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バトグラに学ぶ、「高めあうコミュニティ」の構成要素

11月頃から、デジタルカードゲーム『ハースストーン・バトルグラウンド』(以下『バトグラ』)をやりこんでいます。

驚いたのは、ランキング上位のプレイヤーたちが映像やテキストで積極的な情報発信を続け、その周りに向上心の強いプレイヤーが集って、『みんなで学んで強くなる、高めあうコミュニティ』が形成されていることです。私はバトグラ専用のtwitterアカウントを作って数十人をフォローしていますが、本当に皆さん学ぶことに貪欲です。

デジタルゲームという文脈から学び、ビジネスの現場にも応用できそうな「"高めあう"コミュニティの構成要素」について、筆者がここ2ヶ月ほどで見えてきた風景からまとめます。キーワードは『多極発信』『場数』です。


①「濃い解説記事」と「解説つき配信」の多極性

1-1. セオリー詳細記事で学ぶ

「バトグラが強くなりたい」と思ったら、まずは「定石・セオリー」をまとめた解説記事で勉強したいところです。ここで特徴的なのが、バトグラはあまりWikiが中心ではなく、複数の書き手による詳細な解説記事がよく参照されているということです。

▼keromonさんのブログ

▼ノイズさんのnote

71種類もある全ヒーローを網羅する記事を書くのは本当に大変な仕事で、かつバトグラは頻繁にパッチによる環境の変化があるので、放っておくと情報がすぐに陳腐化してしまいます。そんな中、最新の環境にあわせて記事を更新されている方々には頭が下がります。書き手は自身のレート(ランキングにおける成績)を記事冒頭に書いているしていることが多く、「上位ランカーである=結果を出している」ということが記事の信頼性を担保しています。(ちなみに私はレート7000前後をうろうろしている初中級ユーザーです。最上位層はレート13000-15000ぐらいです。全然上に行けない)

これが別のゲームの場合、例えばタワーディフェンス系『アークナイツ』では、まとめWikiがものすごく充実しており、あらゆる情報がWikiに集約された上で、キャラクター単位のWikiページのコメント欄で匿名の議論が進んでいる印象です。アークナイツは基本ソロプレイかつ「レアキャラを集めて強くして楽しむコレクター要素」が強いので、中央集権的・データベース的な構造が合うのかもしれません。

一方、バトグラの場合は、さまざまなブログに分散した記事が随時更新され、その情報がtwitterで回覧され、twitter上で議論が発生しています。ひとつひとつの記事も「絶対的な正解」という感じではなく、発信者の個性を織り込んだ「○○さんの記事、○○さんの知見、○○さんのプレイスタイル」という形で流通しています。棋士の名を関した戦術書が並ぶ将棋と、景色は似ています。

網羅的な記事の他にも、ある特定のヒーローについて掘り下げた粒度の細かい記事や、ゲームの特定の側面(例えば、登場しない種族を指す”BAN”による影響)を深く研究した記事も多く書かれています。

▼白うささん

▼Alzaさん

後発のプレイヤーでも、こうしたある特定の文脈を掘り下げた専門性の高い記事や、「どこよりも早い○○の使い方」といった速報性を活かした記事では、存在感を示す余地があるかもしれません。


1-2. 動画配信の「解説」から学ぶ

こうしたまとめ記事が、ある時点での環境を切り取った「スナップショット」だとすれば、今現在の環境をどう立ち回っていくかリアルタイムで学べるのが「プレイ動画配信」です。YouTubeやTwichを舞台に、多数のプレイ動画が配信されています。

ライブ配信は、4時間など長時間にわたって中継するものが多く、見るポイントがわかりにくいですが、チャットで配信者と会話しながらライブ配信を観たり、録画を見て「プレイスタイルを完コピする」という活用法もできます(この場合は1.5倍速ぐらいがおすすめ)。また、配信動画の一部を切り出して10〜15分程度に圧縮編集された解説動画は、よりわかりやすいものが多いです(配信者は日ごろから常時配信することで「素材」がたまり、うまくいったところを切り出して動画化できる)。私はモニキさんの解説動画をよく観ていますが、まつりさん、白うささん、梁瀬さんなどトップ層のリアルタイム配信も、腰を据えて観るとかなり勉強になります。

モニキさんのtwitchの配信リスト、2時間超えなど長時間のものが多い

動画で学ぶ上でのキモは、『解説』(または、配信者のつぶやき)を聞き込むことです。

バトグラにはさまざまな定石・セオリーがありますが、セオリーを知っていても「どこでセオリーに従い、どこで崩すか」は経験を積み重ねないとわかりません。プレイ動画では、都度「いま、どんな状況で、どの情報をもとに、どんな判断を下すか」がリアルタイムで実況されるため、この「判断」を追体験することが、質の高い学びにつながるわけです。「自分だったらどう判断するか」とプレイヤーの行動を比較して、その違いから学びます。プレイ中の視点としても、自分の手札だけではなく、配信者が「他プレイヤーの状況」や「BAN(場にいない種族)」をどのように見て、どのように評価をしているか、私の場合は丁寧に配信を観ることでようやく腹落ちしました。

『解説』の密度が特に高いのは、後述するコミュニティイベント「大会」の配信です。大会の配信では、主催者が「実況」を、もう1名のゲストが「解説」を担う形で、2人の対談形式で音声がつくことが多いです。対談形式の場合、ホストが「○○さん、この局面はどう見ますか?」「○○さん、今の行動はどんな理由からだと思いますか?」など、視聴者が知りたいであろう「問い」をあえてゲストに投げかけることで、基本的な視点から積み上げて一層丁寧な解説が聞けるわけです。公式大会JAPAN CUPの決勝戦5試合の配信(実況:蒼汁さん、解説:まつりさん)は、とことん勉強になりました。

2画面並ぶ公式配信。実況が超上手

配信をじっくり観るにはまとまった時間が必要で、自分で実戦する時間との奪い合いになります。配信ばかり観ていても上手くならないが、インプットを入れないと腕が上がらない。バランスが難しいところです。また、なるべく「この人の考え方をとことん真似たい」という『師匠』を見つけ、その人の動きを真似るのが、一定の強さを手に入れる上では近道であるように思います。


1-3. 環境の変化が、議論を活性化させる

バトグラの上達において重要なのは「環境の変化」に敏感であることです。

「パッチ」と呼ばれるアップデートが頻繁に行われる中、キーカードのスタッツ(基礎パラメータである攻撃力と体力)やコストが1変わるだけでも、通用しなくなるテクニックも多く、環境に対して強いプレイスタイル・環境に多い構成に対抗する「メタ編成」の形状も刻々と変化するため、攻略ノウハウの賞味期限は短いです。

▼私の大好きなヒーロー「スキャブス」が登場し、ディアブロが去ったことで大きく環境が動いた11/29のリリース。

変化が早い環境下では、ストックの情報は腐りやすく、メンテナンスコストがかなり大きくなります。Google検索でヒットする半年以上前の記事は、ほぼ賞味期限切れになっている(そして現環境との差分、どれが有効でどれが無効なのかがわかりにくい)ものが実際多いです。このため、映像配信とtwitterを常に追い続けることが重要で、初心者の参入障壁はやや高い一方、継続的にインプットを続けることで得られる学びは大きくなります。発信側にとっても、「常に発信し続ける」ことの意義が高まります。

バトグラのアップデートは、頻繁かつ「絶妙な良調整」が多く、毎回のパッチが議論を活性化させている感があります。変化の中で「みんなで議論しながら上を目指そう」という機運が感じられます。変化を受け取る側としては「変化に敏感であること、変化を前向きに受け入れること」がスタンスとして重要だと感じますし、逆に運営側の視点としては、環境をうまく変化させ続けることが、コミュニティ活性化のために重要と言えると思います。


②コミュニティイベント「大会」が経験値と交流機会を生む

2-1. 場数を踏みつつ「顔見知り」を増やす

座学で得た知識は、実戦で培ってこそ力になります。バトグラはそもそもオンライン対戦のゲーム(自動的に強さの近いプレイヤーとマッチングされる)であり、毎日が実戦ではあるんですが、少し特別な実戦の場が、コミュニティイベント「大会」です。

「大会」の実体は、ある場に集まったプレイヤーがお互いをフレンド登録し、『フレンド対戦』機能を使って対戦するスタイルのイベントです。多くの有志が日常的に/定期的に多数の大会を開催しており、時間さえ合えば気軽に参加できます(夜21時頃スタートの大会が多い印象です)。ダリル杯、ラグナロス杯、英雄杯、リッチキング杯など、主催者ごとにさまざまな名を冠した大会を主催しています。ルールは比較的共通化されており、「Tonamel(トナメル)」という自動トーナメントマッチングサイトの利用が中心です(公式大会のJAPAN CUPも同じ形)。

奇跡的に決勝まで進んだラグナロス杯1-5の対戦表

大会では、プレイヤー間のコミュニケーションは必要最低限しか発生しません。コミュニケーションツールとしては、TonamelのチャットとDiscordを併用することが多いですが、Discordは主に運営サイドからのアナウンスの補足程度で、チャット欄もつつがなく進めば対戦前の「よろしくお願いします」と、対戦後の「たいあり(対戦ありがとうございました)」が流れる程度です。

それでも、やはり参加回数が増えてくると、単純接触効果で「対戦表でよく見かける人の名前、よく上位に行っている人の名前」を覚え、コミュニティメンバーとして親近感をもつようになってきます。これ、意外に大事な点だと思います。

こうした大会での参加名は、ゲーム内で使われるニックネーム「Battletag」で表示されますが、多くの方が連動するtwitterアカウントを持っています。大会の戦果や振り返り、他の方のプレイについての感想などをtwitter上でつぶやくと、そこから返信がついて会話が始まることがあります。

小さなやりとりを重ねる中で、コミュニティにおける「顔見知り」が増えていきます(ここでの「顔見知り」はこちら側からの一方的な関係性ですが、たぶん相手方にとっても一定の接触量があれば認知はされているはず)。顔見知りと会話する機会は、意外に近くにあると感じています。


2-2. プレイを解説つきで見直す

大会で特に面白いのは、自分が「配信卓」で対戦するときです。

複数卓で並行して進む大会の中で、特定の卓が、大会ホストによる「配信」で中継されます。自分が参加する卓の中継は(ルール上)リアルタイムでは見られないのですが、後から録画配信を見直すことで、「自分が当たった相手」がどのように構成されてきたのか、自分の卓で強かったプレイヤーがどのように立ち回ってきたのか、解説を聞きながら詳しく振り返ることができます。卓の中で中継されるのは「強いプレイヤー」が多いですが、自分がその対戦相手として映ったり、切り替えのタイミングで配信対象になったりすることがあります。自分の構成の脆いところ、考えるべき展望について、批評コメントがもらえることもあります(私はラグナロス杯配信で3回ぐらい映って一言コメントをもらいました)。

儚く負けていっている「相手方」が私

こうした「他者の視点を加えながら振り返りができる」機会は貴重です。そもそも「非日常」の場である大会は、日常のプレイと同じゲームでありながらも「何か特別感のある時間」になります。私もはじめて大会参加したときは1戦1戦めちゃくちゃ緊張していました。「特別なモード」で集中して取り組む戦いは、そこから得られる気づきの質も一段深いような気がします。


2-3. コミュニティのフラットさを象徴する「卓立て」

大会に参加する中で、一定のコミュニケーションを必要とする作業が「卓立て」です。「卓立て」とは、自動的に割り振られる8名の対戦メンバーの中で「リストの先頭にいる人」がホスト役となり、他の参加者を招待して「フレンド対戦」を始めること。これ、一度覚えるともう大丈夫なんですが、独特の手順なので、1回目がめちゃくちゃ緊張します。私ははじめて参加した大会の2回戦でホスト役になりましたが、1人呼び忘れて7人で始めてしまい、あわてて全員に一度降参してもらって招待をしなおす失態をしました。

一度やり方を覚えて(そして失敗を経験して)以降は、かなりスムーズに操作できるようになり、たまにホスト役が困っている場合「卓立て代わりましょうか?」と申し出ることもあります。逆にベテランの方でも「今日スマホから参加なのでどなたか代わってもらえませんか」と申し出ることもあり(画面を切り替えやすいPC参加の方が卓立ては圧倒的に楽です)、その時にささっと卓立てを引き受けてくれる人は、卓にいる全員にとってありがたい存在です。

もしもこの卓立て作業が、ベテランユーザーに固定化されていたとしたら、参加者はもっと「受け身」になるかもしれません。大会のルールは、経験者も初心者も、フラットな関係であることを強調しています。これが、コミュニティ自体の性格をオープンでフラットなものにしているのかもしれません。


まとめ

主に2つの視点から、「バトグラが上手くなる、強くなる、大会で勝つ」というシンプルな目的意識を共有するコミュニティの特徴的な側面を綴ってきました。

  • ①テキスト+映像による上位陣の「多極発信」 ——アウトカム(成果)を伴うアウトプットの「量」と、継続的な変化への適応 →継続的な学びと議論の創出

  • ②大会を通じた「場数」の確保 ——単純接触回数、特別な経験からの振り返り、フラットなコミュニケーション機会 →交流の促進

年末のtwitterを見ていたら、「今年はバトグラをいっぱい遊んで楽しかった」というつぶやきが多く見られました。ゲームにおいて、「続けて遊んで楽しい」という感覚は、ゲーム自体の面白さはもちろんですが、学んで上達する実感を得ることと、「仲間」とのコミュニケーションにも、強く結びついていると思います。

世の中には本当に数多くのゲーム・eスポーツタイトルがありますが、ほどよいサイズで濃く盛り上がるバトグラの世界に触れたことは、稀有な経験でした。今年も引き続き、遊んでいこうと思います。そして、この先ちがう種類のコミュニティに関わるときも、「バトグラ的なムーブ」が機能する局面がきっとあるのではないかと期待しています。


Author: Hacovella#1532


Reference


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