だから、ひきこもり経験が長い人の場合、他人に幼い印象を持たれることがあったり、実際に幼い部分があることが多いです。

 すでに人前に出ることさえ困難になっていることもあります。そうなると、周囲の人からの多少のサポートが必要となることが多いです。

 その時に必要なもののポイントは以下の通りです。

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サポートしていただければ幸いです。長期ひきこもりの訪問支援では公的な補助や助成にできるだけ頼らずに活動したいと考えています。サポート資金は若者との交流や治癒活動に使わせてもらいます。