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Cosmo Future: Power Titan GINGA ~Chapter 9~

団結

「仲間を集めるったって」
 組合員たちは動揺を隠せなかった。
「そんなこと、急に出来るわけが……」
 突如、誰かがホイッスルを吹いた。シュプレヒコールを上げる労組の前に、盾やヘルメットで武装した警官隊が並び始めたのだ。
「警察が一介の労組から、軍の最大兵器を護るのか」
「如何にもリヴァイアサンらしいな」
組合員たちは怒号を上げた。
「スクラム、組め! 独りで動かず、でも怯むな」リゲルは叫んだ。
「仲間は、今から増やすんじゃない」組合員たちの戸惑いに、ジャガーは応えた。
「おーい」その時、3人ほどの青年が組合の隊列に駆け付けてきた。彼らは、組合員ではないものの顔馴染みの、ハイドロン鉄道の同僚だった。「あのデカブツを見てやっと解ったんだ。なんで組合(おまえら)が、軍拡に反対してたのか」
「反戦は労働者の共通語だからな」そう言って現れたのは、その場の誰にも見知らぬ顔だった。「私は、この惑星で看護師をしている者だ。労働組合は職場の問題に気を取られがちだが、あらゆる職場を繋ぐキーワードを君達は掴んでいる」
「外部で、そんなこと考えてくれてる人がいたなんて……」組合員たちは感嘆した。
「俺達は、今日まで種を撒き続けてきたんだ」ジャガーは言った。
「配信を見て来ました」更に、人々が集まって来た。
「俺のその日暮らしが自己責任なわけがねえ。あの1機分の金で何ヶ月の生活保護が出せる」
「知りませんでした。こんなに力強い労組があるなんて」
「これに背を向けて、人権団体は名乗れないですよ」
駆け付けた人々は口々に語った。
「呼び掛けてみれば、急にでも集まるもんだな」情報班長は親指を立てた。「といっても、高々7人くらいだが」
「その7人こそ、俺達の希望さ」リゲルは言った。
「同じ思いを抱いている人は、もっと多い筈だ」ジャガーは折り鶴に似た形のデバイスを取り出した。「このスタークラフトに、その思いを集める。パワーを流星群(メテオスウォーム)にして、コスモスに届けるんだ」

 ジャガーがスタークラフトを頭上に掲げると、特殊な光がクラフトから配信デバイスに照射された。
≪配信を御覧の皆さん。まだまだ、お力添えが必要です。是非、現場に駆けつけて下さい。それが難しい方は、お手元に届いたクラフトフライヤーに思いを認(したた)めて投げ返して下さい≫
 配信画面は一瞬だけ真っ白になり、視聴者の端末から紙飛行機のような発光体が排出された。
「凄いな。これが全視聴者に届いてるのか」
人々はそれぞれのクラフトフライヤーに思いを込めた。ある者は指でメッセージを書き、ある者は掌に乗せて思念を送った。光の紙飛行機は各人の手を離れて飛び立つと、再び現場に集結してスタークラフトに取り込まれた。
「皆んな、叫ぶんだ。俺たちの声が、スタークラフトのメインエナジーになる」デバイスを頭上に掲げたまま、ジャガーは組合員と駆け付けた人々に呼び掛けた。
「させるな」警察の指揮官が怒鳴ると、警官隊は二手に分かれて襲い掛かった——一方はジャガーに、他方はスクラム隊の一端に。
「彼を守れ」リゲルに続いて数人がジャガーの周りに密集し、警棒の殴打や掴み掛かる手指を防いだ。「他はスクラムを崩すな。せーので叫ぶぞ。せーの」
「光よー!」

 闘士たちの叫びを受けて、スタークラフトはジャガーの手から垂直に撃ち上がり、横たわったギンガに光の粒を無数に浴びせた。
 ギンガの体に忽ち力が漲り、純白の光が全身から溢れ出した。ギンガは立ち上がると、両掌から虹色に光る羽根の短刀(ナイフ)を伸ばしてドローミの方へ投げた。2本のナイフはブーメランのように飛び、ケイオスを縛る鉄鎖を切り刻んだ。解放されたケイオスは既に気を失いかけており、アイアングレーの体は力無く地面に叩き付けられた。
「うおおお」体に力を込めると、ギンガは更に巨大化した。その身長は、従来のパワータイタンを数倍するドローミの全高をも凌いだ。
≪何だ、あの化け物のようなデカさは≫
≪怖れることは無い。質量は、まだ此方の方が……≫
機内の軍人たちの動揺が、マイクから外に漏れていた。
「それでも僕は、僕達は負けない」ギンガは胸のサーマルスターに力を込め、虹色に輝く必殺光線を放った。光線は機獣の巨体を片端から爆破し、跡形も無く殲滅した。
「ドローミ、信号停止。乗員の生死は、不明」
軍の司令室は、圧倒的な敗北感に覆われていた。
「警官隊は、死んでも退かせるな。労組(やつら)の勝利体験にどれだけ傷を付けるかが、今後に——」司令官の言葉を、計器の警報音が遮った。「……落とし前は、ケイオスが付けてくれるようだ」

見捨てない

「手ぶらで帰れば全員、首だぞ」
 警察の指揮官は隊員らを叱咤していた。ギンガは超巨大化前の身長に戻ると、ジャガーらを助けるべく揉み合いの現場に向かった。足音の地響きが、ますます警官隊の戦意を削いだ。
「ブラックホーンの反応が異常です」警官の1人が叫んだ。指揮官は、踏んだり蹴ったりだ、という顔をしてホイッスルを吹いた。
「ユニコーン。どうしたんだ」警官隊が自分以外の存在から退避し始めたことに気付くと、ギンガは横たわったケイオスの元に駆け寄った。
「来るな」ケイオスは怒鳴り、ギンガは思わず足を止めた。ケイオスがゆっくり立ち上がると、胸のスカーシールドは消灯し、周縁から稲光のような火花を散らしていた。
「制御が効かなくなった。もう直ぐ機関部は爆発して、ブラックホーンが辺り一帯の全てを呑み込む」ケイオスはふらつきながら笑った。「じゃあな、コスモス。アタシはもう、手遅れだから」
「そんな事、言うな」ギンガはケイオスに右手を伸ばした。「戦争(ころしあい)の為にサイボーグにされて、生きる為に手にしたパワージェムは暴走……リヴァイアサンが捨てた君を、僕は絶対に見捨てない」
 ギンガの背中から、星雲色の光の翼が開いた。ギンガはその翼をはためかせて舞い上がり、全身に力を込めた。
「コスモスの奴、どうする気だ」リゲルはギンガを見上げた。
「ケイオスの暴走を止めるには、ブラックホーンを消し去るしか無い」ジャガーは言った。「チャッター各車、ブースターケーブルは有るな?」
「ユニコーン、槍を投げろ」ギンガは叫んだ。
「……分かった」コスモスの決意に心を動かされたケイオスは、力を振り絞ってダークランスを宙に投げ上げた。
「伏せろよ」ギンガは槍に向かって右足を突き出し、一気に急降下した。ギャラクシーフェザーの全エネルギーを込めた蹴撃が、暗黒の刃に炸裂した。注ぎ込まれる光のエネルギーが吸収力の限界に達し、ブラックホーンは粉々に砕け散った。

 光のパワーを使い切り、その残滓を羽毛のように散らしながら落下するコスモスを、颯爽と飛んで来たスカイリューが頸に乗せた。
≪Battery run down≫
 エナジーバックルの動作が停止し、ユニコーンは地面に倒れた。その目の前に、ランドチャッターの1台が停まった。
「給電、急げ」車を降りた若手の組合員は、ブースターケーブルの端子を持ってユニコーンの元へ走った。

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