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犯罪計画を売る父と思春期娘のバディムービー『デッド・オア・ラン』

クライムアクション形式で描く、父と娘、親子の再生物語

強盗に盗みの計画を売って生活していたニック(ヴィンス・ヴォーン)だが、ある日客の男が強盗に入った直後に何者かに殺害されてしまう。被害者とは麻薬連合のリーダー、ビクターの息子だった。計画を売った身としてビクターに命を狙われる事になるニックだが、ビクターはニックのみに留まらず、娘ケイト(へイリー・スタインフェルド)の命も狙っている事を知り、共に決死の逃避行を決意する・・・。

『デッド・オア・ラン』はクライムアクションという派手なジャンル形式を活かした父と娘の再生ドラマだ。年頃の娘を思い遣る父親と、そんな思いをウザがる年頃の娘の心情が描かれる。主人公のニックは、完璧な強盗計画を売る犯罪のスペシャリスト。頭も切れていつも「スマート」に行動する犯罪者としては超一流の人物だ。

だが、父親としては全くダメな男だ。一人娘ケイトへの接し方は全くわからない。長らく別れた妻に娘を任せながらも、陰で成長を見守ってきた。

見守り方はデリカシーのカケラもなく、まるでストーカーだ。持ち前のリサーチ力を駆使して男関係などプライベートを調べあげ、遊んでいるところを車で追いかけたりしている。おまけに彼が大切にしている娘の写真は全て盗撮したものだ。盗撮写真を見つけた娘ケイトはどん引きするシーンは実に微笑ましい。

子のバディムービーに昇華

ニックは濡れ衣を着せられ追われる身になってしまい、娘ケイトを強引に連れて逃亡することに。あまりの身勝手さにケイトは文句を言うが、ニックは「俺の言うとおりにしろ!お前のためを思っているんだ!」と説教ばっかりしてしまう。ケイトの行動に全てケチをつけ、「あんな男はダメだ!」と男関係にも口出しする困った過保護パパだ。

険悪な親子関係だったが、逃亡を続けるうちに互いの良い部分も見えてくる。この関係修復のきっかけになるのは、ニックの本業である「犯罪」のテクニックの伝授だ。

日常生活の中でどういう風に物事を考えればよいのか、細かく話してくれる父親に心を許し始める(最初は父親の話をガン無視していたのに)。逃亡の中で絆を深めあった2人は、親子でありながら相棒のように抜群のコンビプレーを魅せるようになる。再生ドラマとしてもバディムービーとしても楽しめる作品だ。

注目の若手実力派ヘイリー・スタインフェルド出演

娘のケイトを演じるのはコーエン兄弟の『トゥルー・グリット』で13歳という若さアカデミー賞助演女優賞ノミネートを果たしたヘイリー・スタインフェルドだ。

ポップシンガーとしても活躍中で、全米ビルボードPOPチャートのトップ10入りを果たす人気アーティストでもある。俳優とても歌手としても天性の才能を持つ彼女は、本作で感情的だが、意外に素直という愛らしさのある10代の少女を熱演している。『バンブルビー』や『ピッチ・パーフェクト』シリーズなどで後にブレイクを果たす彼女は明るい表情が特徴だ。映画界ではコメディエンヌ&ティーネージャー女優として活躍中だ。

ボンクラ映画ファンの心をつかんだケビン・コスナー版『96時間』こと『ラスト・ミッション』の娘役、マーベルのブルース・バナー(ハルク)役でおなじみマーク・ラファロ主演『はじまりのうた』の娘役……など、とにかく娘役が多い。

インディーズ映画ながら脇役が豪華

監督のピーター・ビリングスリーは『アイアンマン』シリーズの製作総指揮を務めている敏腕クリエイターだ。そんな彼の監督作ということで、共演者までもインディーズ映画とは思えない豪華なキャストが勢揃いした。

主人公ニックを追う悪徳警官のボスは『エイリアン2』『ターミネーター』などジェームズ・キャメロンの映画に数多く出演し、『フレイルティー妄執』で監督デビューも果たしたビル・パクストン。

犯罪のネタを下す情報屋は『アイアンマン』『ジャングルブック』の監督で、『シェフ三ツ星フードトラック始めました』では主演も演じているジョン・ファブロー。

逃亡中に遭遇する田舎町の保安官役には『アイアンマン』でロバート・ダウニー・Jr演じるトニー・スタークの親友ローディ役やアカデミー作品賞を受賞した『クラッシュ』で有名なテレンス・ハワード。映画ファンなら思わずニヤリとしてしまう絶妙な配役だ。

豪華な俳優の共演作でありながら日本ではビデオスルーになったが、渋めの娯楽作としてオススメしたい一本だ。


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