日常の温泉
温泉が好きですが、京都に住んでいると火山が少ない地域ということもあって、やっぱり正直自分の住んでいる地域は温泉貧困エリアだと思ってしまうのです。しかし、逆に考えれば、温泉貧困エリアであることのおかげで旅先での温泉のあり難さを強く感じるのではないかとも思えます。人はついつい何事も当たり前に思ってしまうから、失った時にしかあり難みに気付けないです。本当は「ある」ことが「難しい」はずなのに。それを今回のコロナ禍によって、ほとんどの人々が実感することになったのでした。今後、この日本という国の社会は他国に例の無い超高齢化が進んで行くと同時に、これまで当たり前と思っていたお店や施設も存続が難しくなって行くのでしょう。温泉が好きな自分としては、昔ながらの温泉施設が廃業されるのが最も危惧されるところです。何か出来ることはないかと考えてしまいます。
昔ながらの温泉地の入浴施設は古いところも多く、前に20代の人に温泉について語ったところ、「古い浴槽がヌメヌメして気持ち悪い。衛生面が心配。」と言われたことがありました。本当にアカン不衛生な温泉もありますが、古いからこそ味がある、鄙びた域に到達した温泉があるのが温泉の良さな気がします。また、飾り気のない内湯しかない公衆浴場に、極上の温泉が掛け流されてる時の感動もあります。豪華でいかにも非日常を演出するような温泉もアリでしょうが、僕はやっぱり地域の日常に溶け込んだ温泉のあり方や、歴史が刻まれた鄙びた温泉のあり方に魅力を感じてしまいますね。
ふだん着の温泉
10年くらい前「ふだん着の温泉」というNHKの番組がありました。好きな番組で、温泉場や湯治場で営まれている、人々の生活と温泉との密接な繋がりに焦点を当てた番組でした。そこでは日常の中に溶け込んだ温泉の魅力が描かれていました。僕にとっての温泉の原体験は、まさにこのふだん着の温泉だった気がします。僕の実家は岐阜県飛騨地方の温泉資源に恵まれていない地域でした。一般的なイメージですと、高山市にある奥飛騨温泉郷のイメージがあるので飛騨地方はどこにでも温泉があると思われがちですが、実は案外エリアは限られています。何故なら、温泉は火山の影響で湧いているものが多く、飛騨の場合、焼岳や御嶽の周辺が多いのです。確かに奥飛騨温泉郷は僕の実家から遠くは無いですが、観光地の印象が強く、30年以上前の交通状況の、車で2時間近くかけて行く場所はやっぱり身近ではなかったです。その代わりに、唯一あった温泉施設が割石温泉という温泉でした。ここは温泉好きの祖父がよく行っていた日帰り温泉施設で、車で30分ほどの場所にあり、家族でそこに行ったのでした。最初の印象は最悪でした。温泉と聞いて楽しげな観光地みたいなところをイメージしていたので、その公民館のような佇まいに絶句し、子供には何も面白いもののない、じじばばばかりいて生活の延長の場所という感じの最悪の場所でした。そして温泉も苦手で、当時異常に嗅覚が敏感で、薬品工場の見学で倒れそうになる体質だったので、初めての軽い硫黄臭が苦手でした。だから爺ちゃんが温泉に行こうと言い出すと、「絶対イヤー!」と不機嫌になってました。
しかし、時が経ち立派なおじさんになった今、頭の奥にこびり付いたあの時の熱くて、ほのかに香る硫黄の香りを追い求めるようになりました。歳を取る毎に匂いに対して良くも悪くも鈍感になっていきましたが、逆に薄れていく強烈な印象を幻影の様に求めるようになったのです。大人になってから行った割石温泉は印象は、記憶の中よりも小さな施設でしかも「老人福祉センター 割石温泉」と書いてあるのが心配になりました。恐る恐る入ったのですが、温泉は今も変わらず無色透明で熱くほのかな硫黄臭を感じる優しいお湯でした。本当に今も内湯しかなく、シャンプー等アメニティー系はゼロです。当時お爺ちゃんが嬉しそうにお酒を飲んでくつろいだ古びた和室や休憩室はあまり人がおらず、時の流れを感じました。しかし、今も来ている人は皆ふだん着で、地域の人に愛されているのが分かります。こういう雰囲気悪くない、いやかなり好きだと感じました。
■割石温泉 神岡鉱山の掘削時に偶然噴出した温泉。単純硫黄泉
https://www.hida-kankou.jp/spot/3858/
今のふだん着の温泉
今の日常的に行く温泉はいくつかありますが、その中でもお気に入りは神戸市にある「六甲おとめ塚温泉」です。ここは今住んでいる所から遠いですが、何度も通ってしまう銭湯に近い温泉施設です。ここが今のふだん着の温泉。前に一緒に行った友人が、「コロナが大変だけど、私たちには温泉があるから幸せだね。」と常連さん達が話していたと言っていて、地域の人達にとって愛されてるんだなと強く感じました。ちなみにここの温泉は、塩化物、重曹泉の掛け流し、しかも泡付きです。ここへ行くと、鄙びてはいませんが、日常的なリラックス感と、最高の温泉体験が同時に体験できるのです。そして湯に浸かり思うのです、「このあり難い温泉がずっと続きますように。」と。
■六甲おとめ塚温泉 ナトリウム-炭酸水素塩・塩化物温泉http://otomeduka.com/
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