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千年続く阿蘇の草原

春になると阿蘇は黒い惑星になる。

阿蘇といえば緑の草原が広がる景色が有名だが、春にその姿は一変する。
まだ桜が咲き始める前の3月、冬に枯れた草木たちに火が入り、草原は炎に包まれる。これが野焼きだ。

草原を燃やすなんて。と思うかもしれないが、阿蘇の草原は野焼きを行わないとヤブになってしまう。野焼きを行うことで初夏には新芽が芽吹き、新緑の草原へと生まれ変わる。生き物の棲みかを守り、九州の水がめとなるなど環境を守る上でも欠かせない。

阿蘇の草原は手つかずの自然ではない。野焼きや放牧など人の手が入ることによって維持されてきた。それも千年以上前から。
しかし、高齢化や農畜産業の衰退などさまざまな影響で阿蘇の草原は減少し続けている。

「このままでは阿蘇の草原が消えてしまう」
阿蘇の草原に携わる人たちの共通認識である。


28年間同じ熊本で暮らしてきたが、この事実を知ったのは最近のことである。いつも当たり前だと思っていた景色が失われている現状に、自分にも何かできないかと思い、昨年から許可をいただいて草原に関する写真を撮影している。

野焼きは、地元の方やボランティアの方などにより行われている。みんな愛する阿蘇のためにと、県内外から集まり活動されている。

風をよみ、地形を知り、変わりゆく状況を踏まえ、火は入れられる。

小さな火種は大きな炎へと変わる。
目の前でゆれる陽炎からは、もわっと熱風が伝わってくる。いきなり夏が来たみたいに。入道雲かと間違えてしまいそうな煙は全身を燻し、どこかへと去っていく。

燻された匂いと春の匂いが交互にやってくる。ぱちぱちと草木が燃える音は徐々に小さくなり、あたりは黒い大地へと変わっていた。


当たり前だと思っていた景色は阿蘇を愛する人たちにより脈々と守られていた。遠い遠い昔から。

まずは知ること。そして自分にできることを。
阿蘇の草原を守るために。

協力:阿蘇グリーンストック
   GSコーポレーション


山本勇夢丨Isamu Yamamoto
写真家。熊本県在住。
熊本を拠点に人物や風景、広告、暮らしの記録など様々な撮影を行う。
yamamotoisamu.com


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