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分散型SNSの台頭について

Netflixドキュメンタリ映画「監視資本主義: デジタル社会がもたらす光と影」では、SNSが招く最悪のシナリオの一つとして、テロや内戦が描かれている。(まだ見てない人はこれを機にぜひ見てほしい。)

年明けに起きた議事堂襲撃事件は、トランプ大統領がSNSを使って扇動したことがきっかけになったと言われているが、まさに上記のシナリオが具現化される形となってしまったようだ。

襲撃事件を機に、いまアメリカのテック界隈では既存のSNSに対する批判と、これからは非中央集権型、分散型のSNSが必要だと声高に叫ばれている。

次は分散型SNSがくるか?というのはけっこう昔から言われていたことで、ブロックチェーン型のSNS、Steemitなども有名だった。Facebook批判も今に始まったことじゃないが、ここに来て問題意識がもう一段深まり、代替しうるモノに今また注目が集まっている。

USテック界隈によるFacebook批判

1月7日にはイーロン・マスクが次のツイートを投稿した。

大学のキャンパス内の女子を評価するウェブサイトから始まったFacebookが、最終的にバイキング帽をかぶった男が連邦議会の議事堂を占拠する模様につながったことを風刺している。

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(画像はHouston Chronicle記事より)

Facebookの起源がFaceMashという、ハーバード大学の女子を2択でどちらがよりセクシーと思うかを選ぶサイトであったことは、映画The Social Networkの冒頭でも出てくる有名なシーンだ。

イーロン・マスクは昔から反Facebookのポジションを取っている。2018年にFacebook上のTeslaとSpaceXのページを削除し「(ページを削除したのは)政治的な主張でも、誰かに脅されたからでもない。たんにFacebookが好きじゃないし、ゾッとするからだ。」とツイートしている。

2020年の5月にはFacebookはクソだとツイートしている。

他にも、Instagram(Facebook子会社)の利用も精神衛生上よくないと批判したりしている。

次に、AngelListの創業者にして、数々のユニコーン企業に投資をしてきたNaval Ravikantのツイートを紹介する。

「(SNS企業は)まずアカウントをBANする。次にアプリの使用もBANする。最後にウェブサイトの閲覧もBANするだろう。」

これは、今回SNSが扇動の温床になったこと自体よりも、トランプ大統領のアカウントをBANする動きを批判している。

今まで言論の自由を掲げてきたSNS企業が批判の声を受け、重い腰をあげてトランプ大統領のアカウントをBANしたのは、本来は、SNS企業がやるべきことを全うした、規制当局の意向にも沿うアクションであろう。

一方で今回のBANは、SNSでどのコンテンツを削除し、どのコンテンツを優先的に見せるかを1企業の限られた人たちが恣意的に決めることができることを示唆し、上記のような批判にもつながってしまう。

追い討ちをかけるWhatsappの発表

1月6日の議事堂襲撃事件により、SNSって改めてやばいねという雰囲気が漂っている中、Facebookにさらに批判が集まることが起きた。

Facebookの完全子会社であるWhatasppがプライバシーポリシーを更新し、メッセージングアプリを継続利用するには同意するしかないとした。このプライバシーポリシーの中には、FacebookへのWhatsappデータ共有が含まれていた。

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(厳密には実は今回の通達の前からも、一部のユーザーを除いてWhatsappのデータはFacebookに共有されている。2016年にWhatsappはプライバシーポリシーを更新し、データをFacebookに共有するつもりだけど、嫌な人は30日以内にその選択をしてくださいと通知した。ここで設定変更を逃した人および、2016年後半以降にWhatsappをダウンロードした人は全員Facebookにデータが共有されている。)

メディアや個人は、Whatsappが一線を越えた、Facebookにデータ共有させないと使わせないという最後通告してきたという風に拡散した。

なお、WhatsappはEnd-to-End encryptionを採用しているので、メッセージ自体は暗号化されていて、Whatsapp運営や親会社のFacebookを含む第三者はメッセージの中身を見ることができない。

上記で言っているFacebookに共有するデータとは、電話番号、アドレス帳の連絡先、プロフィール名、プロフィール写真、ステータスメッセージ、Whatsappを使う頻度や利用時間などのログデータ、スマホ/PCのデバイス情報、IPアドレス、OS、バッテリー、通信ネットワーク、言語や地域設定、Whatsapp上の取引・支払情報などだ。

Whatsapp/Facebookが批判される中、逃げ道としてSignalが注目される。

Whatsappの創業者が作ったSignalとは?

冒頭のFacebookを風刺するツイートのあとに、イーロンは続けて、Signalを使おうとツイートした。

Signalは2014年ごろからあるメッセージングアプリだ。Whatsappの共同創業者Brian ActonがWhatsapp退職後に、Signal Foundationという非営利団体を立ち上げて運営している。設立後の運営原資はBrianが個人マネーで貸し付けている$50Mのローン(今は$100M)とその他の寄付だ(ユーザーによるアプリ内寄付を含む。)

2018年にケンブリッジ・アナリティカ社がFacebookユーザーデータを不正利用した事件の際に、Brianは、#deletefacebook運動に参加し、自分の元雇用者を批判している。

Signal Foundationのミッションは、「オープンソース型でプライバシーが担保された技術を開発し、言論の自由を守り、セキュアなグローバルコミュニケーションを実現させること」だ。

Chamath Palihapitiyaも次のツイートをしている。(Facebookの初期グロースをリードし、冒頭のネトフリの映画にも何度も登場しFacebookを批判してきた人物。最近だとSPACブームの火付け人としても有名)

「Whatsappは2月からあらゆるデータをFacebookに共有する。彼らはプライバシーという一番良かった機能を殺した。もう私にWhatsappで連絡しないでくれ。Signalをダウンロードしよう。」

そんなSignalはすぐにアプリストアで1位にランクインする。(アメリカのみならずインドでも。)

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分散型のSNSとは?

Naval Ravikantのツイート。

「Signalを使おう。プライバシーコインについて勉強しよう。リモートワークを求めよう。オープンソースを採用しよう。ネット上では匿名になることを実践しよう。人生(すべて)を非中央集権化させよう。」

彼はここで、非中央集権、分散型の文脈でSignalについて触れている。果たしてSignalは分散型のサービスなのだろうか?

まず典型的な中央集権型のFacebookについて考えてみる。Facebookの収益源は広告だ。広告主からお金をもらっているので、当然広告主を喜ばせるために、Facebook広告の精度をあげて、適切なユーザーに適切な広告を配信し、コンバージョン比率をあげたい。そのためにもユーザーのデータを吸い上げるインセンティブが働く。

一方で、Signalは非営利団体であるため、そもそも毎年利益を右肩上がりに伸ばしていく必要がない。広告モデルではなく寄付により生計を立てているので、ユーザーのデータを必要としない。したがって、Whatsappが吸い上げるような、送信者、受信者、送信時間等々のメタデータさえも暗号化するのがSignalだ。

Whatsappよりもプライバシーが強いのがSignal。またソースコードも全て公開されている。いち営業企業が中央集権的にデータを集めるわけではなく、かつオープンソースという意味では、Signalは非中央集権の分散型SNSっぽさが確かにあるが、厳密には完全な分散型ではない。なぜなら(暗号化されていたとしても)データが一箇所に集まる情報ネットワークだからだ。

Facebook、Instagram、Whatsappなどのユーザーデータは全てFacebook社が中央管理しているサーバーに保管されている。私たちのパソコンやスマホ(クライアント)からFacebook社のサーバーにアクセスし、情報を取ってくる、あるいは書き込む。このクライアント/サーバー型と言われるモデルが典型的な中央集権型のネットワークである。図の(A)だ。

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(画像はPaul Baran: Centralized, Decentralized and Distributed networks (1964)より)

Signalの情報ネットワークもこの(A)に依拠している。元WhatsappのBrianが立ち上げた非営利団体Signal FoundationはSignal Messenger社に資金提供をしており、このSignal Messenger社が中央集権的にサーバーを運営している。

Twitter上で、Signalに乗り換えよう!という声が広がる中、プライバシーが担保されるSignalやTelegramもいいけど、必要なのは分散型のアプリでは?という意見もある。

言ってしまえばSignalも、Signal Messenger社が明日から方針を変えてプライバシーを重要視しなくなり、個人データを集めようとする可能性もある。そうゆうリスクから解放されるには、政府、企業、あるいは特定の個人に支配されない非中央集権型、分散型のSNSが必要というわけだ。

それは、図の(B)と(C)を指す。

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(B)のユーザーは(A)と同じく、中央的なサーバーと情報のやりとりを行うが、そのサーバーは誰でも立てることができる。一時期、ポストTwitterとして話題になったマストドンが記憶に新しいだろう。

マストドンでは、誰でも外部サーバを契約するか、自分のPCをサーバ代わりにすることで"インスタンス"を立てられることが特徴だった。インスタンスが1,000以上存在しそれらが相互にも繋がった。(とあるインスタンスに所属するユーザーは他のインスタンスのユーザーのタイムラインも見れる)

3つ目が図の(C)に当たる、P2P(Peer to Peer)型だ。クライアントとサーバーの区別がなく、全てのデバイスが両方の役割を担うことができ、他のユーザーと直接情報のやりとりをする。Skypeの通話やビットコインのデータ交換方式に使われている。

広告モデルに立脚しない運営主体が、ユーザーのデータを集めずプライバシーが保全されていて、かつ分散型の情報ネットワークを有するサービスが真の分散型SNSと言えるかもしれない。

プライバシーや言論の自由という意味では分散型SNSは適しているかもしれないが、ヘイトスピーチや扇動といった問題はFacebookと変わらない。そうゆうSNSの負の面を解消していくにはむしろ中央集権的にモニタリングする必要があるのかもしれないし、下記のスレッドで紹介したようにFacebookも様々な企業努力をしてきている。

ただ運営側がコンテンツの取捨選択をするなどしてプラットフォームに対する統制を強めれば強めるほど、言論の自由が奪われるという批判も出るので、このトレードオフが難しい。

逆に、管理者がいない分散型ネットワーク(ライブ配信アプリ)の暴走を描写したような映画(フィクション)もあったりするし(Amazon Primeで見れます)、どちらが優れているか簡単に結論づけることもできない。

ただ現状では、中央集権的サービス=悪と捉える流れが出来つつある。

「なぜ分散型が重要かという話は一夜にして(机上の)理論からメインストリームにまで普及した。」

「中央集権は危険をおよぶす。」

このように、既存の大手SNSにとっては逆風が吹いている。

国家/政府が規制しないといけない、SNS企業は国有化すべきだという意見も空想ではなくなってきている。そして代替となるようなプロダクトが求められている。

それは新興プロダクトかもしれないし、既存のプロダクトが脱皮する可能性もある。2019年末にTwitter CEOのJack Dorseyは、最終的にはTwitterを分散型のSNSに脱皮させるという目標を掲げた。

とはいえ、まだまだFacebookをはじめとする中央集権型プラットフォームの覇権は続くだろうし、これからすぐに分散型SNSが台頭しすんなり定着するとも個人的には思えず、議論の余地がありそうだ。今後の動向に注目したい。

(おわり)

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