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詐欺師のワイ氏、楽勝詐欺を仕掛けた結果…『グッドライアー 偽りのゲーム』

映画はパソコンの前で、男女がWEBチャット画面にプロフィールを入力する場面からはじまる。男はタバコをふかしながら、「喫煙しますか?」という質問に『いいえ』と打ち込み、女はお酒を飲みながら「飲酒しますか?」という質問に『いいえ』と打ち込む。

『グッドライアー 偽りのゲーム』はオープニングで描かれる通り、“グッドライアー(巧妙な嘘つき)”をテーマにしている。嘘だけではなく、策略、陰謀、偽り…あらゆる闇が色濃く反映された良くできたサスペンススリラーだ。

ベテラン詐欺師のロイ(イアン・マッケラン)は、インターネットの出会い系サイトを通じて未亡人のベティ(ヘレン・ミレン)と知り合う。資産家ベティから財産をだまし取るべく相続詐欺を目論むロイは言葉巧みにベティの心の隙間に入り込む。

夫に先立たれ、持病に苦しむベティの介抱を続けるロイのことを信頼するようになるベティだったが、彼女の孫スティーブン(ラッセル・トーヴィー)は急接近してくるロイを怪しむようになる。やがてベティの信頼を掴んだロイは詐欺の成功を予感する。しかし、一方でベティはある策略を計画していたのである。

騙し合い映画だが、どんでん返しがポイントではない

いわゆる「どんでん返し」や「二転三転するストーリー」といったネタバレ禁止系の作品ではある。しかし、冒頭から「互いが巧妙に嘘をつき合っている」状況はしっかり示されているので、「騙された!」といった感想は出てこないだろう。

代わりに、手際よく計画を進めていくイアンに対し、何か企んでいそうなベティ、この構図が重要だ。動機は?目的は?正体は?観客はヘレン・ミレンの含んだような表情に感情を揺さぶられるのである。

『美女と野獣』『グレイテスト・ショーマン』の監督作

監督は『美女と野獣』『グレイテスト・ショーマン』等のヒット作で知られるビル・コンドン。主演は『クィーン』でアカデミー主演女優賞を受賞したヘレン・ミレンと、『ロード・オブ・ザ・リング』のイアン・マッケランだ。

原作は、英国政府機関で働いていたニコラス・サールが2016年に発表した小説『老いたる詐欺師』。飛行機の中で原作本を読んだビル・コンドンは時代をまたいで人間性の闇に切り込みながらブラックユーモアに溢れた内容に感銘を受け、即映画化を決めた。ただ、課題に挙がったのはいくつもの時代が交錯する複雑な原作のプロットをいかに1本の映画にするかであった。

うますぎる演技。ベテランの本気に痺れる

ビル・コンドンは『Mr.ホームズ 名探偵最後の事件』でも一緒に仕事をしたジェフリー・ハッチャーに脚本を依頼する。ロイとベティの二人の物語に重点を置く脚本は2年かけて創作された。この脚色は功をなした。

第一に詐欺師VS未亡人資産家という分かりやすい構図はストーリーをシンプルにした。第二に、イアン、ヘレンの台詞が増え、演技派俳優による見せ場がほぼ全編用意されることになった。

本作の最大の魅力は主演2人の演技合戦であることは間違いない。巧妙な脚本とはいえ、種が明かされるトリックの部分には多少の穴がある。それでも違和感を軽減し、リアリティを保ち続けられたのは演技が上手いからだ。監督のビルが真っ先にキャスティングしただけのことがある。

余談だが、もう一点だけ。本作のイアン・マッケランがダークなキャラクターを演じているのが微笑ましい。駅のホームでの殺人シーンは『ハウス・オブ・カード』のフランク(ケヴィン・スペイシー)を彷彿とさせ、ゾッとする。久々に『ゴールデンボーイ』を観たくなった。

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