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3年理科 チョウは一人一飼育「人だって豚を食う!」命を学ぶ涙と笑顔の子供模様

 3年生の理科に、昆虫の育ち方の学習があります。
 チョウ、特にモンシロチョウを飼育することが多いと思います。

 モンシロチョウを飼育する方法には、学級で数匹を飼育する、グループで飼育するなどもありますが、私はだんぜん、一人で一匹の飼育する「一人一匹飼育」をオススメします。
 「一人一鉢栽培」や「一人一実験」と同じです。

 それはなぜか。
 次のよさがあると思うからです。

「一人一匹飼育」のよさ

①科学的に結果を導ける

 この単元のねらいの一つに、「昆虫の育ち方には一定の順序があることの理解」があります。一人が一匹を飼育することで、学級全体ではその人数分の個体の結果が集まります。
 集めた多くの個体の結果から結論を導くことは、極めて科学的であると言えるでしょう。

②育ち方への実感の伴った理解

 「わたしの卵」「わたしのアオムシ」という思いをもって育てて、観察することで、丁寧で詳しい観察が行われます。その育ち方の理解にも実感が伴います
 また、確かな思いや理解があるからこそ、協働的な学びも深まります。グループや全体での観察では、モンシロチョウとの距離が遠すぎます。
 単元のねらいには、「複数の種類の昆虫の育ち方との比較」もありますが、比較対象であるトンボやバッタなどの、卵からの成長の過程を直接観察するのは、なかなか困難です。そのため、教科書や図鑑、動画などの「冷たい資料」を使う場合が多いでしょう。だから、チョウだけは直接観察させたいと何より思うのです。

③飼育技能を高める

 私は、飼育技能も、実験や観察の技能と同様に大切な理科の力だと思っています。「一人一匹飼育」という責任を負って育てることで、その飼育技能も高まります。

④命について実感を伴って学べる

 「生物を愛護しようとする態度を養う」ことも単元のねらいの一つです。「わたしの幼虫」に食べ物を用意して与える。フンの世話をする。少しずつ大きくなったり、蛹に変態したりする「不思議な」様子を間近に観察する…こうした距離の近い実感の伴った観察は、命についてもまた実感の伴った理解を導くと思うのです。

 
 私はこうした理由から、「一人一匹飼育」で、「モンシロチョウの親になろう(モンシロチョウのお父さん・お母さんになろう)」の単元を実施していました。
 
 そして、もちろん最も大切にしたのは、④の「命の学習」です。
 だから、次のような子供たちの姿が、思い出されるのです。

モンシロチョウ「一人一匹飼育」教室模様1

 連休明け、子供たちが学校に持って「帰って」きた飼育ケースの中で、二人の子の幼虫に異変が起きていました。
 幼虫のお腹の所に、黄色い小さな繭がびっしり付いていました。
 みんなで大騒ぎをしながら調べました。二人のうちの一人は、既に家で調べてあって、図鑑のコピーを持参していました。

 モンシロチョウに寄生するアオムシコマユバチという生き物だということが分かりました。
 幼虫の体に卵を産み付け、幼虫の中で育ち、やがてその体を突き破って出てくると蛹になるということを知りました。

「このハチと同じのが、さっき私の飼育ケースの所を飛んでいた!」
と、大きな声で言う子がいます。
 みんな慄然としました。
 二人の幼虫は、体をよじっています。苦しくてもがいているように見えます。
 涙目の子もいます。
 「困ったな。」「アオムシコマユバチが憎い!」「なんてやつらだ!」口々に言っています。

 その時、一人の子がきっぱりと言いました。
「アオムシコマユバチだって、そうやって子孫を残しているんだ。人間だってブタを殺して食べている!」

 教室が一瞬、しんとなりました。

 この日、「天敵」という言葉も覚えました。

モンシロチョウ「一人一匹飼育」教室模様2

 帰りの会の後、蛹をじっと見ていた子たちが、
「先生、中にチョウの模様が見える。」
「もう、チョウになるんじゃない。」
と、言っていました。

 翌朝、二羽の成虫が、容器の蓋の裏側にじっと止まっていました。
 急遽、1時間目は理科にしました。
 観察を始めると、ぱたぱたと容器の中を飛び回り始めました。
 私は、「時間がたつと、とびはじめる」と、黒板にチョークで書きました。
「なぜだろう。さっきまで動かなかったのに。」
 何人かの子がハテナを見つけました。
 私は、「それは、なぜか」と板書を付け加えました。

 何人かが手を挙げます。
「チョウになったばかりは、飛ぶ力が弱いからじっとしていたと思う。」
「賛成!」の声。
「そうだよ。人間と同じだよ。人間だって生まれたばかりのころは、動けな 
 いよ。」
と言う子も。
 何でも人間と結び付けてしまうのは危険ですが、ここはひとまず、「なるほど」と応えました。容器の中に「血のようなもの」が垂れているのを見たことが、より考えを人間に近付けたのかもしれません。

 いつまでも容器の中に入れおけないことを子供たちは知っています。
 でも、まだその飛び方は、頼りなさそうです。
 「もうしばらく経ってから逃がそう」ということになりました。

 しばらくして、飼育ケースを持って外へ出ました。
 モンロチョウの「お母さん・お父さん」が、ケースの蓋を開けました。
 ぱたぱたといささか力が入らないような飛び方で、目の前を少しずつ高く上がっていきます。

「がんばれ!」
誰かが言いました。

「がんばれ!!」
別の何人かの子が言いました。

「元気でね~」
手を振っている子もいます。

 捕まえるふりをして、たしなめられている子もいます。

 誰かが拍手をしました。
 拍手は、瞬く間に全員に広がりました。

 モンシロチョウは、少しだけ青空に近付きました。

「一人一匹飼育」の方法と注意

 最後に、「一人一匹飼育」のために、私が行った方法と注意をお伝えします。

①卵の採集の方法

・前年度の1月の終わりごろに、校内の学年園などにキャベツを植えておく。
・保護者に協力を呼び掛ける。
・地域の中で卵(幼虫)の採集できる畑を探し、子供と採りに行く。…これがベスト!
・教師があちこち探して回る。
※わたしは、これまで上記のやり方のいずれかを組み合わせて行いました。数回に分けてですが、学級の人数分+α個(匹)を、ほぼ毎回集めることができました。農家の方の畑は消毒前でないと無理です。早めに準備を!

②飼育のさせ方

・一人一つ、飼育ケースまたは適当な容器を用意させる。教師用は大きな飼育ケースで、何個(匹)も飼育。死んだり、いなくなったりした子への補充用。
・餌は、週2回~3回交換。各自家から持ってこさせるが、忘れた子には、教師が補助。霧吹きで湿らせる必要なし。
・かごや幼虫には直接手で触れないようにさせ、餌を替える時には絵筆を使うか、幼虫のいる古くて汚れたキャベツの周りをちぎり、小さくしたキャベツごと、新しいキャベツの上に乗せる。そうすると、新しいキャベツの方に移動する。 
・糞の処理は2日に一回はやりたい。食欲旺盛な時は、毎日。
 片付け方をしっかり教えないとできるようにはならないし、保護者の期待を裏切ることにもなる。糞の片付け方も指導できない教師に命を語れないからだ。
 学校では、新聞紙などを広げて、全員分の糞を集めて処分すると簡便。
・週末は家に持って帰らせ、家での飼育を頑張らせる。
 

③注意

・アオムシコマユバチから守るには、目の細かい防虫ネットが必要だが、幼虫になっている状態で採集したものには、既に寄生されている場合が多かった。そのため、「一人一匹飼育」でも、全員が成虫にまで育てられなかった年もあった。
 しかし、コマユバチによる「死」もまた、学びだ。「死」の学びなくして、「生」や「命」の学びはないだろう。
・羽化までの飼育率が100%達成できなかった年の原因には、コマユバチ以外に、「ヨトウムシ」があった。
 モンシロチョウの卵だと思って採集してきたら、実は、ヨトウムシだったということが、たびたびある。卵はそっくりで見分けが付かない。孵化してまだすぐには分からないが、少し成長すると一目で分かる。シャクトリムシの動き方をするからだ。もっと大きい幼虫になるとさらにはっきりする。色が黒いのだ。
 子供たちはよくしたもの(?)で、モンシロチョウの幼虫は、「かわいい」と言うが、ヨトウムシの幼虫は「気持ちが悪い」と言う。アオムシには愛情を注げるようになるのだ。
・「一人一匹飼育」が、負担になったり、嫌がったりする子はいないのかと思われるかもしれないが、「一人一匹飼育」では、そういう子はただの一人もいなかった。
 むしろ、グループで飼育させた時には、順番が回ってくるのを嫌がる子がいた。愛情が湧かないようだった。やはり、「一人一匹飼育」である。

(「ヒント帳  36」では、メダカの卵も一人一飼育で育てることを提案中。コチラからどうぞ! ↓ ↓ ↓ ↓)