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シスターフッド

「シスターフッド」の定義としてこれ!というのが見つからなかったのだけど、僕はフェミニズムの意味合いを多分に含んだ解釈で使っている。男なんかほっといて女どうしでどうにかしようよ、というような。男なんていなくたって生きていけるよ、というような。恋愛的でも性的でもない連帯とか連携とか、そういう関係性を指して使っている。

ビーパパス:少女革命ウテナ

幼い頃王子様に救われた天上ウテナは王子様になりたいと思っている。同級生の姫宮アンシーが決闘ゲームの戦利品「薔薇の花嫁」であることを知ったウテナは姫宮を開放するために決闘ゲームに巻き込まれてゆく。

特別な力を持つ「薔薇の花嫁」として姫宮が扱われる中、ウテナは一貫して姫宮が普通の女の子であると主張し続ける。そして姫宮と友人でいたいと伝え続ける。姫宮が本当のところ何を考え、どう感じているのかは物語の最後まで明示されない。

姫宮は自分が薔薇の花嫁であり、女の子はみんな薔薇の花嫁みたいなものだと語る。ウテナの淹れた毒入り紅茶を美味しいと飲み、高所から飛び降りようとし、かと思えばウテナを裏切り女の子は王子様になれないと告げる。
姫宮の言動は兄でありかつて王子様だった暁生に強く支配されていると思う。共依存的な兄妹関係であるふたりは王子様とかお姫様とか、男であるとか女であるということに強烈に縛られていてジェンダー規範を内面化している。そしてその概念を揺さぶるウテナに対し、女の子は女の子らしくあるべきだと抑圧する。

女の子は王子様になれない、というのは直接的なセクシズムだ。女の子は王子様ではなくお姫様にしかなれない。守る側なのは王子様で、お姫様は庇護される側。
でも、”守ると守られる”が”支配と服従”に形を変えるのは珍しいことじゃない。
王子様はお姫様を守るために最初から力を持っている。その力が永遠にお姫様を守るために使われることなんて、きっと無いのだ。
ウテナも力=自分の剣を持ってはいたけれど、最後の決闘であっさりと暁生に奪われ壊されてしまう。力では暁生に勝つことなんて到底不可能なのだ。だって、暁生は大人の男性で、ウテナは少女なのだから。

それでもひたむきに姫宮を助けたいと願ったウテナは薔薇の花嫁じゃない姫宮に会うことができた。そして姫宮は自らの意思で薔薇の花嫁を辞め暁生と決別する。
姫宮に届いたのはウテナの力ではなく、想いや言葉だったのだと思う。
姫宮は普通の女の子で、僕は君と友達になりたい。そう伝え続けたウテナがアンシーを開放し、王子様なんてもういらないと踏み出す一歩を授けたのだろう。

女の子は、お姫様になる必要なんてない。

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アッチあい:4番目のヒロイン

ラブコメ漫画のキャラクターのひとり、メグミはお色気担当の3番手ヒロイン。主人公くんの彼女になることを目指しているが、そこへ新たに4番目のヒロインが登場する。本来岬は違う作品である戦争漫画の登場人物なのだが、間違ってラブコメ漫画に登場してしまったのだ。ラブコメに相応しくない殺伐とした性格の岬は恋人でもない男に胸を揉ませて悔しくないのかとメグミに問う。

岬の言葉に反発しながらも、メグミの中で何かが変わってゆく。よく見たら主人公くんキモいし、胸だって触られたくないし……自分自身に混乱するメグミだが、それを見た岬は「メグミは素直な方が面白い」と言う。

ヒロインとして登場した以上、岬も主人公くんとラブコメを演じなければならない状況にとうとう追い込まれてしまう。ロッカーに二人で密着して、というプロットに緊張する岬だが、それを知ったメグミは誰もが思いもしなかった行動をとる。

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シスターフッド

アンシーはウテナと出会って薔薇の花嫁を辞めた。メグミは岬と出会ってヒロインを辞めた。王子様やヒーローくんのいる環境では受動的だった女の子が、別の女の子の言動をきっかけに自ら選択して行動を変容させる、というのはとても素敵な事だと思う。
女の子が女の子らしく、ではなく自分らしく生きていく上で一番の障害になっているのは王子様やヒーローくんの存在なんじゃないかと思う。
王子様やヒーローくんは誰かを守らないとその体裁を保てない。だからお姫様やヒロインちゃんが必要なのだ。その定義を守るために、女の子は肉体的に弱くされ、自己決定権を奪われ、庇護という名の支配を受けなければならない。

「ねえ、その男の人ってあなたにとって本当に必要な人なの?」って言ってくれる女の子がもっともっと増えますように。

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