「本当のところ、一体何が起こっているのだろうか?」は大切だ、の話

僕が、管理職として初めてある程度の規模(10名弱)のチームを率いることになったのは、もう10年以上も前のことになります。
それまでも、数名のチームリーダーを任されたり、管理職として2〜3名のチームを率いた経験はありました。
ですから、チームをマネジメントするということについては比較的自信を持っていたような気がします。

ただこの時は、着任して間もなく、その仕事を引き受けたことを後悔しました。
僕自身が統合された会社から移籍した身であったことや、社内の人たちの目に晒されやすい(と少なくとも当時は感じていた)役割で10名弱をマネジメントすることに対してのプレッシャーを含め、その場に立ってみないと分からない、仕事内容や人間関係のリアリティを甘く見ていたのかもしれません。
最初の3ヶ月から半年くらいは、僕の周りだけ鈍くて重い空気が漂っているような感覚がありました。

ところで、マネジメントとは何なのか

カナダのマギル大学のヘンリー・ミンツバーグ教授は、戦略策定プロセスや組織論の世界的な権威ですが、マネージャーの仕事の研究でも知られています。
そして、『マネジャーの実像−「管理職」はなぜ仕事に追われているのか−』は、ミンツバーグ教授の独特の鋭い視点と言い回しを通して、マネジメントとは何なのかを考える機会を得られる、噛んでも噛んでも味のある本だと思います。

ミンツバーグ教授のマネジメント論を理解するために、特に、次の二つのことが重要なのではないかと思っています。
それは、「リーダーシップはマネジメントの一部」であるという主張と、「マネジメントは実践の行為」であるという主張です。

一つ目の「リーダーシップはマネジメントの一部」については、次のような記述があります。

リーダーシップをマネジメントから切り離し、高い台座の上に鎮座させると、「みんなで取り組むべきこと」が「一人の人間が取り組むこと」に変質してしまう。権限委譲というきれいごとをいくら言ったところで、リーダーシップが個人志向の概念であることに変わりはない。
(中略)
しかし、いかなる組織においても、人々が協調してものごとを成し遂げるためには、コミュニティー意識が欠かせない。本当に必要なのは、リーダーシップを強化することではなく、自然にものごとに取り組める主体的な個人からなるコミュニティーを築くこと。そして、リーダーシップをマネジメントと一体化させることだ。

二つ目の「マネジメントは実践の行為」に関しては、データと分析(ミンツバーグ教授はサイエンスと呼んでいます)がマネジメントに必要な要素であることを認めつつ、マネジメントがサイエンスに偏ることに対して警鐘を鳴らしています。

マネジメントはサイエンスでもなければ、専門技術でもない。マネジメントは実践の行為であり、主として経験を通じて習得される。したがって、具体的な文脈と切り離すことができない。
サイエンスの目的は、研究を通じて体系的な知識を獲得すること。これは、マネジメントの目指すものとはまるで違う。マネジメントの目的は、組織の中でものごとを成し遂げる後押しをすることだ。

僕には、これらのミンツバーグ教授の言葉が、それぞれの現場でそれぞれの責任を果たすべく試行錯誤しているマネージャーへのエールに思えます。

それで、僕のその後はどうなったのか

ミンツバーグ教授は、マネージャーの仕事を以下のモデルに整理しました。

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中央にマネージャー自身がいて、「基本設定を考える」と「スケジュールを立てる」というマネージャーの頭の中で行われる二つの仕事が並べられています。
そして、情報の次元→人間の次元→行動の次元と、中央から外側に向かうにつれて、より直接実務に関わる仕事が配置されています。

冒頭の話に戻りますが、着任した当初の僕は、より内側に近い仕事に時間を割いてチームをマネジメントすることを試みていたような気がします。
具体的には、チームの優先事項のようなものを打ち出したり、チーム憲章を作って文化面の方向づけをしようとしたり、そんな感じでした(何かを見て真似しようと思ったんだと思います)。

しかし、それらの内容がチームメンバーの心に響くことはなかったように思います。
何より実際に、チームの内外から日々持ち込まれる指示や依頼やトラブルに対処することで精一杯という状況でした。
そして、10名弱の部下がいる管理職としては全くリーダーらしくない気がして、自分はこれでいいのだろうかと相当悩みました。

そうは言っても、悩んでいるだけではどうしようもないので、とにかく、より外側に近い仕事に時間を割くことに覚悟を決めました。
具体的には、チームのメンバーとともに、目の前の実務にどっぷり浸かったということです。
もちろん、その当時に何とかなる見通しを持っていたわけではありませんし、そうせざるを得なかっただけということでもあります。

ただ、3ヶ月が過ぎた頃から少しずつ変化を感じるようになりました。
一番感じたことは、みんなが僕の判断や行動を目に見える形で支持してくれるようになったことでした。
加えて、僕の実感としても、着任当初よりも自分の判断に自信が持てるようになっていました。
そうすると面白いもので、そういう仕事や判断の積み重ねから、お互いの強みが分かってきたり、チームのルールや協働関係が生まれたり、実践的なアイデアが生まれたりと、まるでモデルの外側から内側へと仕事の範囲が及んでいくような、思い返してみるとそんなことになっていきました。

さて、ここまでお話しした僕の個人的な経験を一般化しようというつもりはありません。
ただ、「それぞれの固有の状況において起きていることを知らずして、仕事も人も組織も動かない」ということが、僕にとって大事な教訓となりました。
もちろん、そのことを忘れてしまった時もありましたし、これからも残念ながらあると思うのですけれども。

「本当のところ、一体何が起こっているのだろうか?」—この問いは、今の仕事をするにあたっても、僕にとって最も大切なことの一つです。

今日は長い文章になってしまいました。
最後までお読みいただき、どうもありがとうございます。

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