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小野美由紀版伊勢物語2020

伊勢へ行く事が決まった。

幸運なことに、伊勢市クリエイターズ・ワーケーションに受かったのである。

私は伊勢に縁もゆかりもない作家である。前回訪れたのは14年前。伊勢神宮にお参りしようと、入り口の橋を渡ろうとしたら履いていたヒールがポッキリ折れ、途端に土砂降りの雨が降り始めた。

「これは……神様が来るなと言っているんだな」と判断し、即Uターンして赤福を食べて帰った。なので前回はせっかく伊勢に来たのに伊勢神宮にお参りしていないのだ。

おまけに当時私はストーカー気質の男と付き合っていた。やたらと私の行動を把握しているなぁと思っていたら、なんと彼は当時所属していたライフル射撃部の後輩にお金を渡して私を尾行させていた。別れると言ったら「2人が結ばれない運命を変える!」と言っておもむろにバタフライナイフを取り出し彼自身の手のひらを真一文字に切りつけた(手相で言う"運命線"を伸ばせば未来が変わると言う意味らしい)。が、彼が切ったのは運命線ではなく頭脳線で、切ったと言っても血がちょこっと出ただけだったのでとりわけ2人の関係が改善することはなかった(彼の頭も特に良くはならなかったと思う)。伊勢に来たのもそいつとの因縁を断つための逃避旅行のはずだったのに、気がついたらそいつが同行していて、別れるだの別れないだの言い合いながらの東海罵倒道中であり、しかも着いた途端にヒールが折れると言う散々な旅だったのである。

そんなこんなで伊勢にはいい思い出がないというか、そもそも逃げるように帰ったので街に関する記憶は一切ない。しかし、それは裏を返せばまっさらな状態で伊勢の街に触れられるということだ。クリエイターズ・ワーケーションによって伊勢に関するマイナスイメージを払拭し、新しい記憶に書き換える。ストーカー男との思い出も消す。それが今回の旅の主な目的である。

いざ行かん、伊勢へ。

12月12日

「小野先生は絶対迷いますから、名古屋駅では絶対近鉄線にしてください。間違ってもJRに乗らないように。私が新幹線から近鉄線への秘密通路を教えますから、そこ以外通らないようにしてくださいね!!」

私を伊勢へと導いてくれた「たらちね」オーナーのはしもとゆきさんに、そう口すっぱく言われながら、巨大ダンジョン名古屋駅の新幹線⇄近鉄線乗り換えの裏技的隠し通路を歩き(こんなのあるんだね)鳥羽行きの列車ホームへ。ホームの端にあるコーヒースタンドのホットチョコレートがやたら美味い。旅行ガイド等で美味しい美味しいと書かれている名物より、こういうなんでもないとこで売ってるなんでもないものが美味しい方がより感動する。

電車に揺られて伊勢着。はしもとさんと伊勢市観光協会の立花さんがお出迎えしてくれた。

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立花さんは今回の企画のコーディネーターであり、あまりにマメに連絡をくれるので11人ぐらいいるのではと思っていたが本体は1人だった。想像通りのサブカル好青年である。はしもとさんに案内されて「中谷武司協会」へ。

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中谷武司協会」の壁には謎の絵がかかっていた。

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謎の絵の正体はのちに判明する。

前日までの執筆作業で疲れすぎていたので、何もする気が起きずパールピアホテルでダラダラしていたら夜。

美味しいと評判の定食屋「osse」へ。イラストレーター・画家の松尾たいこさんと合流する。松尾さんは神社の本を出されていることもあり、神社にとても詳しい。なんと三重の神社を125社も回ったらしい。

私は神社について何も知らない。伊勢には内宮と外宮があり、祀っている神様が違う、というところからレクチャーを受ける。

はしもとさんと松尾さんが「ゲツヤケン」とか「ゲツドク」とかなにやら呪文のような言葉を繰り返していたのでなんのことかと思ったら、月夜見宮と月讀宮のことだった。伊勢ツウぶりたい人はそう呼ばれたし。

「ねえ、やっぱり伊勢にずっと住んでたら、神社について学校で習ったり、遠足でお参り行ったりするんですか?」と私。

「いやいやいや、うちらなーんも習わへんで。だって神社って神道やろ?宗教と学校は、一応、別ってことになってるの。政教分離じゃん」

「そうなんだ。私さあ、神社のこと何にも知らないんだよね」

「テキトーな気持ちでいればええねん!まず外宮から、とか、内宮はこうやってお参り、とか、細かいこと気にしないでふらっと巡ればいいんよ」

「そうそう。そもそも日本の神様なんて、超適当だもん。惚れた腫れたの大げんかしたり、引きこもったり、呪いで人殺したり、めっちゃ人間臭い存在なんだよ。頭であれこれ考えないでお参りしたら?」と松尾さん。

「よくな、神社でアレ叶えてください、これ叶えてください!って気合い入れてお参りする人いるやろ、けど古事記とか知っちゃったらさ、こんなちゃらんぽらんでいい加減な存在が祀られてるのが神社なんだから、ご祈願なんて、ほんと、バクチみたいなもんって感じになるわな」

「そうそう。こんな人たちにお願い、聞いてもらおう、叶えてもらおうなんて、勝手な人間のエゴだなあって」

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それにしても、Osseの定食はとても美味しい。地元の新鮮な食材を使っているからだろうか。美味しすぎて、1人で魚の定食と伊勢うどんとりんごのパフェを食べた。値段も手頃だし。

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その後、商店街の中程にある「AHL」というバーへ。

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こんな通りに、バーが?と思うような立地。とてもお洒落で居心地が良い。

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オーナーさんは元お花屋さんらしく、活けてあるお花のセンスも良い。こんなに素敵なバーがあるとは思いもしなかった。ここでもチーズと岩のりのおつまみを食べる。食べてばかりの日。

12月13日

伊勢独特のポワーンとした「気」のせいか、仕事をする気がしない。書評の原稿を抱えて来たが、早くも(良い意味で)こんなところで書けるか、という気分に。とてもじゃないけど「ホテルの部屋に閉じこもってカリカリ書く」ような雰囲気ではない。むしろ、ひたすらどこかへ遊びに行ったり、美味しいものを食べたり、のんびりしたくなる感じだ。ワーケーションになるか不安である。ならなくても、まあいいけど。

とりあえず伊勢神宮へお参りに行くことにする。伊勢にいるからには神社の一つも参ったほうがいいと思いつつあまり気乗りがしない。神社が好きな人には、パワーの集まる霊験あたらかな場所なのだろうが、うーん。とりあえず前回の記憶を頼りにおかげ横丁へ。伊勢市駅から歩いて1分。意外と近いことに驚く。あれ?14年前に来た時、こんなにすぐの場所にあったっけ?

本殿でお参り。隣の女性が「あのな、あの白い布がふわって舞い上がったら、神様に歓迎されている合図なんよ」と友人に熱心に解説している。私の目の前の布、ピクリともしない。

駅前のカフェ「伊勢Terrace」で仕事。伊勢和紅茶とマカロンを食す。伊勢茶、美味しい!これは買って帰らねば。「伊勢Terrace」、Wifi飛んでるし、仕事向きの良いカフェだが一向に書評は進まない。さっぱり仕事モードにならない。着いて2日でワーケーション断念か。まあいいけど。

夕方、ホステル「たらちね」でイラストレーターの上大岡トメさんと編集者の酒井ゆうさんと合流。上大岡トメさんは私が小さな編プロでバイトしていた時に一方的に存じ上げていて、ずっとファンだったので、お会いできてとても嬉しい!あの頃はまさか自分がこうしてクリエイターの方々とお会いできるようになるなどつゆほども思っていなかった。

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夜は伊勢を訪ねたクリエイターの間で話題になっていた焼き鳥屋「にかわ」へ。アーティストの中井伶美さんと石井諒さんユニットと会食。「にかわ」、めちゃくちゃ混んでた。食事をしている間に、私が内宮だと思っていたのは外宮であったことが判明した。どおりで前回の印象よりも橋が短く、駅から近いわけだ。敵(?)の本丸、皆がお伊勢さんと呼ぶなる場所はもっと駅から遠い場所にあるらしい。明日行ってみよう。いや、行くかな。わかんない。

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アーティストの井原さんと合流して再びAHLへ。井原さんはミミズの糞を使った彫刻など作る人で、伊勢ではコケのような植物を採取するという目的があるらしい。

アーティストとかクリエイターというと一見華やかなように見えるが、実際は1人でスタジオや自宅や喫茶店にこもってひたすらアイデアを練り、製作に集中しているので、他の作り手たちと交流する機会など滅多にない。あったとしても同業者だと変なやっかみとか思想とか業界の変な派閥とか面倒臭いことが多数あり、いまいち腹を割って話せない。だから、こういう日常から半歩離れた場所で、普段普段触れないような別分野のアーティストの方々とお話しできるのは、とても楽しい。

12月14日

何もしない一日。ダンデライオンチョコレートに行った。チョコレート美味しい。

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夜はまた井原さんと合流。「一月屋」にて。一月屋はメニューに値段の書いていない飲み屋で、料理はどれも最高に美味しく、ポーションが小さめなので色々なメニューをたくさん食べられる。2人で散々飲み食いして1人2500円程度だった。刺身はとろけるように美味しく、また「エビフライ」や「アナゴのフライ」も最高に身が引き締まっていて美味かった。こんなにいい場所があるなんて。余裕で住める。

帰りに「KilliBilli」のクレープを食べたが、神かと思うほど美味かった。皮はパリパリのサクサク、濃厚ホイップクリームにいちごがたっぷり。店内は外から見るよりずっと広く、多くの夜行性乙女の牙城と化していた。

いやー、いいな。伊勢。住めるな。

12月15日

朝からめちゃめちゃ寒いが、私の心は燃えている。今日ははしもとさんにご案内いただき、朝熊の山に行く。今書いている小説に猟をするシーンが出てくるので、実際に猟の現場を見せてもらうのだ。とても楽しみである。

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駅に着いてすぐの景色にやられる。朝熊、最高である。空は今しがた産み落とされたばかりのようにみずみずしく、山の緑は鋭い。紅葉はシャッキリ、ピカピカである。最高じゃないか。綺麗に整えられた景色より、こういう野放しの場所の方が萌える。一気にテンションが上がった。

山に入る前に装備一式を借りる。

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山の手前でゆきさんのお父さんのリイチさんが出迎えてくれた。リイチさんはベテランの猟師らしい。

山へ入ってすぐ、ウィダーインゼリーが木の枝で首をくくっているのに出くわし、ビビる。

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すわブレア・ウィッチ・プロジェクトか。

「これ、多分サバゲーの人や」

最近はトレイルランニングとか、バーベキューとかサバイバルゲームとか、オフロードバイクとかで山に入る人が増えて、危ないので警察としても猟銃をあまり人に持たせないように規制しているらしい。

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警察はあまり猟銃を人に持たせたくないため、猟師免許を取るのは実際かなり難しい。しかし最近は獣害がひどく、農水省的には狩猟をする人が増えてほしいらしく、板挟みなのだそうだ。

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道無き道をずんずんと分入ってゆく。一見、草木が無秩序に生い茂っているだけのように見えるが、利一さんに言わせれば「けものみち」がそこそこにできているらしい。イノシシの通り道である。

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「ほら、シダに泥がついてるでしょ、イノシシが駆ける時に背中の泥がつくんだよ」イノシシは夜行性だから昼は寝ている。その寝床をけものみちの走り方から推測して、近づき、犬を放って追い出すのだ。追い出されたイノシシは習性で自分の作ったけものみちを走る。そこを待ち構えていて、両脇から挟み、鉄砲でズドンとやる。

「ね、ほら、シダの集まってるとこがあるだろ?シシはシダの葉っぱ集めて寝床にするんだよ。イノシシってのは綺麗好きなんだよ。ほら、イノシシのお風呂もあるよ」

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ここ、ここ、ここもけものみち、と指さされるが、私にはなんの変哲も無い草叢にしか見えない。きっと見えている世界が違うのだろう。すごい。

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やがて赤茶色の巨大なかごが現れた。イノシシの檻だ。

「檻の中にさ、ヌカを置いておいて、おびき寄せるんだよ。で、捕まえたら足をワイヤーで引っ掛けて、槍とかで刺すの。向こうだって命かかってるから必死よ。これぐらい重い檻じゃないと、つとまんないね」

この後、明治22年創業の銃砲店の現役店主のおばあさまにインタビューさせていただいたのだが、その方は

「ヌカを食べたシシってのは、脂が黄色い。木ノ実だけ食べてるシシの脂は、ボタンの花みたいに真っ白でねえ、それはそれはキレイなのよ」と仰っていた。

ボタンの花のように真っ白でキレイな、獲れたてのイノシシの脂。

想像することしかできないのが惜しい。


はしもとさんと別れ、午後には猟友会の会長さんと、前出の銃砲店の店長さんにインタビューをさせていただいた。もし、狩猟関係の方にお話を伺えたらいいなあ、と思って立花さんに頼んだのだが、本当に叶うとは思わなかった。頭が上がらない。

「伊勢では本当に獣害が増えててさ、困ってるんだけど、狩をする人はすごく少なくなったでしょ?困ってんのよ。特に、下の方の島ね、イノシシって海を渡るのよ。だから畑を食い荒らされてさ、困ってんの」

海を渡ったイノシシの肉は、海水が沁みて塩辛かったりするのだろうか。

最後に私は気になっていたことを聞いた。オオカミについてだ。ニホンオオカミは明治期の乱獲により絶滅したと言われているが、最後にオオカミが目撃されたのは三重の山奥だと言われている(諸説あります)らしい。三重にはまだ人が入れないほど深い深い森が残っているため、もしかしたら、まだ……と思ったのだ。おととい上大岡トメさん、酒井ゆうさんとお茶した時には「絶対さ、これだけ深い森があったら生きてるよ。オオカミ。それで、目撃した人もいるけど、絶滅して欲しくないから黙ってたりするんだよ」と妄想話に花が咲いたが、やはり、残念ながら、オオカミと関連した情報は得られなかった。

夜は1人で「餃子屋つつむ」へ。餃子もめちゃくちゃ美味しいが、私的にはとり天が大ヒットだった。鶏肉好きなので毎日食べたいくらいだ。

ここのメニューはどれも美味しかった。美味しすぎて餃子を15個、とり天を10個も食べたら胃が爆発しそうになり自転車でホテルまで戻るのが大変だった。ほどほどを知る人間になりたい。


12月16日

特にすることがないので再び「中谷武司協会」に行き、暇だからこれから内宮に行こうと思います、自転車で、と言ったらはしもとさんに「絶対やめとき!遠いで!」と言われる。その言葉で火が付き、自転車で内宮に向かう。

遠かった。

死ぬかと思った。寒いし、風が強い。車がどんどん通り抜ける太い道路を必死で漕いだ。そのうち内宮に着いた。がよくわからず通り過ぎ15分ほどロスした。赤福が駐車場の横に見えたので、ここがおかげ横丁だ!と思って入ったら、どうやらおかげ横丁ではなかったようだった。

赤福はうまい。私はむしろスタンダード赤福より冬季限定赤福の方が好きだ。そういえば14年前にストーカー男と喧嘩しながら食べたのもスタンダード赤福ではなく汁粉モード赤福だった気がする。疲れすぎて3時間くらい赤福でダラダラした。こんなに居座る客もいないだろうと思った。もうここが伊勢内宮ってことにしようかなと思ったが、せっかくなので内宮にも足を運ぶことにした。

おかげ横丁は…うん、テーマパークって感じ

昔ヒールを折った「宇治橋」にたどり着いた。今度はスニーカーを履いていたので無事渡れた。20分ほど歩いて内宮の本殿に着く。何かを祈ろうと思ったがこの前も外宮で祈ったので宣誓のみに止める。松尾さんや上大岡トメさんの「神様って適当」話を散々聞いたあとなので、たいそうなことをお願いする気になれない。お参りしに来たのに、むしろ「他力本願ではいけない」と言うことを学びに来た気がする。

適当に境内をぶらつき、私の伊勢参りは終わった。

帰りはもっとしんどかった。なんせ今度は登り坂になるのだ。

ほうほうのていで駅前にたどり着き、AMAMILIVINGでバナナスムージーを飲みながら仕事していたら(AMAMIはWifiと電源があるので仕事におすすめ)ツイッターの#伊勢市クリエイターズワーケーションタグで3分前に同じカフェの景色の写真をアップしている人がいて、ふと横を見たらその人がいた。サウンドアーティストのフジモトリョウさんだった。

フジモトさんは神戸から来ていて、伊勢のあちこちでサンプリングした音を素材に音楽を作ろうとしているらしい。内宮の木の葉の擦れる音とか、川の音とか、川の音なんかを録っているのだそうだ。

「伊勢に来るとね、音を"録る"っていうより、"いただいている"感じになるよ」とフジモトさんは言っていた。

そういえば「録音する」ことを「取る/獲る/盗る」と同じ「とる」というのはなんでだろう。音を集める音楽家は音を取って何かを作っているのかもしれないが、「取材」も「材を取る」である。文章を書く作家なんて、眼に映る・体験する全てのものを「取る/獲る/盗る」それを元の相手に断りもなく転用して、独自の世界を練り上げる。勝手なものである。我々の何かを作ろうとする行為は全て「取る/獲る/盗る」ことから始まる。そう考えると、私たちが作るものは全て周りの生きとし生けるものに支えられて成り立っている。私たちが作るという行為を始めているのではない。世界がはじまりである。

などと高尚なことをバナナジュースを飲みながら考えたわけでは当然なく、疲れ過ぎていたのでAMAMIを退散して温泉施設「みたすの湯」に行った。みたすの湯、滞在中3回も行ったが、最っっっっ高である。外風呂と水風呂とサウナの往復で無事にブッ飛んだ。

12月17日

この日からパールピアホテルではなく一棟貸しホステル「たらちね」に移った。「たらちね」、写真で見てものすごく期待していたが、実物は写真以上である。最高。古民家でありながら、随所にオーナーであるはしもとさんとたけしさんのアートな感性が散りばめられていて、というかたけしさんの美術作品も飾られていて、あと1週間くらい居たい!!!!!!と地団駄踏んで転げまわりそうになった。

なんと、先に泊まられていた上大岡トメさんがこんな素敵なものを残して行ってくださって居た。

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先にも書いたが、クリエイターというのは普段他のクリエイターと接点がなく、孤独な生活を送っている。こんな風に、ちょうど良い距離感で他のクリエイターの存在を滞在中に感じられる伊勢市クリエイターズワーケーションは本当にいいプログラムだなと思う。

話を戻すと、「たらちね」のすぐ向かいにある「中谷武司協会」で買える「サトナカ」というクッキーはとても美味しい。

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伊勢神宮の御神饌である、塩・米・酒にちなんでおり、三重産の原材料で作られている。私はクッキーって本当は苦手なのだが(小麦粉と卵の重たい感じが苦手)これはサクサク、軽いのでいくらでも食べられる。フレーバーも独特で、塩・コメ・酒・昆布…コンブ?って感じだが、とろりとしょっぱい伊勢・酒徳の純白とろろこんぶがほのかに効いていて大人の味である。甘いのが苦手な方でもこれなら好きかもしれない。老若男女万人へのお土産におすすめだ。

「たらちね」もそうだが、この河崎というエリアはなんとなく気がいい気がした。もっと栄えればいいのに。

3回目の訪れで謎が解けたが、最初にこの場所で相撲取り(の少女)の絵はたけしさんの作品だった。

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「相撲の四股踏みって、元は田植えの時に稲がよく育つようにって土を踏みしめる動作からきてるんだよ。豊穣を祈る動作なの」

そうだったんだ。だからこの場所に飾られてるんだな。

さて、夜は同じ時期に滞在中のアーティストの方々と「一月屋」で飲み会である。時が経つにつれ人が増え、最後には10名にもなった。PCR検査を受け陰性と判明している人しかこのプログラムには参加して居ないはずなので安心だが、よく考えたらこんな大人数での「飲み会」なんて超超超超超超久しぶりである。夢中で話した。

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特に途中からいらっしゃった映画監督の方とは、現在話題になっているキム・ギドク監督についてどう思うかについて業界にいる方のお話を聞けてとてもよかった。

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結局日付が変わるまで飲んでしまった。

こうして他のクリエイターと話すと、こんな共通の悩みがあったんだ、という発見もあるし、他の人がどんな思いで捜索しているのか、も知れて大変楽しい。みんなそれぞれ金・名声・創作の仕方・ファンとの付き合い方・業界の動向等あらゆる角度からいろいろな苦労をしているが、それを乗り越えてでもやりたいと思ってやっているのだ。私もそうである。

もちろん開催まで賛否両論あっただろうが、伊勢市という、こういう我々をウェルカムしてくれる場があるということ、それ自体がなんだか救いのようでもあるし、励みにもなる。


そんなこんなで私の旅は終わったが、今回だけではとうてい見所を回りきれなかったこともあり、滞在中からすでに2回目の来訪について思いを巡らせてしまうような旅であった。

ああ、はやく、三重の森を舞台にした小説を書きたいなあ。今度は狩猟の現場にも同行したい。鳥羽にも行ってないし、二見にも行きたい。

ワーケーションで来ているのに全然仕事しなかったが、でも、それで良かった。仕事だけしに来るにはもったいないし、伊勢神宮だけを目当てに来るのもまた、勿体無い。

居心地がいい場所の条件として、空が広く緑が多く、水とごはんがおいしく人との適度な距離が保たれていることが挙げられると思うが、伊勢は十分にそれを満たし、またそれ以上のものをくれる場所だった。再訪を固く心に誓っている。コロナ、早く去ってくれ。天照大神さま、よろしくね。

もっと全人類が伊勢に殺到するぐらいの面白い滞在記が書きたいが、とりあえずは、ここまで。

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小野 美由紀(Ono Miyuki) 作家
https://note.com/onomiyuki

【滞在期間】2020年12月12日〜12月18日

※この記事は、「伊勢市クリエイターズ・ワーケーション」にご参加いただいたクリエイターご自身による伊勢滞在記です。
伊勢での滞在を終え、滞在記をお寄せいただき次第、順次https://note.com/ise_cw2020に記事として掲載していきます。(事務局)