子育ての悲劇:現金が厳禁な理由【書評】『スタンフォード・オンラインハイスクール校長が教える 子どもの「考える力を伸ばす」教科書』星 友啓著 大和書房
「テストでAを取れたら、スマートフォンを買ってあげるから頑張ってね」
「食べ物を残さず食べたら、お小遣いをあげるよ」
「部屋を片付けないと、週末のお小遣いは減らすよ」
こんな風に子供に対して、何かの報酬、または罰則によってある行動を促すような指導をしたことはないでしょうか?
子供がいろんなことをできるようになるために、躾としてと思って親心ながら、必要な指導のつもりでやる子育ての方法かもしれません。
しかし、この方法では将来の子供の人生に大変な悪影響を及ぼしてしまうことが、実は科学的研究でわかってきています。
何かをやることによって得られるお金や地位などの報酬を目的としたり、または、罰則から逃れることが動機となっていることなどを
「外発的モチベーション」と言います。
このような「外発的モチベーション」は短期的には効き目があるように思えますが、長期的には心や体の健康への問題を誘発する可能性や、生きがいや幸福感が削がれてしまうリスクがあると言います。
「外的モチベーション」は、子供にとって実は精神的プレッシャーを抱えることになり、自律心が挫かれてしまい、自分の頭で「考える力」を失ってしまいます。
酷い場合には、不安症やうつ病、摂食障害などのリスクが高まったり、感情のコントロールが難しくなったり、反社会的な行動に走ってしまう危険性が上がってしまいます。
まさに「子育ての悲劇」となってしまいます。
こんな悲劇にならないために、どんな指導、教育をしていけばいいのでしょうか?
もうお気付きかと思いますが、それは、
「内発的モチベーション」を促してあげることです。
「内発的モチベーション」とは、本人が趣味などに没頭してしまい、単にそれをやること自体が楽しくて仕方がないような状態のことを指します。
お金が増えるわけでもなく、誰かに褒められるわけでもなく、単にそれをやること自体に動機づけられている状態です。
このように人から強制されたわけでもなく、本人の心の内側から純粋にやりたいと思える「自律心」を引き出すサポートをすることが重要になります。
そう教えてくれるのが『スタンフォード・オンラインハイスクール校長が教える 子どもの「考える力を伸ばす」教科書』の著者、星 友啓校長です。
星校長は日本に生まれ育ち、東京大学を理系で入学後、哲学に目覚め、アメリカに渡り、数学やコンピューターサイエンスなどの理系分野から哲学や論理学などの文系分野を幅広く研究し、スタンフォードで哲学の博士号を取得した経歴のお持ちの方です。
そんな星校長が今の子供たちにとって最も必要な、「考える力」を養うために最適な方法を、最新の脳科学や心理学などの豊富な研究論文をもとに教えてくれるのが本書『子どもの「考える力を伸ばす」教科書』です。
近年の心理学理論の一つ、「自己決定理論」の基本的な考え方に上記の「内発的モチベーション」と「外発的モチベーション」があります。
そして、近年の心理学研究が明らかにしてきていることに、子供の「自律心」をサポートすると以下のようないい効果があるとわかっています。
・幸福感や自己肯定感が上がる。
・社会貢献の気持ちが増す。
・好奇心とやる気が強くなる。
・自信がアップする。
・成績が上がる。
・学校が好きになり、学業や課題活動に積極的になる。
子供の自律心を引き出すサポートをすることで精神的な安定と健康を育むだけでなく、学校での成績や活動に良い影響をもたらしてくれるのです。
これはいいことづくしですね。
では、具体的にどのようにしてサポートをしていけばいいのか?
それは本書をとって確認してみてください。
アメリカの名門校で博士号を取得されている方が書かれている本だけに、徹底的に根拠、参考文献をもとに書かれています。
だからと言って、読んでいて難しいと感じることなく、大変分かりやすく読みやすい本になっています。
本書を読んで私が思ったことは、子どもだけでなく、大人こそ「内発的モチベーション」を引き出すべきだと感じました。
現代日本社会を観察してみると、どうやら「外発的モチベーション」で運営されている組織が多いのではないでしょうか。
昨今の精神的な問題を抱えてしまい、不登校になってしまった学校の先生なども自律心を削がれてしまったのかもしれません。
「外発的モチベーション」の弊害として目先の利益しか考えられない人も増えている可能性もあります。
「今だけ、金だけ、自分だけ」のような考え方を持った人間が組織の上の方で好き勝手に運営しているとしか思えないようなことが、残念ながら現代社会では見受けられてしまいます。
このような酷い社会をよくしていくにも、やはり「教育」というのは大変重要なことだとつくづく思います。
そこで私たちができること、教育や子育てだけに限らず、私たち大人一人一人が「内発的モチベーション」で自律心を養い、子供達にその姿を見本として見せていくことも大切なことだと思うのです。
では、何をすればいいのか?
簡単です。
それはズバリ「趣味」です。
お金が増えるわけでもなく、誰かに褒められるわけでもなく、単にそれをやること自体が喜びになる「趣味」です。
「そんな夢中になれる趣味なんてないよ。」そんな風に思う人もいるかもしれません。
なら、見つけてください。必ず見つかるはずです。
誰しも子供の頃、夢中になって遊んでいたはず。その時の感覚を思い出せばいいはずです。
それでもピンと来ないのであれば、今回紹介している本を読んでみるのもいいかもしれません。
たくさんの子育て方法や何かに夢中になれる「考える力」を伸ばすヒントが書かれています。
ぜひお手に取ってみてはいかがでしょうか?