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韓国文学読書記録【12】20240311-0406

超零細個人事業主にとって地獄の確定申告。いろんなことが滞りました。連続読書記録は完全に途切れてしまったのでタイトル変更しています。

3月11日

✅13pages
📖 What should I eat today? By Kwon Yeo sun
『今日の肴なに食べよう?』/クォン・ヨソン著、丁海玉訳(KADOKAWA)
📄P7-53
昨日の斎藤真理子さんと倉本さおりさんのトークイベントで言及されたので再読したくなった。第一部の「春・青春の味」を読む。

酒飲みの小説家による食エッセイ。〈ほどよく静かでほどよくくたびれた、そんなネコジャラシみたいな気分〉とか表現がいちいち面白くて好き。

スンデ食べたい。切らないキンパ持ってピクニックに行きたい。

D-457
#BooksForJimin #ReadingWithJimin

きょうの肴 なに食べよう?

3月13日

📖 Childhood Garden By O Jeonghui
『幼年の庭』/呉貞姫著、清水知佐子訳(クオン)
📄P9-92
韓国におけるフェミニズム文学の源泉とも言われる作家の短篇集。朝鮮戦争を体験した著者の幼少期が反映されているという表題作を読んだ。

主人公はノランヌン(黄色い目)と呼ばれる女の子。母、兄、姉、弟、祖母と暮らしている。朝鮮戦争が勃発し、避難民となった一家は、ある村に流れ着いた。住まいは村の大工の家の裏庭にある小屋だ。

兵士になったのか父は行方知れず。食堂で働く母はいつも帰宅が遅く、兄は姉を殴り、祖母はいつも風邪気味の弟の世話に追われている。くいしんぼうのノランヌンは、盗み食いを繰り返す。

貧困と暴力によって変容していく家族を、ぼんやりと、でも冷徹に観察するノランヌン。小部屋に閉じ込められているという噂がある大工の娘の話が印象に残る。死んでも家から自由にはなれない。

好きだったのは、川で祖母に髪を洗われるシーン。

私は腕をだらんとさせ、逆さに映る風景を静かに見つめた。空とそれを支えているのっぺりとした稜線、木、草むらなどが見え隠れするように揺れていて、小さなメダカの群れが矢のごとくまつげの上を過ぎていく。一本一本ばらばらになった髪は、水草みたいにゆらゆらしながら水の中の石のすき間に入っていった。

幼年の庭

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幼年の庭

3月24日

✅13pages
📖 Childhood Garden By O Jeonghui
『幼年の庭』/呉貞姫著、清水知佐子訳(クオン)
📄P95-144
また間が空いてしまったけども続き。「中国人街」を読んだ。避難先から仁川のチャイナタウンに引っ越した少女とその家族、近所の人たちの話。

 市内の最も高い所から見下ろす、黒く煤けた木造の敵産家屋の物干し台に毛布とレースの下着が所々に干された中国人街は、この都市の風物であり、影であり、不可思議な微笑であり、秤の片方に載せられてどこまでも傾く水銀の重りだった。もしくは、ぐらりと沈みはじめた船の、すでに水に浸かった船尾だった。

中国人街

敵産家屋というのは、日本の統治時代に建設された日本風住宅のこと。『大仏ホテルの幽霊』にも出てきた。

8人目の子供を身ごもる母、出産したことがない祖母、黒人と一緒に暮らす売春婦のマギー姉さん、ネックレスのガラス玉の一つをくわえながら〈あたし、パンパンになる〉と言う友達のチオギ、女の生に絶望する主人公、動物たち。すべてがなまなましい。

D-444
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幼年の庭

4月1日

✅13pages
📖 Childhood Garden By O Jeonghui
『幼年の庭』/呉貞姫著、清水知佐子訳(クオン)
📄P147-182
春が来たけど「冬のクイナ」を読んだ。ダメな兄と地道な妹の話。

母と暮らす「私」のもとに、3年前に家を出た兄から金を無心する手紙が届く。「私」は兄が母に見捨てられるまでの出来事を思い出す。

子供のころはコガネムシの死体を埋めて7日経ったらきれいなチョウチョになると言い、実力に見合わない大学を受験して何度も失敗し、隠遁するつもりで山に行き、兵役のために連れ戻されて(入るのは論山訓練所)、除隊後も分相応に生きられない。そんな兄に対する複雑な思いが描かれている。借金をするときの兄の表情の描写がリアル。

30歳の「私」が〈オールドミス〉と自嘲しているのが時代を感じさせる。1980年の作品。ちなみにクイナは韓国では夏の鳥として知られているらしい。

D-436
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幼年の庭

4月2日

✅13pages
📖 Childhood Garden By O Jeonghui
『幼年の庭』/呉貞姫著、清水知佐子訳(クオン)
📄P185-248
「夜のゲーム」と「夢見る鳥」を読んだ。父と娘が花札する話と、夫の転勤で引っ越したばかりの妻の話。

「夜のゲーム」の主人公は、重度の糖尿病患者である父とふたり暮らし。母はどうやら精神を病んでどこかに入院していて、兄は家を出て行ったらしい。使いすぎてボロボロになった札は裏を見れば何が描いてあるかわかるのに惰性で遊ぶ。父と娘のやりとりが印象に残った。花札は日本から韓国に伝わって定着しているけれども、ゲームのルールは違う。

「夢見る鳥」の主人公は、夫が不在がちなようで、幼い子供とふたりで家にいる。隣の女が訪ねてくると話が止まらなくなる感じが切ない。誰にも理解されない孤独と絶望にさいなまれている主人公に世界がどう見えているか。

私の前に置かれた果てしない時間、まったく信じていないものを信じているふりをしながら幸せに暮らさなければならない退屈な日々が、喚声となって森を揺らした。

夢見る鳥

というくだりから最後までの文章が好き。

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幼年の庭

4月6日

✅13pages
📖 Childhood Garden By O Jeonghui
『幼年の庭』/呉貞姫著、清水知佐子訳(クオン)
📄P251-412
けっこう時間かかってしまったけど読了。とにかく文章がよい。一文にいろんなイメージが入っていて濃密だった。

「空っぽの畑」は、「夢見る鳥」とつながるような、子育てをしている女性の話。語り手の「私」は早朝釣りに出かけようとする夫に強引について行く。子供をおぶって。なぜそんなことをするのか、「私」が待っている「彼」とは誰なのか説明されない。ほとんど釣りをしている夫と川辺の風景を描いているだけなのに不穏。

「別れの言葉」は光州民主化抗争が発生した翌年に書かれた作品。主人公のジョンオクは母とバスに乗って霊園に向かいながら、釣りに出かけると言ったまま行方不明になった夫のことを思い出す。釣りに行くってそういう意味があったのかと解説を読んで驚いた。

「暗闇の家」は灯火管制訓練の日にひとりで家にいる女の話。女は暗闇の中で天井のあちこちから聞こえてくる水漏れの音や不可思議な緊張感に苛まれる。夏の庭でカマキリの頭を切ってしまったときの記憶が鮮烈。普段は押し殺している不安や怒り、悲哀があふれだす。

「日本語版刊行に寄せて」によれば、呉貞姫にとってこの短編集は〈三十代を生きる自分自身の内面の記録として残した〉作品らしい。初版は1981年。もし登場人物が『82年生まれ、キム・ジヨン』を読んだらどういう感想を持っただろう、と思った。

D-431
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幼年の庭

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