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31 夜に向かう

最寄りの駅に続く朝の商店街を歩いていた。空一面を覆うように雨雲が広がっている。薄灰色の雲の壁に陽の光も届かなくて、全体的に道が薄暗い。夜のような気がする。最初は曇っているせいかと思ったけれど、商店街の両脇に立っている街灯がついているのを見て、きっとこのせいだと思った。

朝8時の街灯の光に違和感を感じる。いつものことなのか、曇りの日に歩いた記憶は薄れていてまったく思い出せない。

夜の気配を感じさせるのは街灯だけのようで、並んでいる飲み屋さんはみんなシャッターが下りているし、住人がゴミ出しをしている風景なんかも見える。街灯だけがまるでひとり夜に向かっているようだ。

ものを見て時間の流れを意識してしまうのは、人間本来の性質のようで、例えばエレベーターの開閉ボタンは、漢字で「開」「閉」と書くと紛らわしいが、ドアが開いているような絵と閉じた絵にすることでいくぶん判別が楽になると、前に何かで読んだ。ボタンを押す人は、ドアが開いている未来を自然と意識しているので、ドアが開いた絵を直感で選ぶというわけだ。

そう考えるとルーティンも侮れない。「○○をするとやる気が出る」というアレだ。本当かどうかあやしいルーティンをたまに聞いたりするが、街灯がついているだけで夜の気分に錯覚するのだから、こういうルーティンもそれなりに効力があるのかもしれない。

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