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【ショートショート】狼少年Zero

「狼がでるぞ〜!」少年は必死に声をあげる。
姿すら見えない狼の襲撃を吹聴する少年はいつしか《狼少年》と揶揄されるようになった。そんな彼を村人達は「可哀想に……気を引きたいんだわ」と哀れみ。「嘘つきめ」と嘲笑う。
一月前、村人達は行き倒れていたのを保護して仕事まで与えてやったのだ。彼はその頃から、狼が出ると言っていた。

最近は狼の毛皮が高く売れるので、多くのハンターが森に入り狼を狩る。そう遠くない未来に絶滅するだろう。村の長老達ですら、もう何年も村の近くで狼を見ていない。

「狼がでるぞ〜!!」
少年の声は満月の夜に虚しく消える。

次の朝、少年が目を覚ますと少年以外の村人と家畜が消えていた。血溜まりを残して。

「だから言ったのに。まただ。また狼の仕業に違いない。早く隣村に知らせなきゃ」少年は隣の村を目指す。やけにある満腹感など疑問にも思わず。
「狼だー!狼が来るぞ〜!!」力いっぱいに叫び、危険を知らせる。
 
 今、彼を照らすのが朝日ではなく夜の月だったなら、その叫び遠吠えに聞こえるだろう。爪も牙も、次の満月まで鳴りを潜める。脂の乗った羊も、次の満月までお預けだ。



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