キャプチャ3

医療計画を簡単・わかりやすく説明|見るべきは3項目!

この記事のポイント

1 医療計画とは何かがわかる。
2 医療計画の読み方がわかる。(見るべきは3項目!)
3 医療計画を読んだ方が良い理由がわかる。

医療計画を簡単・わかりやすく説明。

医療計画とは、定義通りに言うと、

地域の実情に応じて医療提供体制の確保を図るために策定する計画

です。

・・・ちょっとわかりにくいですね。

簡単に、わかりやすく言うと、

医療計画とは、

都道府県が、次の3つのことを書いた計画書です。

① 地域の現状
② 地域に必要な病床数
③ 必要な医療を提供するための都道府県の取り組みと、目標

同じ日本でも都道府県によって特徴が異なります。全国一律ではなく、地域ごとの違いを考慮したうえで、各都道府県が責任をもって計画を作っています。

医療計画は、「医療法」という法律によって作成することが定められています。原則、6年にごとに改定されます。最新版は第7次医療計画(2018~2023年度)です。

※第6次計画(2013~2017年度)までは、5年ごとに改定されていました。古い情報で、5年ごとの更新と表現している資料やサイトもありますのでご注意下さい。

医療計画をもうちょっとだけ詳しく。

医療計画に記載する内容は、都道府県が自由に決めているわけではありません。厚生労働省から示される基本方針に沿って作られます。

そのため内容はどの都道府県でも、だいたい同じになります。具体的には以下の11項目を記載することになっています。

▼ 医療計画の内容

1 医療計画の基本的な考え方
2 地域の現状
3 5疾病・5事業及び在宅医療のそれぞれに係る医療連携体制
4 疾病の発生状況等に照らして都道府県知事が特に必要と認める医療
5 医療従事者の確保
6 医療の安全の確保
7 基準病床数
8 医療提供施設の整備の目標
9 地域医療構想の取組
10 その他医療を提供する体制の確保に関し必要な事項
11 施策の評価及び見直し

細かく見ると、いろいろな項目があることがわかりますね。

いずれも重要なものではあるのですが、全体で200ページ以上の資料ですので、慣れていない方がすべてを読もうとすると大変です。

そのため、最初は以下の3つから読み始めてみることをおすすめします。

1 地域の現状

2 基準病床数

3 施策の評価及び見直し

この3つを読むことで、地域で医療を提供するために必要な基本的な内容はおさえることができます。

少しずつ慣れてくると、他のページにも興味が出てきますので、慣れてきたら他の項目もぜひ読んでみてください。

都道府県の医療計画を見てみよう。

医療計画は各都道府県のホームページから確認ができます。

・・・といっても、ホームページから探し出すのは大変です。「●●県 医療計画」と検索したほうが早く見つけることができます。

実際の医療計画のダウンロードページは、以下のようなページになります。

ほとんどの都道府県では、「医療計画の概要」と「医療計画」の2種類をダウンロードすることができます。

ここで注意していただきたいのは、「医療計画の概要」は、非常にわかりにくいということです。

概要と書いてある以上、簡単で、わかりやすいものを期待してしまいますよね・・・

実際には、医療計画の本体を読んでいただく方がわかりやすいですので、長くて、とっつきにくいかも知れませんが、医療計画の本体をぜひ読んでください。

医療計画を読む前に、「医療圏」について理解しておこう

医療計画の中では、1つの都道府県を「医療圏」という単位で区分けして、それぞれの医療圏の現状や目標を記載しています。

医療計画を読む前に、医療圏についても簡単に理解しておきましょう。

医療圏とは、医療提供体制を作るために、都道府県が設定した地域単位です。一次医療圏、二次医療圏、三次医療圏という3種類の医療圏があります。

一次医療圏・・・基本的に市町村単位。日常生活に密着した医療を提供する範囲。
二次医療圏・・・複数の市町村を組み合わせて設定。一般的な医療を提供する範囲。
三次医療圏・・・基本的に都道府県単位。先進的な技術を必要とする特殊な医療に対応する範囲。

二次医療圏が、「一般的な医療を提供する範囲」ということで、もっとも多く用いられる地域単位になります。医療計画上では、主に二次医療圏単位でデータを見ていくことになります。

医療計画の中で、あなたの市区町村がどの二次医療圏に属しているのか確認したうえで、資料を読み進めてください。

医療計画を読む前に、「5疾病・5事業及び在宅医療」について理解しておこう

医療計画という限られたページ数の中で、あらゆる病気、あらゆる事業について記載するわけにはいきません。

医療計画では、死亡率が⾼く、患者数も多い5つの病気(5疾病)と、地域ごとの医療施設や医療従事者の確保が不可⽋となる5つの事業(5事業)と、将来にわたって重要性が増していく在宅医療をメインテーマとして取り上げています。

より具体的には、

5疾病というのは、

・がん
・精神疾患
・脳卒中
・急性⼼筋梗塞
・糖尿病

です。

 5事業というのは、

・救急医療
・災害時における医療
・無医地区や離島における僻地(へきち)医療
・妊娠・出産・新⽣児までを対象とする周産期医療
・⼩児医療

です。

いずれも重要なテーマであることが分かりますね。

しかし、5疾病・5事業に在宅医療も合わせると、全11領域になります。

やや項目数が多いですので、まずはあなたの病院に関連のありそうなものから確認してみてください。

「地域の現状」から、その地域の”ならでは”を知ろう

では、いよいよ医療計画を見ていきましょう。引き続き、北海道の医療計画を例として説明していきます。

▼ 北海道の医療計画

まずは「地域の現状」からです。

北海道では、「地域の現状」は、第2章に位置付けられており、以下の内容で構成されています。

第2章 地域の現状
 第1節 地勢と交通
 第2節 人口の推移
 第3節 住民の健康状況
 第4節 患者の受療動向等
 第5節 医療提供施設の状況
 第6節 医療従事者の年次推移

地域の現状だけでも、たくさんのことが書かれているように見えますが、図やグラフも多いですので、実際の分量はさほど多くありません。

今回はこの中から、第4節 患者需要動向等を見てみます。

入院患者の受療動向のデータが示されています。

入院患者の受療動向の表からは、各医療圏で医療が完結できているのかどうかが確認できます。

例えば、南渡島は医療圏内自給率97.6%で、圏域内で医療が完結していることが分かります。

一方で、南檜山や北渡島檜山では、医療圏域内自給率が50~60%であり、圏域外に入院患者が流出していることが分かります。どこに流出しているのかを見てみると、多くが南渡島に流出しているようです。

このデータからは以下のことがわかります。

南渡島は、自給率が高く、他地域からの流入も多い医療圏です。自身の医療圏だけでなく、近隣の医療圏の医療ニーズにも対応することが地域から求められていると言えます。

このような地域で、集患の戦略を練るときには、自身の医療圏だけでなく、近隣の医療圏の患者も対象範囲に加える方が良いでしょう。

一方で、南檜山や北渡島檜山は、患者の流出が起きている医療圏です。

本来、二次医療圏は一般的な医療を受けられるように体制整備が必要です。患者流出が多いということは、入院機能が不足している可能性があります。

どのような患者が流出しているのかを調べ、地域に不足している機能を補っていく為の新規事業展開をするという戦略も考えられるでしょう。

このように「地域の現状」の項目を読むことで、その地域ならではの特徴を確認しながら、今後の戦略を検討することができます。

「基準病床数」から、その地域の”適正値”を知ろう

続いて、「基準病床数」を見てみましょう。

基準病床数を見るにあたっても、整理しておきたい前提知識があります。

医療計画の中では、「既存病床数」「基準病床数」「必要病床数」という3種類の病床数が登場します。

・・・すごくわかりにくいですね。

それぞれ似ていますが、意味が異なりますので、違いを整理しておきましょう。

既存病床数・・・実際にその地域にある病床数です。
基準病床数・・・病床規制をかける基準となる病床数です。

基準病床数は地域の需要に合わせて設定される病床数です。

基準病床数よりも既存病床数が多い場合、適正値を超えた病床があることを意味しています。

そのため、基準病床数よりも既存病床数が多い場合、都道府県は医療機関の開設・増床を許可しないことができます。(これを病床規制といいます。)

必要病床数・・・2025年時点に必要な病床数です。

2025年は、いわゆる"団塊の世代"が後期高齢者(75歳)の年齢に達し、医療や介護などの需要急増が懸念される年です。そのため、2025年に向けて整備しておくべき病床数を各都道府県が試算しています。

このように病床数には、紛らわしい3種類がありますので、病床数という言葉を見つけたら、それが「既存」なのか、「基準」なのか、「必要」なのかに注意して読み進めてください。

3種類の病床数の違いが分かったところで、実際のデータを見てみましょう。

北海道の医療計画においては、第1章 基本的な考え方の中に基準病床数の項目があります。

第1章 基本的な考え方
 第1節 計画の趣旨
 第2節 計画の位置づけ及び性格
 第3節 計画の期間
 第4節 計画の圏域
 第5節 基準病床数等

具体的には、以下のような表が掲載されています。

北海道の各医療圏の基準病床数と既存病床数が比較された表です。

基準病床数はその地域の病床の適正値を表していますが、表を見ると、すべての医療圏で、基準病床数よりも、既存病床数が多いことが分かります。

右下の「合計」を見てると、北海道全体では、基準病床数48,947床に対して、既存病床数74,421床であり、約26,000床ほどの過剰病床であることが分かります。

北海道では、病床を増やしていくというよりも病床を減らしていく方向で取り組みが進められていくことになります。

参考までに、”必要病床数”についても見てみましょう。

南渡島の合計の必要病床数を見てみると、4,857床であることが分かります。

必要病床数と比較しても、既存病床数は過剰であることが分かりますね。

必要病床数は、いわば2025年実現を目指した”未来の適正値”であり、基準病床数は”現在の適正値”です。

適正な病床がわかれば、今後、高い稼働率を維持することができるのかどうかや、ダウンサイジングの必要性があるのかどうか等、検討することができます。

北海道の場合、高い稼働率を維持することが難しく、ダウンサイジングも検討するべき地域であると言えるでしょう。

その地域の”適正値”を把握し、今後の戦略について検討してみてはいかがでしょうか。

施策の評価及び見直し」から、その地域に”求められていること”を知ろう

最後に、「施策の評価及び見直し」を見てみましょう。

「施策の評価及び見直し」というのは、前回の医療計画における目標を評価し、次の新しい目標を立てるための項目です。

北海道の医療計画では、最後の第7章に「計画の推進と評価」という項目で記載されています。

第7章 計画の推進と評価
 第1節 計画の周知と医療機能情報の公表
 第2節 計画を評価するための目標
 第3節 計画の推進方策

医療計画の中で行った市場調査をもとに、「5疾病5事業及び在宅医療」それぞれの目標を設定していきます。

具体的な例を見てみましょう。

へき地医療に関する目標です。へき地診療所数については、現状93か所に対して、目標が98か所になっています。追加で5か所の診療所の整備を目標にしています。

別の目標も見てみましょう。

脳卒中の目標を見てみると、「急性期医療を担う医療機関数」も、「回復期リハビリテーションが実施可能な医療機関がある第二次医療圏数」も現状と目標値が同じです。

医療計画上では、脳卒中関連の施設は整備の必要がないと判断しているということです。

「施策の評価及び見直し」の項目では、市場調査を行った結果として、どのような医療機能を、どの程度整備するべきかという目標が設定されます。

へき地医療のように、目標値に足りていない機能については、都道府県でも支援策を講じます。北海道の医療計画の中では、以下のような記載が確認できます。

・ へき地診療所等の施設・設備の整備費や運営費に対して支援します。
・ 自治医科大学卒業医師や地域枠医師の配置、北海道地域医療振興財団のドクターバンク事業、北海道医師会及び特定非営利活動法人北海道病院協会と連携して実施する緊急臨時的医師派遣事業等により、常勤医及び代診医の確保を図ります。

一方で、脳卒中に対応する急性期医療機関のように、すでにその地域では機能が充足している医療機能もあります。

地域から求められていない医療機能を追加的に提供しようとしても、当然、都道府県からの支援を受けることは難しいでしょう。

医療計画を読み、地域から求められていることを知り、地域の事情に合わせた事業運営を行っていくことで、都道府県からの支援を受けつつ、地域に貢献していきたいですよね。

医療計画はそのきっかけになるはずです。

終わりに

今回は、「医療計画を簡単・わかりやすく説明|見るべきは3項目!」と題して、以下のことを説明しました。

1 医療計画とは、都道府県が作る医療に関する計画書
2 医療計画は3項目に注目して読もう
3 医療計画は、地域に求められる医療をするために読もう。

ここまで読んでくださった方は、医療計画について十分理解できていると思いますが、もっと知りたいという場合は、医療法の原文を読んでみることをおすすめします。

厚生労働省がまとめた資料を読むよりも、詳しく、正確で、わかりやすいです。

▼医療法(第5章 第2節が医療計画です)

https://elaws.e-gov.go.jp/search/elawsSearch/elaws_search/lsg0500/detail/323AC0000000205_20180601_429AC0000000057/0?revIndex=8&lawId=323AC0000000205&openerCode=1

こちらの記事を含めて、「病院・介護施設の市場調査ができるようになるnote」(旧:はじめての外部環境分析)シリーズでは、病院・介護施設の市場調査の方法をご紹介しています。

興味を持ってくださった方はフォローいただけると嬉しいです。

また、TwitterInstagramでも情報発信をしています。医療介護データ研究所を応援してくださる方がおりましたら合わせてフォローいただけると嬉しいです。

それぞれのメディアは以下のように使い分けていきます。

▼note

医療介護のデータ活用をするための教科書的な記事を提供していきます。時事ネタというよりは、昔の記事を読んでも、学びになるようなストック型の記事を提供していきます。

Twitter

医療介護×データをテーマにしたリアルタイムな情報を共有していきます。ホットなニュースの共有やコメント、noteやInstagramの更新情報を発信していきます。Twitterでは、タイムリーなフロー型の情報を提供していきます。


Instagram

ヘルスケア FREE BOOKSというアカウントで、ヘルスケア業界の様々なデータを7ページのFREE BOOKにして紹介しています。データを知ってもらうきっかけになるような、目で見て直観的に楽しめる情報を提供しています。


以上です。

次回は、介護保険事業計画について解説します。

またぜひ見てください。どうぞ宜しくお願いします!

この記事が参加している募集

記事を読んでくださりありがとうございます。読んでいただけることが励みになります。もしサポートいただけましたら、研究活動に使わせていただきます。