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私に仕事を教えた100人 音楽業界編#2「じゃ、帰るわ」
その音楽プロダクションの社長は、何もかもがステキだった。
彼女は、イギリスの王族が乗るようなカッコいいクルマに乗ってやってくる。運転するからなのか、飲めないのか、お酒は口にしないので、彼女と酌み交わしながら語ったことなどは一度もない。
それより、いつも話が短いのである。
この人は、会議室に入っても余計な話をせずに、用件がすんだらスパッと終わらせるタイプだった。自分の感性を何よりも信じている人で、なにしろ判断が早い。
一般の大企業にありがちな、資料を画面に映しながら、長時間ああでもないこうでもないと話し合うようなスタイルの打合せは、その人との間では、まず皆無であった。
好きか、嫌いか、自分の感性だけでモノを判断し、好きなものにパワーを注ぎ込み、まわりの人たちを巻き込む。
一度か二度、そのステキな外国車に乗せてもらったことがある。彼女は、事務所がスカウトした新人アーティストの音源をガンガンかけて一緒に口ずさみながら「いいわ!やまだくん、悪いけど私、これ好きだわ」と言う。迫力がありながら、可愛い乙女のような側面もあった。
その人と一緒に、あるアマチュアバンドを名古屋まで観に行ったときのことである。
ライヴの最中に耳うちされた。
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