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印象派は好き? 嫌い?

絵画の好みは環境で決まる?

私は静岡県静岡市の生まれで、20歳過ぎまで静岡市で生活していました。現在は73歳で、東京在住です。

中学生や高校生の頃、私が見ていた美術品というと、静岡市最大のデパート松坂屋や静岡県庁などで何かの巡回展が開催されたときに出品されたものです。作品数は多かったものの、画集で見かけるような有名な作品はあまり展示されなかった、と記憶しています。

静岡県立美術館が開館するのは、それから約20年後の1986年、静岡市立美術館が開館するのは2010年です。その頃、私は東京にいたので、静岡市で高度な美術作品に触れる機会はほとんどなかったような気がします。

静岡市にいた頃、一般に、日本人の好きな洋画は、モネやルノワールなどの印象派の作品、ゴッホ、ゴーギャンなどの後期印象派の作品、あるいは、藤田嗣治、佐伯祐三、ユトリロ、モジリアニなどのエコール・ド・パリの作品に限られるといわれていました。静岡市で見た洋画は、画家は違っても、それらの影響を受けた印象派風やエコール・ド・パリ風の作品がほとんどだったと記憶しています。現在でも人気絵画の中心はあまり変わっていないのかもしれません。

そのためか、当時、私はこういった絵画こそが本格的な洋画なのだと思っていました。私が高校の美術部に在籍中に描いたただ一枚の油絵も、印象派風のものです。失敗作でしたが。

印象派が嫌いになった?

その後、いろいろな作品の実物を見る機会があって、見ているうちに、私の好みが変わってきました。どう変わったのか?

徐々に印象派が嫌いになってきました。

なぜそうなったかというと、

1.私の好みの変化ですが、描かれている形(輪郭)がはっきりしている絵を好むようになった。
2.美しい発色の絵を好むようになった。(モネの『睡蓮』などは、絵の具の劣化が激しく、色が退化していて美しくないと思った。)
3.印象派の絵は油絵の具を濃い状態で強引に塗っているため、筆触(筆のタッチ)が美しくないと思った。

といった理由からです。

その頃から私が好きになったのは、ダ・ヴィンチやデューラーなどのルネサンス絵画、ダリやデルヴォーなどのシュルレアリズム絵画、および、日本の俵屋宗達や酒井抱一(さかい ほういつ)などの琳派絵画です。

しかし、印象派嫌いがその後ずっと続いていったわけではありません。やがて転機が訪れました。

印象派が好きになった?

水彩画を主に描くようになってから、たまたま、ジョン・シンガー・サージェント(John Singer Sargent、 1856 ~ 1925年)を知って、私の意識が変わりました。ただし、彼の作品の写真や印刷物を見ただけの意識変化です。実物は見ていません。

サージェントはイタリア生まれのアメリカ人で、モネやルノアールなどと同時代の画家です。

これがサージェントの自画像です(↓)。

John_Singer_Sargent_-_autoportrait_1906 ウフィツィ美術館

(1906年、油彩、自画像 (ウフィツィ美術館所蔵))

サージェントは、イタリアとフランスでアカデミックな美術教育を受けた後、肖像画家として有名になりました。しかし、26歳になった1884年に発表した油彩の肖像画『マダムXの肖像』(Madame X)(↓)がエロチックすぎるということで大スキャンダルになり、フランスにいられなくなって翌年英国に移住しました。

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(マダムXの肖像 サージェント作 1884年 メトロポリタン美術館蔵)

その後サージェントは英国で肖像画の制作を続けましたが、1907年頃からは肖像画の注文を断り、透明水彩の風景画を主に描くようになります。

画風から分類すると、サージェントの水彩画はまさに印象派絵画の典型です。しかも、高度に洗練されています。モネやルノアールなどの同時代の印象派画家は水彩画をあまり描いていませんので、サージェントこそが水彩画の印象派を代表する画家であると考えても良いのではないかと思います。

サージェントの水彩画の代表作がこれです(↓)。表題の上の画像はこれの一部です。

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(コルフ島、光と影(Corfu: Lights and Shadows)サージェント作 1909年 40.3 x 53.1 cm ボストン美術館所蔵)

サージェントを知ってからは、印象派についての私の見方が改まりました。油彩画の印象派はやはり今でも好きではありませんが、嫌いではなくなりました。

まとめ

絵画の好みは若い頃の環境で決まるようです。

高校生ごろまでは、私は印象派が西洋絵画の標準だと思っていましたが、成人してからは好みが大きく変わって、印象派嫌いになりました。

しかし、その後、サージェントを知って印象派への抵抗がなくなりました。サージェントはもっと知られて良い水彩画家です。

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