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【ショートショート】ファンタジー・ファンタジア

 とある村の少年、アルフレドは小説好きだ。小説を読んでいると辛い毎日から抜け出して、旅をしている気分になる。
 彼の村は都から遠く離れた辺境、村の主要な産業は狩猟によって得られる皮や骨を使った工芸品などだ。当然、書店という商売は成り立たない。たまに行商人が運んでくる荷物の中に紛れ込んだ盗品まがいの本を安くで譲ってもらえればマシな方だ。
 アルフレドの両親も例に漏れず猟師だ。暇さえあれば読書をしているアルフレドを気味悪く思っている。この村はよく言えば完結している。質さえ問わなければ必要最低限の物資は揃う。もちろん本は必要な物資には数えない。悪く言えば閉じられた村だ。
 幼かった頃は村から出て、都で暮らすことが夢だった。だが、大人になると日々の生活に追われ疲弊し、寝る前の僅かな時間や仕事の合間に本を開くのがやっとだった。
 最近、アルフレドが読んでいるファンタジー小説の内容は異世界もの、その世界には剣も魔法も必要なくて、人々は快適な家に住み、子ども達は学校に通い、よく遊びよく学び………。

 アルフレドの読書の旅は、父の大きな声で中断させられた。
「本なんか読んでる場合じゃねぇぞ!!」
 父の怒号の後ろで見張台の鐘が鳴り響く。
「ドラゴンだ!」
 辺境に点在する魔物が人界へ侵入することを防ぐ砦の村。それがアルフレドの生まれ育った村。いつ誰が死んでもおかしくない生活の中で彼が安寧を求めたのが小説だった。

 本を閉じる度、彼は想う。

 せめて魔物がいない世界に生まれたかった。

「さて、一狩り行くか……」

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