見出し画像

【角田裕毅】F1 2022シーズン前半戦レビュー その2【定点観測】

③迅速な原因究明の必要性(第3戦 オーストラリアGP)

仕切り直し。問われたメンタルコントロール

散々だったサウジアラビアから大陸を移してオセアニアへ。夏が過ぎ、秋が顔をのぞかせ始めたオーストラリアで角田は仕切り直しの一戦に臨む。高速型のサーキットとの相性の良さが強みのアルファタウリのマシンがメルボルンで活かされるのでは、という期待が角田の中で湧き上がっているようで程良い精神状態でフリー走行を迎えた。
1回目は僚友ガスリーをしのぐ11位。2回目も安定的な走りを見せて12位。ハードタイヤでのバランスの良い走りに完全に手応えが掴んだのか、3回目でもガスリーを凌駕する10位。前走のサウジアラビアGPの流れを汲むようなフリー走行だった。

またも起きた変調。突然変わった感触

ウォーターシステムの不具合フラグの懸念はあったものの無事に臨めることになった予選。Q1は13位通過と悪くない結果。フリー走行でハードタイヤでの走りに満足していた角田は真価を見せるべく、中古タイヤのままQ2を迎えた。しかし最初のアタックでピットイン、すぐに新タイヤに履き替えてコースイン。また何か異変が起こったのか。悪い予感ほど的中するもの。「Q1の時とは感触そのものが大きく変わってしまった」(角田)。突如、不安定な走りを見せてコースアウト。そこでマシンにダメージを負ったのか。タイムを伸ばせず13位でQ2敗退。フリー走行の走りを見せられずに予選を終えた。

頼みのハードタイヤ。否定された唯一の手がかり

決勝は13番手スタート。序盤は順調な滑り出しを見せて11番手に上がる。サインツとボッタスをオーバーテイクする爽快な走りは1周目のハイライトだったかもしれない。最初はミディアムを選択したアルファタウリ、序盤でポイント圏内まで浮上させて、ハードに履き替えてレースを優位に進める。そんな青写真を描いていたのかもしれない。しかし徐々に角田のペースが落ち始める。ポイント圏内に入れないまま18周目でハードに履き替えて巻き返しを図るが、頼みのハードタイヤでの走りはペースが全く上がらずに30周目以降は後続に次々にオーバーテイクを許す苦しいレースとなり、戦略の大前提であった1ストップ作戦を守ることしかできず、15位でフィニッシュ。「これまでで一番悪かった」(角田)。頼みの綱だったハードタイヤが逆に自身の低調を生んだのは小さくないショックだっただろう。

またも襲う惨敗。行く末は決まってしまったか

サインツのクラッシュで幕を開けた決勝。いきなりレッドブルに追い風が吹いたが、ポールポジションを取ったルクレールは動じない。安定的な走りを見せてそのままトップをキープ。2番手からフェルスタッペンが、4番手グループからペレスが虎視眈々と快調な跳ね馬を追う。
2度のセーフティーが導入された後の30周目以降、なかなかルクレールの背中を捕らえられず、必死に赤翼を広げようと試みるがトップより先に自身のマシンが音を上げる。39周目、燃料システムのトラブルでフェルスタッペンが衝撃のリタイア。「何かが燃えているようだ」(フェルスタッペン)。「すぐにマシンを止めろ」(メカニック)。バーレーンでの不安要素が重要局面でまたも顔をのぞかせたレッドブルはペレスの2位確保が精一杯という、大誤算の結果を招いた。ルクレールの独走優勝により、この時点でフェラーリに大差をつけられてしまった。今年のコントラクターチャンピオンは既に決まってしまったかー。そんな声が囁かれる中、レッドブルは山積するマシン問題に向き合う。果たしてレッドブルの明日は。

④こじ開けた明日への扉(第4戦 エミリア・ロマーニャGP)

探り探りの状況でつかんだ手応え

今季初のスプリント導入対象レース。予選までのフリー走行の回数は1度のみ。オーストラリアの反省からいち早くマシンの状態を探りたい角田にとって試練のレギュレーションとなった。初日のイモラの天気は雨。ウェットコンディションの中で走行データを取りながらという難しいシチュエーションの中で1回目のフリー走行は9位と予選に向けて手応えのある走りを見せた。

天候(チーム戦略?)に泣かされた予選

しかしその日の午後に行われた予選では雨が上がり、路面状態は刻々と変わっていった。まだ水分が含んだ状態でスタートしたQ1、角田は雨用タイヤを履いてコースインして、路面状態が乾き始めてることを確認。すぐにピットインしてソフトタイヤに交換。そこからQ1突破圏内の9位のタイムを叩き出した。ただ路面状態は時間経過とともに良化していく。Q1終了直前、角田の後からアタックした後続ドライバーたちが乾き切った路面状態を存分に活かし好タイムを記録。終わってみれば16位まで順位を落としQ1敗退が決定。同じタイミングでアタックを試みたガスリーの敗退も決まり、路面状態の良化を無視して早々とアタックさせたアルファタウリの戦略ミスが大きく響く形となった。

切り替える角田。ご褒美の前方グリッドスタート

明らかにチーム戦略の犠牲となった角田だがすぐに気持ちを切り替えて臨んだフリー走行2回目は8位のタイムを記録。その勢いのままドライコンディションで21周のスプリントを迎える。レース途中から全車がDRSを使用する超こう着状態になったが、残り数周で期待に応える走りを見せて12位でフィニッシュ。ポイント獲得はならなかったが、できる限りのことは全て果たしたような、そんな走りを見せてくれた。これで決勝は12番グリッドからのスタートに。ここまで順調な走りを見せている角田。自責以外の要素にも動じないメンタルを身につけたのは2年目の成長だろうか。

鮮烈の決勝。誰が文句などつけられるか

決勝のスタート直後、いきなりサインツが複数車と接触を起こし、巻き込みを避けた角田はポイント圏内で序盤を進める。マシン、タイヤ選び、ピットインのタイミング、路面状態。全てが噛み合ったような積極的な走りは、「レース中は失うものは何もない、という気持ちだった」(角田)と振り返ったように、研ぎ澄まされた集中力で他ドライバーを凌駕した。45周目以降は前方ドライバーたちとのタイムをしっかり縮めて、複数回のオーバーテイクを記録。ヘルムート・マルコ(レッドブルMA)に「Very Good!」と唸らせるほどの文句なしのレース運びは7位フィニッシュという形で結実する。初日からミスのない安定的な走りに結果がついてきた。見せつけた自身の高いポテンシャルは他陣営へのアピールにもなった。

完全なる巻き返し。必ず明日はやってくる

前回に引き続くサインツの序盤リタイア。今回はその追い風を活かした。ポールスタートのフェルスタッペンが快調に独走し、3番手スタートのペレスが後続をブロックしながら相棒をサポート。序盤にレースコントロールができる態勢を整えられたことで他コントラクターはレッドブルの管理下に置かれる。そして中盤以降も快走を続ける赤い両翼。僚友(サインツ)の序盤リタイアで跳ね馬の命運を一身に背負ったルクレールの焦りが表面化したのが53周目。痛恨のスピンで9番手まで順位を下げる。これで更に優位な状況に立ったレッドブルは、フェルスタッペンが鼻歌を歌いながら55周目でファステストを記録するおまけつき。赤翼が1・2フィニッシュを決めて開幕から続く不穏な雰囲気を打破した。依然としてポイントではルクレールがトップだが、その差は完全に縮まった。勢いに乗る跳ね馬を完全に叩き潰したレッドブルは小細工のない真っ向勝負で明日に希望をつなげた。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?