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書く音を聞く仕事

こんにちは、高柳しいと申します。個人事業として「エッセイ講座」なるものをやり始めて3年経ちました。今日はわたしの仕事の話をします。

この講座は友人から「ねぇ、エッセイってどうやって書くの?」と聞かれたのが始まりでした。わたし自身、エッセイの書き方を知らないままブログやnoteにエッセイを書いてきましたが、それも書きたかったから書いてるだけ、という認識。書きたいけど書けない人がいることを初めて知りました。そこで別の友人が「じゃあ書きたい人に向けて講座という形で教えてみたら?」と助言してくれたのです。それはいいね、と話がまとまり、助言をくれた友人が事務方を引き受けてくれて、なんとなく、いつの間にやら始まったのが、この「エッセイ講座」でした。2021年6月の出来事です。

お客さまがたくさん来ているか、というと全くそんなことはなくて、この3年ずっと続けてくださる方がほんの数名、定期的ではないものの折に触れて受講してくれる方が数名、というところです。このような比較的小さな規模なのですが、3年間お客さまの日常の片隅に登場させてもらえるなんて、最初は想像もしていなかったことです。

「エッセイ講座」と銘打ったからには、エッセイの書き方を教えてくれるのだろう、と思う人もいるかもしれません。わたしもそのつもりで始めた講座ですが、結果的には全くもって違うものになっています。書き方の話はほぼしません。ただ、たくさん話します。「これはカウンセリングですね」と例えてくれたお客様もいましたが、わたしは一切その手の資格がないので、ただのお喋りに過ぎません。書き方を教えない、ほとんど話すばかりの「エッセイ講座」とはなんなのか、と自分でも思います。けれどなぜかお客様には喜んでいただけて、最終的にできあがるエッセイも瑞々しく素直なもので、わたしって実はかなり良い時間を提供してるんじゃないかしら、と最近になってようやく思い始めました。まだちょっと、この講座がなんなのか曖昧なのですが。

ただ、やってみてわかったのは「話せば書ける」ということ。これは講座を始めてすぐに実感し、確信しています。昨年あたりから書くこと方面の著名な方々が著書やSNSで、書くことと話すことについて語るのが目に止まるようになりました。やっぱりそうだよね、と何度も頷きました。
「話せば書ける」
これだけは言い切れます。

1時間半の講座の前半で近況を話した後、後半は自然と今日のテーマを考えながら書く時間に入っていきます。二人であれこれと話しながら、急に静かになってお客様が書く、それをわたしが見守る、という、あまり他では聞いたことのないやり方で文章を紡ぐ時間を過ごします。文章自体はオンラインで同じファイルを共有して書いてもらうので、どこで手が止まるのか、どこはすらすら書いているのか、がよくわかります。お喋りをしなくても、キーボードの打鍵音は賑やかです。その音を聞くのがわたしの仕事だ、と思うほどです。

わたしはよく、講座の始まりに「1年前の今月は…」と過去にお客様の書いた文章を一緒に振り返る時間をとります。ああ、そういえばこんなこと書きましたね、そうそう、こういうことで悩んでましたよね、と喋っていると、わたしはお客様をまるでご近所さんのように感じてしまいます。中には一度も会ったことのないお客様もいるのですが、なんとも言いがたい温度のある感情、チープな言い方かもしれませんが、ただ小さな、愛、を感じる瞬間があります。これは、講座を受け続けてくれた3年という歳月もあるかもしれませんが、それ以上に、月に一度定期的に近況を聞き、その心の中にいま何を抱えているのか話し、それを自分の言葉で書いて読ませてくれるお客様の存在の大きさだと思っています。

また、わたし自身の態度がゆるゆるだからなのか、普段は人に話せないけれど、と大切な話をしてくれるお客様も少なからずいて、そのありがたさに胸が押しつぶされそうになります。誰のための講座なんだ、と思いながら、わたしはお客様が与えてくれる感情の多さにとても良い意味で戸惑っています。

エッセイを上手に書けるようになることは、わたしはあまり大切だと思いません。(上手なエッセイ、というのも人によって異なりそうですね。)それよりも、自分の定点観測、今の自分を知る時間、そしてそれを未来の自分を含めた他者に読んでもらえる形で書き残すこと、を大事にしています。

文章を書くこと自体は、ひとりでやろうと思えばいくらでもできるものです。「エッセイ講座」ではあえてそれを二人でやります。話しながら書くことで、ひとりでは書かなかった、書けなかった文章が生まれます。そしてそれを月に一度でも継続していくと、振り返った先には過去の自分からのメッセージが立ち上がっています。

こんなふうに書くと、すべて分かった上で講座を始めたように見えるかもしれませんが、何もかもが結果でしかなく、この3年で発見してきたことです。

話して書く、そして続ける。地続きの過去を一緒に振り返り、今をもっと感じて、また書ける。
これができるのが「エッセイ講座」なのだと改めて思います。

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