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BLUE NOTE

旅先であろうとも、いつものように如何にも敷居の高そうなところ、入り難そうなところを敢えて選んでハシゴする。

京都の夜の気持ちの良い風を感じながら、河原町の暗い通路の奥の老舗のジャズバーにもぐり込んでみる。

なんとなく予想していたような、デカいスピーカーの前で強面のマスターが老眼鏡の向こうからこちらをじろりと睨むようなことはなくて、シュッとした若い女の子がカウンターの中で一人で文庫本を読んでいた。

まだこのお店にとっては宵の口、早過ぎる時間帯なのかほかに客は無し。


白黒の鍵盤がデザインされたカウンターで、シングルモルトをストレートで頂く。


「リクエストあったらおっしゃってくださいね?」

じゃあ、コルトレーンを。


平日のこの時間はひとりだけなんですか。
はあ、もうすぐママさんが、なるほど。いえいえ、そんなんちゃいますけど。んー、こういうお店ってやっぱり音楽やってる学生バイトさんが多いんでしょうかね。はぁ、なるほど、お嬢さんも大学で音楽やってはるんですか。へえ、週末は奥の、あの暗い奥のステージですか?ははぁ、なるほど。あこでライブなんかやらはる。ふぅん。

軽量カップみたいな、オンス表示と大さじの目盛りが付いたグラスで二杯目を。


「お仕事で来はったんですか?」

いえ、新幹線乗って新福菜館食べに来ました。

「いややわぁ、冗談ばっかり」

はんなりといなされるのが心地よい。
かいらしいわあ。


あのね、一等最初に関西来たんだなあって気がつくのはやっぱりエスカレーターの立ち位置ですね。
最初のうちは緊張してるさかいに、ちゃんと右に立つんですけど、ボーッとして油断してると普段の癖でつい左に立ってしまって舌打ちされながら後ろから追い越されるというね。

でも、不思議なのは京都のひとって関西でも大阪とちごうて右に立ってる人、多ぉないですか?なんかそんな気したんですけど。気のせいかな?
それはそれとして、やっぱり京都は面白いお店がいっぱいありますねえ。

「ありますよぉ、このあたりにはですね、中島みゆきバーとか、井上陽水バーとか、ユーミンバーなんていうのもあるんですよ。ワタシもちょっと落ち込んだ時に中島みゆきバーに行って、更に落ち込みます」

ふむ。

すごく賢いのかちょっと阿呆なのかよくわからないけれど、いいよなぁ、京都。

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