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暖かき大歓声が聴こえた 〜カジノ・ロワイヤル 【我が名はボンド】 23年宙組〜

ネガティブな報道ほど拡散が早い。

それを思い知ったのは今年の年初のこと。

宙組にまつわるスキャンダル

週刊文春が報じた宝塚歌劇団の宙組にまつわる一連の報道は普段、宝塚とは無縁の生活を送っている人たちにも届いた。個人的にこの手の内容にはあまり興味がないため詳細は省くが、簡単に言えば、上級生が下級生がイジメただとかそういった中身の報道である。

小生は数年前から宝塚の鑑賞を始めて、そのことを知ってる一部の友人から連絡がきた。「なんか、おおごとになってるね」だとか、「こういうスキャンダルから公演が中止になったりすることってあるの?」とかいろいろ。

一昨年、雪組の「シティーハンター」がなかなかな評判になってたのに、そういうのは全く世間には届かず、今回のような嘘か本当かわからないネガティブな報道だけは一直線に多くの人に届いてしまう。

念のため言っておくと、ネガティブな報道だけに反応する彼らのことを批判したいわけではなく、そもそもそういうものだよね、という話だ。

そういう小生だって、たとえば秋元康プロデュースの某大所帯アイドルグループのメンバーの名前なんてほとんどわからない。でも数少ない知ってるメンバーの名前はどういうキッカケで知ったのかといったら、それはメンバー本人が起こした不祥事が報道されたことだったりする。笑

だから、所詮はそんなものなんだろうなとも思っている。

退団公演がスポイルされる懸念

文春がどういう判断でこのタイミングで宙組のスキャンダルを報じたのかはわからない。ただこの報道が世間を駆け回ったときに真っ先に小生が懸念したのは公演が直前に控えたカジノ・ロワイヤル ~我が名はボンド~が台無しにされるのでないか、ということだった。

以前から実写映画版の007シリーズの大ファンだった小生にとって、宙組でそのシリーズのカジノ・ロワイヤルの公演が正式発表された瞬間、嬉しさのあまり自宅近くの小学校の校庭を3周走った(←ウソです)。
その発表から少し経過したタイミングでトップスター・真風涼帆とトップ娘・潤花の退団も正式にリリースされた。そして卒業公演はこのカジノ・ロワイヤルに。そういった理由もあり、この公演だけは絶対に生鑑賞しなければと決意を強めた。

観客の一人として、ジェームズ・ボンド真風涼帆を存分に堪能し、笑顔で彼女たちの門出を送り出したい。描いていたそんな青写真に水を差すような今回の文春の報道だった。

聖人君主であるべきなのか

小生は政治やスポーツ、そして今回のような芸能も例外なく、彼らのパフォーマンス以外には全く興味がない。ハッキリ言ってその人たち本人の性格が悪かろうが、私生活でどんな態度で過ごしていようが、彼らがしっかり仕事していれば、それ以外に何をしていても何の問題もないと思っている。

ただ、芸能出演者として宝塚歌劇のステージに立っている彼女たちが、たとえば歌が下手だ、踊りが見るに耐えないほどヒドイ、とかいった批判が起こったとする。それに関しては同情しない。なぜなら彼女たちの仕事は鑑賞に来た人たちをパフォーマンスによって満足させることだから。そのパフォーマンスが良くなかった場合にバッシングが起こるのは当然のことだし、それに対して「一生懸命やってるんだから批判なんかするな」というフォローは逆に彼女たちに失礼だ。

とはいえ、世間は少し違った見方をする。ステージ外の人となりにも注文をつけてくるのだ。自分の人となりの是非は棚に上げて。笑
世界を制したあのアスリートは優れた人徳を持っていてほしい。リーダーシップに優れたあの政治家は誰にでも優しい人であってほしい。トップスターに君臨するあの劇団員は人柄も素敵であってほしい。

そんな過度な期待や願望があるから、それが一種の需要となり、やがて前述のような週刊誌の報道を生む。もし書かれた内容が実際に起こってて、それが傷害事件に発展するような出来事であればさすがに看過できないけれど、劇団が公式に事実無根という声明を出した。だからまずはそれを信じる。

エンタメの起源は公開処刑

日付は3月28日。場所は宝塚大劇場。小生はカジノ・ロワイヤルの生鑑賞のためここを訪れていた。

楽しみが大部分を占めていたが、不安も多少あった。果たして自分が観に来たこの公演が無事に開催されるのだろうか、と。公演中に一部の観客から心ない声が発せられるのではないか、と。

過去にそんな体験をした。

およそ10年前に観に行った大相撲。ケガを抱えて満身創痍状態で満足な取組ができず、やや反則スレスレの投げ技で連勝を重ねてた横綱力士に対して、国技館にいた一部の観客から大声で「早くモンゴルに帰れ!」というヤジが飛んでいた。

およそ5年前に某所で開催された某政治家の街頭演説。数日前に意地悪な新聞記者からの質問に嫌悪感を示したところを報道されたことがキッカケで、この日の演説を見に来た一部の人たちから耳の痛い大声のバッシングを受けていた。

娯楽の起源は公開処刑だ。マリー・アントワネットの処刑には数多くの人が訪れてその実行時に熱狂したという。日本でも江戸時代では晒し首が庶民の最大の楽しみごとだった。

もしかしたら、この日の大劇場でも同様のことが起こるのでは、、、

声なき大歓声

開演時刻の13:00。トップスター・真風涼帆のスピーチが流れる。
満員に膨れ上がる宝塚大劇場の観衆から想像をはるかに超える大拍手!!
耳をつんざくような大拍手!!

あれだけ週刊誌からコテンパンな報道をされてたのに。普段は鼻にもかけないような人たちがネガティブな報道がされたときだけ反応したのに。
いざ、蓋を開けてみたら大拍手!!

こんなご時世だから声には出せないけれど、その拍手のボリュームが重なり合って、地鳴りのような大歓声になっていた。

SNSなどで批判が渦巻く状況に置かれて、本物のファンがどう思ったか。

チケット代を払って、わざわざ時間と労力をかけて劇場に駆けつける人は本物のファンだ。

それはそうか。本当だったら批判するんじゃなくて応援するのだ。

宝塚が好きで、心からその鑑賞を楽しんでる。そのために演者には気持ちよくパフォーマンスを発揮してもらいたくて、そのために拍手を送って支える。

そうだよね。批判して懲らしめたいんじゃない。一緒に楽しみたいのだ。

そしてその大拍手に、おそらくテンションが上がったはずの演者たち。
彼女たちのパフォーマンスにそれが現れていた。迫力のあるダンス。力強い歌声。
小生は観客の一人だったから、あの大観衆がどういう表情をしてたかわからないし、確かなことは言えないけれど、きっと顔を紅潮させてたと思う。そして目も充血してたはず。

ステージ上から見た彼女たちの目にはその大観衆の様子がきっと収まっているのではないか。これは間違いなく演者の特権だ。

で、肝心の公演はどうだったか?

宙組、大爆発!!

歌もダンスもすごい。あの空間にいた全員がトップスターたちの卒業を祝福しようという気持ちに溢れていたし、実写映画ではハラハラドキドキの緊迫するシーンの連続だったのに、この公演ではコメディ要素をふんだんに取り入れて笑って彼女らを送り出そうという、小池先生の粋な演出があった。

そして、一番印象に残ったのは、他の演者たちの気迫だった。「次に上にのし上がるのは私よ!!」といった意思のようなものがビンビンと伝わってきた。トップの卒業は、新たなトップスター誕生と等号で結ばれている。そのような上昇志向がパフォーマンスを良くして、それが公演そのものを輝かせてくれる。

報道ではあんなにコケ下されたのに、でも劇場に行ったら観客から大拍手が届く。
そういう熱い世界が現場にはある。そんな情熱を持った本物がそこにある。

本物のファンは劇場にいる。チケット代を払って、労力と時間をそこに注ぎ込み、大歓声を送る人は本物だ。
劇団のためにお金を払っている。そのお金が団員の給料になっている。そしてその対価として、団員は熱いパフォーマンスで観客を魅了する。これぞ、エンターテインメント!!

この鑑賞が小生の現場主義をより決定的なものにした。行こう。そこに本物がある。本物のエンターテインメントが。行こう。本物を観に。

これだけ唆かしたら、またチケット購入の倍率が上がってしまう。笑
それでも構わない。

本物を観に行こう。そこに本物のエンターテイナーがいる。そして本物のファンもいる。

さて、次の公演チケットを買うために、スタバのコーヒーのテイクアウトはしばらくお預けだな。

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