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『バスガイドが殺した色』人生万景

「いま描けえや。どうせ家帰ったらお前は描かんのんじゃけえ」
 ガラーさんのアトリエで作品を完成させない限り家に帰してもらえないことになった。
 車で来ているからいいんだけど、
「お前がそれ描いとる内に俺はお前の名刺つくっといちゃるけえ」
 時計の針は23時をまわっていた。
 ガラーさんのパソコン画面に目をやると名刺のロゴが。年末にデザインしてもらったものだ。
「何色が好きなんや?」
「……緑、ですかね」
 パソコン画面に浮かぶロゴの色が緑色に変わった。
「仮ね。仮」
「……ガラーさん、好きな色を訊かれて即答できなかったのは理由があるんです」
「なんや?」
「本当は桃が好きなんです」
「もも?」
 黒のTシャツに濃いめのピンクのサスペンダーがこの世で一番ナウい組み合わせだと思っている。
「なんで最初から言わんのんや」
「すいません。小学生の低学年の時の遠足でバスガイドが果物占いみたいなのやりだしたんです。移動時間に。マイクで。『バナナが好きな人は◯◯です!』みたいな。僕は桃が好きな人の時に手を挙げたんです。僕を含めて2人だけしか手を挙げてなくて。なんかバスガイドが答えを引っ張るんですよ。ニヤニヤしながら。『桃が好きな人は〜』嫌な予感はしたんですけど。『エッチな人ですっ!』って叫んだんです。そしたら、どっ!って盛り上がっちゃって。そのときなんか傷ついたんですよね。小学生の低学年ですからね。トラウマというか。そこから桃好きは封印してたんです。墓場まで持っていこう、って」
 パソコンの画面に浮かぶロゴがピンク色に変わった。」
「……なんかピンクだとあれですね」
「……」
「エロ本みたいなロゴに見えますね」
「……」
「やっぱり僕は緑が好きです」
 ロゴの色は緑色で落ち着いた。

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