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名刺代わりの小説10選

好きな本。


六番目の小夜子

人生で初めて読んだ恩田陸の小説がこれだったはず。中学の時に読んで、学校の描写に背中の毛がぞわっとしたことを覚えている。学校とは容れ物です。何を入れる?そう、人間です。青春の爽やかさの中にある、思春期特有の湿度が現実味を引き出していて良い。

タタール人の砂漠

高校生の時に読んだ。最初は単調な日常に苛立ちを覚え、変化と刺激を望んでいたのに、最終的には単調な日常に安心感を覚え、何も疑問も不満も感じなくなっている主人公に自分を重ねたのを覚えている。単調な毎日を続けることにも努力は必要だけれども、世界が上へ上へと変わっていくのだから、相対的に見たら自分は下へ下へと落ちていくのかと思った。まあ、所詮こんなもんだよなと思うようになったときに、読み返したり、思い出したりしている。

楽園のカンヴァス

私は絵が好きだ。好きな画家はジョルジョ・デ・キリコ。因みに、今年の夏に東京で展覧会やるそうです。高校生の時、公立の美術館、博物館は大概無料だったから、放課後にふらっと上野の博物館に行っていた。いまはそれが大英博物館になった。話を戻そう。楽園のカンヴァスで主題となる絵はジョルジョ・デ・キリコではなく、ルソーだ。文章の一つ一つがキラキラとした粒子みたいな文章で好き。ルソーは印象派ではないけれども、文章は印象派のような文章だなと個人的に感じている。

王とサーカス

ミステリーだ。ネパールの首都、カトマンズでの取材活動を軸として話は展開していく。その話の本筋とはずれるかもしれないけれども、とっても記憶に残っている話がある。細かいところまで一致しているかはもうわからないけれども、スラム街で育った子が言う。「昔は貧しかったけれども、衛生環境も悪かったから人がバタバタ死んだ。だから、人手がいつも足りなくて、職はあった。生きている人間は食事をとることができた。でも今は違う。欧米の機関が良かれと思って衛生状態を良くした。人は増えたけれども、職はない。結果、みんなもっと貧しくなった。」当時、私は国際協力の道に進みたかったから、欧米の機関がやったことは正しいと思っていた。今も、欧米の機関がやったことは正しい。でも、些か浅慮だったなっと思う。数字には出ない現地の声があるはずだ。

水曜の朝、午前三時

恋愛小説。大阪万博の時の話だ。昭和時代の。昭和の熱気が伝わる。そして、国を超えた恋愛の難しさ、熱情だけではどうにもならない事情が伝わってくる。多分、これは昭和という過去の話ではなくて、令和の今もあるんだろうなと思いながら読んだ。普通の恋愛小説みたいにハッピーエンド、ちゃんちゃんじゃないから好きだ。

マチネの終わりに

中三の時に読んだ。こんなにうまく恋愛なんて行かない気がするけれども、学生の勢いだけで走り抜ける恋愛と異なって、じっとりと月日をかけて物事は進んでいく。幸福の硬貨は彼らに笑いかけたんだろうなと思う。これはハッピーエンド。

夜行

森見登美彦。京都大学に在学している友達が、「京大生が面白いのは森見登美彦の世界だけ」と言っていた。いずれにせよ、森見登美彦が書く京大生は個性にあふれていて、ぶっ飛んでいて好きだ。夜行は京大の話ではない。旅の話だ。鞍馬に飛騨に津軽に尾道。細やかな風景描写で景色が瞼の裏に浮かぶ。森見登美彦が記す景色はどうしてあんなにも鮮やかで繊細なんだろう。行ったことないなーと思いながら読んだから、いつか行こうと思う。

きみの友達

言わずと知れた読書感想文課題作品の雄である。友達関係を延々と綴っていく。小学生女子によくある拗らせを私も経験しているから、一時期きみの友達は私のお守りだった。いつも笑顔でいる子も、一軍と言われる部類に属す子も何らかの悩みを抱えている。重松清は思春期前の人間を書くことがうまいなと思う。

タンポポ娘

SFで一番好き。いつか原語で読みたいなと思いながら先延ばしにし続けている。タイムリープなんてことは現実にはあり得ないけれども、そんくらいの夢を持ったっていいんじゃないかなと読みながら考えたことを覚えている。男が探し求めていた人がすぐ近くにいることが、そして結末が読者の手に委ねられているのがよい。

逆ソクラテス

多分、高校入試の勉強をしているときに読んだのが初めてだと思う。早稲田実業の国語。小説の大筋にはあんまり関係ないけれども、なんとなく成功の概念について考えた本だ。人は無理だ無理だというけれども、やってみなきゃわからないじゃないか。出来たじゃないか。という話を創り上げるのは簡単だけれども、実際成功しなくて、破滅への道を歩む人もいるから、なんでもできるとおだてあげるのはどうなのかなということを考えた記憶がある。

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