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子どもと問う#番外編 〜おかんと子どもと、単身おとん〜

子どもと問う#番外編
〜おかんと子どもと、単身おとん〜


夫が単身赴任になり、私は今、5歳の娘と3歳の息子を抱えてワンオペ育児をしている。
てんやわんやの毎日で、ぶっちゃけ夫のことを恋しく思う暇も無い。

子ども達も、怒れるパパの不在と甘やかしのママにつけ込んで、広くなった部屋でかくれんぼをしたりしながら、日に2回かかってくるパパからのビデオ通話に「はいはい。じゃーまたね!バイバーイ!」と夫が不憫になるような早急な切り方をして、また遊びに興じている。


だから、娘の発言はちょっとビックリした。

昨夜息子が寝た後に、コソコソとお菓子を頬張っていた私と娘は、「パパが居たら絶対怒られるよね」なんて言い合いながら背徳の官能を味わっていた。

その時、なんとなくだけど、私は聞いてみたのだ。
「娘ちゃん、パパが居なくて寂しい?」
うん。ちょっと寂しいよ
てっきり、ちっとも寂しくない!とか、秘密の時間が楽しい!とか、そんなことを言うかと思っていたのでちょっとビックリした。


でもそりゃそうだよな、と思い直し、もう一つ問うた。
その寂しいお気持ちに、何かママが出来ることある?」と。
すると娘はニヤリと笑って真っ直ぐ私を見つめ
ママに出来ることだけじゃないんだよ」と言ったのだ。

それを聞いて、なんだか私は誇らしくなってしまった。


夫が単身赴任してからも、子ども達は毎日が忙しい。
園での生活もあるし、ご飯も食べなきゃならない、歯磨きやお風呂もしなきゃいけないし、喧嘩したり仲直りしたり、隠れたり見つかったりしなきゃいけない。
気丈に振る舞ってパパへの募る想いを隠そうとしているというより、子ども達も子ども達でてんやわんやと日々日常が忙しいのだ。

そんな中でも、「パパが居なくて寂しい」という思いはある。その気持ちが消えたりするわけじゃなくて、その気持ちを抱えたまま、笑ったり泣いたり転んだりしている。
そっか、そりゃそうだよな、と思う。


そして、パパはパパなのであって、ママはママなのだ。

私は、娘が「ママに出来ることとパパに出来ることは違う」と認識し、娘自身がそう思うこと・それをママに直接伝えることに全く罪悪感を持っていないのが誇らしかった。


確認しておきたいのは、この「ママに出来ること/パパに出来ること」というのは決して「母性/父性」みたいな話でもないし、性別役割分業みたいな話でもない。
更に言えば、どちらが良い悪いという話でもない。

娘が指摘したかったのは、「ママにはママの人格があり、それはパパの人格が子ども達に与えていたものと取って代わることは出来ない」「いくらパパがやっていた家事育児を代行したところで、ママはパパにはなれないし、なる必要もない」「パパが居ない寂しさを抱えることが私には出来るし、その私の寂しさをママの罪悪感で横取りしないで」ということだと思う。


「パパってさ、8時になったら絶対お布団に入って寝なさいって言うじゃん?でもママはさ、パパにそう言われても「今プラパンにお絵描き出来たところだから焼くまで待って!」とか言うじゃん。その後、プラパンをネックレスにしたりするから夜遅くなってさ、私、園で眠い時あるの。園で眠いのヤだし、プラパンを焼かずに寝んねするのもヤダ。でもプラパンのネックレスは嬉しい。パパの言う通りに寝んねすると、園で眠くない。それも嬉しい。

あとさ、ママは東京タワーの下の池でザリガニ釣ったりするじゃん。すごい楽しい。ママはザリガニを釣るのが上手い。でもこの前ママ、勝手にザリガニ釣ったからお巡りさんに怒られてたじゃん。パパに言ったらパパにも怒られてたじゃん。ママってほんと失敗の天才だよね」

娘にそう言われて、私はすごく不安になってしまった。私は“ちゃんと”ワンオペ育児ができるのだろうか。

「パパはさ、“ちゃんと”が上手。でもパパの“ちゃんとしてないとこ”も好き。ママとは違う“ちゃんと”と“ちゃんとしてないとこ”。ママとパパの“ちゃんと”は違うじゃん。楽しいよ」

「それにパパが居なくて寂しくても良くない?なんで?ママだって寂しいでしょ?私も弟くんもママもちゃんと寂しいんじゃん?

そう言われて、私はようやくちゃんと寂しくなって、肩の力が抜けた。
夫が居ないから頑張らなきゃいけない。夫が子ども達にしていたことを私がしなければならない。寂しいなんて言ってちゃいけない。子ども達を寂しがらせちゃいけない。

そんな思い込みを、お菓子と共に噛み砕いてくれた娘は、最高の提案をしてくれた。
「お空にパパの居るところに向かう飛行機が飛んでるかもしれないから、その飛行機に歌を歌おう」

そして私達はベランダに出て、夜空に向かって「アーイアイアーイアイ」とお猿の歌を歌ったのでした。
飛行機は、ビル灯りの東京の夜空で、一機だけ見つかった。


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