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雑文(32)「業界の裏の裏」

 知らないのは罪
「Aさんの応募作品ですが、一次選考で二作品とも落選だったと聞きました。一次選考は、下読みの大学生をアルバイトで雇って、応募作品が二次選考に進める作品か判断するわけですが、一次選考では、この賞ですが応募総数が多いこともあってですね、最初の一ページないし二ページを読んでその作品を評価するわけなんですよ。で、二次選考に進めなかった応募作品はシュレッダーにかけて細かく切り刻んだ後、燃えるごみに出します。ですから、Aさんが主張する盗作はそもそも起こりえない。そういうわけなんです。そうです。主催者本部のたとえば編集を担当する方の目に触れることはありません。だからですね、Aさんの書いた応募作品の内容が主催者社内に出回ることはあり得ないんです。後ですね、この業界なら当たり前ですが、そうですね、相場だと十万円、多い人だと百万円単位でですね、謝礼をですね、応募作品に添付するのが業界の慣例でして、小遣い稼ぎですか、それを懐に忍ばせて二次選考へ担当した応募作品を送付する、これが業界の常識です。後は、顔採用、あるいは応募者の経歴が詳細に調べられます。むろん金額に応じて多少の忖度はありますが、基本高学歴の裕福な家庭で生まれ育った方が選ばれますね。だからAさんはそもそもその段階で落選してるわけです。考えてもみてください。最初の数ページを読んでなにがわかるんですか? なにもわからないでしょ? それにコネクションです。持ち込み原稿もそうですが、主催者会社にコネクションがあれば通りやすい。コネクションは肉体関係なのか、多額の金銭なのか、それは多様ですが、Aさんはそういった努力を怠ったんじゃないんですか? 営利団体なんですボランティア団体じゃないんです。それらを鑑みて、Aさんの応募作品が盗作される、その土俵にも上がっていないわけです。似てると指摘するならそれは、たまたまですよ。たまたま。たまたま似てしまったんでしょう。似たジャンルですから、作品の優劣なんて横並びですよ、そこで、賄賂、いえ謝礼がですね必要なんです。この業界の常識ですよ。戦略というか計画性ですか、選考してる頃には受賞作はですね、だいたい決まってるわけですよ。そういう業界です。業界の常識ですよ常識」
 証人は証言を終え、証人席に戻った。
 被告の男は黙っていたが、少し首をひねって一言言った。
「おれは。おれの勘違いだったのか」と。
 裁判長は言った。
「被告に死刑を求刑する」
 被告の男は閉廷後も、「勘違いだったんだ、おれの」と、法廷な天井を見上げながら呟いていた。

  おしまい

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