伊勢物語 第三段 ひじき藻
昔、男がいた。思いをかけていた女の所に、ひじき藻というものを贈ると言って
思ひあらば葎(むぐら)のやどにねもしなん
ひしきものには袖をしつつも
(もし思う気持ちがあれば雑草の生えた家の庭に寝もしよう。ひじきではないが引いて敷く物には袖をしながらでも)
二条の后が、まだ帝にもお仕えなさらないで、普通の人でいらっしゃった時のことである。
万葉集なら「やど」は「屋の外」すなわち「庭」なのだが、平安時代なら、宿は家だろう。
でも、葎の宿とくると訳に困るところ。
大和物語にもあるこの段は、しかし確かに掲示板(かつての伊勢物語ドットコムの掲示板)にご質問が出たように、不思議な話ではある。
先生に習ったことには、山に囲まれた平安京では海産物が貴重であったので、ひじきも高価だったのだということだった。今風に言えばキャビアを贈ったというところか。
しかし、いくら「ただ人」だったからといって、后がねの貴族の女性にひじきをプレゼント?
あまり贈り物向きでないということか、版本の挿絵では男が非常に幼く描かれている。
ひじきは女性の味方で、鉄分が多く、貧血に効く。
歌は、ひじきを詠みこんだ物名歌になっている。
あまりに実用的なひじきを贈るための照れ隠しだったのだろうか。
それとも、葎の宿が実態だったのだろうか。
(ま、実態だったらとても失礼だから、どんな環境でも愛が勝つという誇張表現でしょうね。・・・それにしても、ひじきって絵にならないわ)