終末神奈川決戦
神奈川を横断する東名高速道路をおよそ2万5千を越えるバイクが埋め尽くしていた。
法定速度100㎞を大きく越え、エンジンを唸らせながら東名高速道路を駆けていた。
その先頭を走るは湘南最大規模を誇る暴走族『走繪屋』の頭、時塔宗次。彼の睨む先は首都東京。
その上空には巨大飛行物体が地上に向かってサーチライトを照射していた。
時塔にはあれが何なのかわからなかった。三日前忽然と首都上空に出現し、地上を焼き尽くした。自衛隊も壊滅した。
日本はまさに壊滅の危機に瀕していた。
「よォ……」
時塔の横に一台のバイクが並ぶ。横浜一帯を占める暴走族『卍狼』の頭、幹咲夜だ。
「時塔ォ、作戦はあんのかよ」
「当然だろ」
時塔は唇の端を歪ませる。
「全員ぶッ殺すだ」
重なり合ったエンジンの轟音はうねりをあげ、神奈川中に響くかのようだった。
誰もが家に引きこもり、カーテンを閉め、ただ災いが過ぎるのを待っていた。
しかしヘッドライトがカーテンの隙間から過り、咆哮の如きエンジン音を耳にする度に人々は顔をあげた。
日本はまだ終わっていなかった。反逆者はまだこの国にいた。
時塔宗次を中心に神奈川県全域の暴走族がただ一つの義憤を胸に集結した。
彼らは銃も戦車も持っていなかった。しかし怒れる拳と単車はあった。
突如、上空の巨大飛行物体が前方の道路を照射する。そこから次々と人ならざる者が出現する。
時塔は腕を振り上げ、バイクのスピードを落とす。そうしている間にも人ならざる者は2万、3万と姿を増やしていった。
「よォ、時塔。あれはなんだ? 化け物か?」
「ただのクソ野郎だ」
2万5千を超えるバイクは完全に停止した。
神奈川連合と人ならざる者の間に静かな風が横切る。
誰もが恐怖を感じていた。家族を、恋人を愛おしく想っていた。しかしそれを越える怒りがあった。
時塔は人ならざる者を睨みつけ炎に消えた友を想う。息を吸い、
「行くぞオラァ!!!!!!!」
エンジンを一斉に唸らせた。
【続く】
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