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メロンソーダ

 新型肺炎が流行する前、一昨年のとある事件について書こうと思う。

 僕は友人と、ファミレスで外食しようという話になった。僕たちはいつも通り、食事とドリンクバーを頼んだ。「ドリンクバーはあちらにございます」と、店員さんは丁寧にドリンクバーの場所を教えてくれた。ありがとうございます、と言いながら僕らはすぐにドリンクを取りに行き、僕はメロンソーダをコップに注いだ。
 

 最初は必ずメロンソーダを飲む。これはファミレスへ行ったときの、僕の暗黙の了解的決まり事である。メロンソーダはファミレスでしか飲んだことが無いかもしれない。コンビニや一部スーパーで売っているのは見たことがあるのだが、他の炭酸飲料よりも少し割高でなんとなく手に取りづらかった。しかしファミレスではコーラやカルピスソーダと肩を並べ、同じ料金で飲めるというお得感が僕の背中を押し、僕はいつも好んで飲んでいるのだ。
 

 注いだメロンソーダをテーブルに持っていくと、友人は「メロンソーダって体に悪そうな飲み物だよなぁ」と言った。僕自身もメロンソーダは体に悪そうな飲み物だと思っているから、友人の発言には大して驚かなかった。
 僕は友人に「メロンソーダ美味しいだろ?」と言うと友人は「そりゃ美味しいけど、色が不気味だ」と言った。そう言われて改めて色に注目すると、飲み物らしからぬ色であることは確かだ。「美味しければいいじゃないかよ」と言うと友人は「でも体に悪そうだからなぁ」と言う。なんだなんだ、はっきりしないなぁと思い、モヤモヤが募るばかりなので僕は(心の中で友人の眉間を人差し指で突きながら)言い放った。

 「メロンソーダをあとで飲みなさい!」

 運ばれてきた料理をおいしくいただきながら軽く談笑し、先に注いでいたドリンクも無くなった。僕たちはまたドリンクバーへ行った。友人が先にメロンソーダを注ぎ、僕は友人の後にメロンソーダを注いだ。僕と友人の間に誰一人も並んでいなかった。誰一人も。
 友人の後にメロンソーダを注ぎコップを持ってみると、若干メロン色が薄くなっている気がした。しかし、気がする程度の色の薄さだったため、気にも留めず、友人の待つテーブルへ向かった。僕はよいしょとメロンソーダをテーブルに置き、友人の向かいに座った。よぉし、飲むぞぉ~と意気揚々と同じタイミングで友人とコップを持ったそのとき、僕らは共通の違和感を持った。

 「あれ、色、薄くない…?」

 一瞬の沈黙が僕らの間に流れた。
 友人のメロンソーダは、そのままメロンソーダの色をしていた。一方で僕のメロンソーダは、若干だが、しかし、目視ではっきり薄いと分かる色をしていた。僕と友人の間に誰一人メロンソーダを注いだ者はいなかったのに、はっきり色の違いが見られた。何が面白いのか分からなかったけど、とにかく笑った。
 飲んだら味違うのかな? という話になり、薄色メロンソーダを注いだ僕が味見をすることになった。友人は薄ら笑いを浮かべながら僕を見ていた。
 すごく不味かった。メロンソーダの味はせず、奥の方に何とも言えない味が待っていた。味わったことの無い味ってこういうことなのか、と味わったことのない想いを抱いた。友人に「美味しくない」と言うと「へぇ、本当?」とニヤニヤしながら言った。
 僕は友人に「そっちのメロンソーダはどう?」と言った。友人はメロンソーダを飲み「ちょっと味が薄いけど許せる薄さだね」と言った。メロンソーダ嫌いな友人に、不味いメロンソーダを飲ませたら後で何を言われるか分からなかったため、これはこれで良かったのかなぁという想いがあったが、どうしても美味しいメロンソーダが飲みたい! と思い、薄いメロンソーダを我慢して飲み干し、性懲りもなく再びドリンクバーへ向かった。
 

 ドリンクバーで再びメロンソーダを注ぐと、最初は緑色の原液と炭酸水が交互に出たのだが、すぐ炭酸水しか出なくなってしまった。コップを取り出してみるとほぼ透明で、よく見るとほんのり黄緑がかっている程度の飲み物が注がれていた。なんだかまた面白くなってしまって、周りに気を付けながら急いで友人の待つテーブルに戻った。すました顔で席につこうと思っていたのだが、どうしても笑いが出てきてしまい、必死にコップを手で隠すも顔面はしわくちゃで、他人の目から隠れたいほどブサイクになった。コップを置き、僕と友人の行動がどうなったのかは言うまでもない。

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