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世界一音痴な歌姫によるカルト的なオペラ/Florence Foster Jenkins, Jenny Williams and Thomas Burns - The Glory (????) Of The Human Voice [Sony Classical]

Artist: Florence Foster Jenkins, Jenny Williams and Thomas Burns
Title: The Glory (????) Of The Human Voice
Label: Sony Classical
Genre: Opera, Classical, Pops
Format: CD
Release: 2013

かつてアメリカの大手レコード会社であったRCA Victor Red Sealからリリースされていた音源の、現Sony Classicalからの復刻版。世界一下手なオペラ歌手としてカルト的な人気を誇るFlorence Foster Jenkinsの歌曲集。

芸術において必ず出てくるキーワードの一つに「才能」という言葉があるのはご存知の通りである。鑑賞する人々に感銘を与えたり、斬新さで目を引いたり、凡人には到底及びもつかないナニカがそこにあったりと。さて、この盤がカルト的な人気を誇る要因を挙げるとすると、才能の極振りの真逆を地で進んでいるからである。アルバムタイトルも「人間の声の栄光(????)」という、摩訶不思議なタイトルである。

一言で言えば、「歌が下手」に集約されるのであるが、想像の斜め45度上をいく想像外のナニカがここにある。絶え間なく外れる音程、全く以て安定しない声量、絶対に再現性が不可能なテンポの外し方。これだけ聞くとオーバーな表現にも聴こえるが、実際そうである。歌が音痴だという人は大勢いるが、それらがマシに聴こえるくらいなのである。

おおよそ歌の魅力の一つとして元気や活力を与えられるといった効用が挙げられるが、こちらはどちらかというと、むしろこちらが元気を分け与えたくなったり、「頑張れ!」と応援したくなるという意味合いで元気や活力が出てくるのである。そう、非常に愛嬌があるのである。

人物の逸話として、アメリカの富豪であり、自費でカーネギーホールを借りてコンサートをしたというのは有名な話である。日本で言えば、自腹で武道館ライブをするようなものである。流石は富豪、一般人とはやることのスケールが違いすぎる。歌のインパクトも然ることながら、その人生においても非常に魅力的であったようで、「偉大なるマルグリッド(仏・2015)」、「マダム・フローレンス!夢見るふたり(英・2016)」にて映画化されている。

音楽とは、演奏や歌が上手いだけではない、ということの素晴らしさを再確認させてくれる一枚。上手下手の問題ではなく、歌うことが好き、楽器を奏でることが好き、音楽が好き、ただこれだけのシンプルな理由が最も人の心を打つのかもしれない。

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