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【ショートショート】オレンジの光

「やだ!オレンジにして」
 ナツメ球というらしい。白く発光するあの天使の輪みたいな蛍光灯を消すと点灯する淡いオレンジ色の光を放つアレ。少し大きな豆電球みたいなやつ。子どもの頃から妹は暗いと眠れないので、あのオレンジ色の明りを残さなければ泣いて駄々をこねた。大人になってからもその癖は治らなかった。わたしはあの光があると落ち着いて眠れない気がした。妹は「夕日だと思えばいいじゃん」と言っていたが、わたしにとっては、まるで電子レンジの中にいるみたいで落ち着かなかった。

 今、空をオレンジ色に染めるのは"ナツメ球"でも夕日でもない。
 地球を脱出する宇宙船の噴射口から出る光が夜の闇を鮮やかなオレンジ色に塗りつぶす。
 そう遠くない未来滅びるこの星から旅立つ船への抽選にわたしはハズレて、妹は当たった。ただ、それだけ。この星がなくなってしまうことなんて、どうでもいい。
 妹は暗い暗い孤独な宇宙で、一人で眠ることができるだろうか。今はただ、それだけが気がかりだ。


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