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自分に期待する谷口彰悟が、僕らに与えてくれたもの。(後編)

2022年12月28日、カタール1部リーグのアル・ラーヤンが谷口彰悟の完全移籍をクラブ公式SNSで発表しました。そして入団会見の様子も。

赤黒カラーのユニフォームなんですね。

新天地での新しい挑戦が始まりますね。

そんな谷口彰悟のキャリアについて振り返るこのnoteも、今回で完結編になりました。9シーズンを3回ずつに分けてお伝えしてきたわけですが、3部作のラストはキャプテンに就任した2020年から今年2022年までの3年です。

鬼木監督は2020年から谷口彰悟にキャプテンマークを任せました。

人が何かを託すときはそれ相応の思いがあるものですが、鬼木監督は「もう一皮向けてほしい。そういう思いがあった」と明かしています。当時の谷口は、JリーグトップクラスのDFながら、日本代表の森保一監督の目に留まらない状態だったんです。

 しかしこの年からチームリーダーとなり、クラブは圧倒的な強さでJリーグを制覇。安定したパフォーマンスも評価され、翌年には日本代表にようやく復帰。出場機会が巡ってきたアジア最終予選でも守備陣に安定感をもたらしました。しっかりと信頼を勝ち取り、本大会もメンバー入り。W杯カタール大会では2試合のフル出場しています。

 そう考えると、彼がフロンターレでキャプテンになったタイミングは、まさに選手として一皮剝けるべき時と重なったようにも感じます。

とはいえ、キャプテン就任初年度となった2020年は、新型コロナウイルスの影響で、とてもイレギュラーなシーズンになりました。

 2月の開幕戦・サガン鳥栖戦を終えてからリーグは中断。それに伴い、チームの活動も休止になっています。その後、リーグ戦再開に向けての動きが始まり、フロンターレのチーム練習が始まったのは6月2日。この日が全体練習の再開日となりました。

 この時の光景は今でも鮮明に覚えています。
初日は報道陣にも練習が公開されるということで、僕も麻生グラウンドまで足を運んできました。時間に着くと、ちょうどクラブハウスから降りてきた選手がピッチに降りてくるタイミングでした。

ただその手には、全員がバケツを持っていたんです。普段ならば、給水用のペッドボトルは共用で回し飲みしますが、感染防止のため、各自で管理するわけです。密になるのを避けるため、会議室での全体ミーティングも出来ないので、ピッチでの青空ミーティングで始まりました。スタッフ、選手たちが密にならないように輪になります。

 そんな中、鬼木監督が選手に向かって伝えます。

「こういうときだからこそ、というのはおかしいかもしれないけど、やっぱり優勝しようよ。全員で努力して。

今、世界でもすごいことが起きている。
多分、教科書に載るぐらいのことが起きている。

そういう時にフロンターレが優勝して、みんなを勇気付けた。そうやって言えるような試合をしていこう。

自分たちだけではなく、Jリーグも全員で盛り上げていく意識が大事だと思う。今回のことは、自分たちだけで収まるんじゃなくて、いろんなところを巻き込んで元気付けていけたらいい。何かの発信できることがあったらやって、みんなで頑張っていこう」

 そして鬼木監督の後に挨拶したのが、キャプテン・谷口彰悟でした。

 練習前の最後に言います。

「世界中が大変な状況の中で、自分たちが練習ができる環境を作っていただいた医療従事者の方々を始め、支えていただいたすべての方に感謝を込めて拍手をみんなで送ってから、トレーニングを始めたいと思います」

 約30秒。
選手とスタッフが医療従事者をはじめ、新型コロナと戦う人々に対して感謝の拍手を送ってから練習が始まりました。

最初はフィジカルトレーニング中心でしたが、徐々にボールメニューに。

「ボフッ!」

「ボンッ!」

選手たちが力強いインサイドキックでボールに衝撃を伝える度に、その蹴り音がピッチで響きます。

・・・・なんだろう。
久しぶりの「サッカーの音」を聞いて僕はしばらく感動してしまいました。

ただのパス交換の光景だったけど、日常が戻ってきたんだなと。サッカーライター人生も15年になりますが、サッカーボールの音を聞きながら、こんなに感動したのは初めてです。自分の中でも、またここからサッカーに情熱を注いで頑張ろうと思った瞬間でしたね。

 では2020年から2022年までの谷口彰悟を振り返ろうと思います。

前編と中編はこちらです。


では、完結編がスタート!

■「200試合の節目の試合で勝ちたいという気持ちがあった」。200試合も単なる通過点。サッカーの神様による粋な巡り合わせ。(※2020年)

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