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Power Titan X'es ~III~

III. Burn-Stream

「つまり、あんたらが事実上、地球評議会館の技術班ってわけか」
 スターフィールド大学のダバラン研究室で、アリエスは説明を受けていた。
「君たちに渡したハーフカリスは、もともと前線基地キマイラからの要請で開発していたものだ」ダバランはアリエスに言った。「ピスケスが変身者の役を引き受けてくれたが、彼女1人では巨大化の負荷に耐えられなかった。それで2人用に改めたものの、今度は変身者が足りなくなった」
「そういうもんかね。合体の方が、身体(からだ)がおかしくなりそうだが」
「そこは私たち、エレメンタルだから。ぶっつけ本番だったけど、何とかなったね」
ピスケスの能天気さに、アリエスは閉口した。
「異変や負担があれば、細かいことでも教えてほしい」ダバランは2人に言った。「君たちの生態には判らないことが多い。そもそも『生物』とも違う存在とされているが、共に未来を築く大切な仲間だ」
「仲間、か」アリエスは呟いた。もし太陽革命が未成だったら、直ちに入管に囚われていただろう。そもそも、ハーケンベアーから逃れて来たのは国立研究機関のモルモットにされかけたからだ。「そういえば、彼の姿が見えないな」
「ハリー先輩のこと?」ピスケスは尋ねた。「私も、気になってた。大学までは一緒に来たのに」

「俺は、目的が果たせれば何でもいいんだけどな」
 洞窟のような暗い空間の中で、グリフは言った。
「あんたは一体、何者なんだ。機獣とは別に、あんた自身な不思議な力を持ってるようだが」
「トゥバン」グリフを導く男は応えた。「それが、私に与えられた名だ」
「そういや、名前も聞いてなかったか」
「私は、かつて自由のために戦った凌王騎士(キングライダー)の末裔だ」トゥバンは懐から、無色透明の結晶を取り出した。「代々受け継がれたこの時空の石(クロノクォーツ)が、私に力を与えている」
「かつて、って、どのくらい昔」
「太陽帝国による惑星平定の時代だ。キングライダーはそれに抗い、帝国軍からキングビーストを奪って戦った」
「でも、その時は負けたんだよな」
「左様。彼らの遺志を継ぐ私は、パワータイタンと各惑星の自治委員会に太陽系解放の希望を見出した」
「その希望も裏切られた、と。俺も同じだ」
「数多くの民衆が、その怨念を抱いている。我が新生キングライダーこそが、自由の旗手となるのだ」

「変身から1日経って、異常はないかい」
 ダバランの研究室で、アリエスとピスケスは検査を受けていた。
「何ともない」気の抜けたような声で、ピスケスは応えた。
「俺も平気だ」計器を眺めながら、アリエスも言った。「これは、パワージェムの測定器か」
「君たちに医学は通用しないからね」ダバランは申し訳なさそうに言った。「経過観察を続けて、異変があればその時に対処を検討するしかない」
「まあ、自覚なく病んでいくってことはないでしょ」ピスケスは言った。「寧ろ、人間の方が大変そう。自分の身体が泣いてても気付かない人、多い」
「お前は何でも分かりすぎだけどな。俺から見ても」アリエスはピスケスに言った。
「おはようございます」その時、自動扉が開いてハリーが入室した。
「あの後、何処に行ってたんだ」アリエスはハリーに尋ねた。
「ちょっとね」ハリーは微笑んだ。
「どうしたんですか。先輩、昨日から元気が無さそうです」ピスケスはハリーに歩み寄って尋ねた。
「まさか。俺はいつだって元気だよ」
「ならよかったです」ピスケスは微笑んでみせた。ハリーが無理をしていることは直感で判ったが、心配を掛けたくない気持ちを汲むことにした。「アリエスに色々、案内してきます」
「ああ。ピスケスこそ、自分を大事にしなよ」

「やっぱり、系外のエレメンタルは珍しがられるね」
 大学のカフェテリアで軽食を摂りながら、ピスケスはアリエスに話しかけた。
「お前も大概だったけどな」
「私は、慣れてるから」
「ハリーの顔色、そんなに悪かったか」
「気付かなかった?」ピスケスは首を傾げた。「でも、何があったのかはさっぱり——」
「どうした」
「感じる」ピスケスは目を閉じた。「ニーリンが、来る」

「ガニメデの修理、完了。スコルピオタンクも調整済みです」
 評議会館の会議室で、ハリーは報告した。
「よし。空と陸からお出迎えだ」司令官は言った。
「システム、オールグリーン」ガニメデのモニターを確認して、アリエスは言った。
「スティングレイツヴァイ、発進」ピスケスがレバーを引くと、連結した飛行船は会館のカタパルトから飛び出した。
「スコルピオタンク、行くぞ」これまでは専ら技術者として戦いを支えていたハリーが、歴戦の戦車に乗って出撃した。

《来たな》
 優雅な佇まいの巨大な機獣から、トゥバンの声が響いた。
「今日は何の用」ピスケスも、デルケトのスピーカーを通して問うた。
《用があるのは、昨日の巨人にだ》
《巨人の出番はもう無い》地上でニーリンに相対する戦車から、ハリーの声が上がった。《俺が相手だ》
「そうなの?」アリエスは呟いた。
「元気、戻ったのかも」ピスケスは微笑んだ。
《それはどうかな》ニーリンの両眼から、妖しげな光がスコルピオタンクに照射された。
「馬鹿な。システムダウンだと」ハリーは叫んだ。
「自治委員会時代の戦車か」トゥバンは鼻で笑うと、コクピットの左右にあるレバーを同時に引いた。ニーリンの頭に生えた2本の角が抜け出し、ブーメランのように回転しながらスコルピオタンクを襲った。
「危ない」デルケトとガニメデの熱線が2本の刃を迎撃した。
《我々と共に来い、パワータイタン》ニーリンは首をもたげて、上空の飛行船に呼び掛けた。《君たちエレメンタル、特にエイリアンの片割れは、本当にその組織で差別なく受け入れられているのか》
「わ、私は……」ピスケスは俯いた。生まれてからずっと地球で過ごしているが、異色の存在として見られてきた数々の出来事を想起すると、トゥバンの問いにピスケスは答えられなかった。
「確かに、戸惑うことも多いがな」アリエスの緑色の瞳が、徐々に赤く染まっていった。「俺の仲間を侮辱すると許さないぞ」
「仲間……!」ピスケスは目を輝かせた。
「俺たちには国境も、種族の壁も無い。そうだろう、ピスケス」アリエスはペンダントを外して腕に装着した。
「うん」ピスケスは力強く頷き、ツヴァイをオートホバーに切り替えた。
 2人のエレメンタルは同時にコクピットから飛び降り、空中で1対のペンダントヘッドを合わせた。聖杯(カップ)には火と水の力が注がれ、赤と青の光が交差する2直線のように溢れ出した。

 地上に降り立った巨人は、前日のエグゼスとは少し違う姿をしていた。緑色だった右腕と左脚は赤くなり、その前腕と脛は金色の装甲で覆われていた。X字型だった胸の装甲も右側だけがカップの片側の形に拡張し、中心のクロッシングコアは赤黄色に輝いていた。
——パワーが不均衡になってる——アリエスの燃える怒りに、ピスケスは圧倒されていた。——今日は、必然的にアリエスがリードだな——
 エグゼスは右手を前に突き出し、クロッシングコアから飛び出した武器を掴んだ。それは、金色のカップから牡羊の角が生えたような短めの棍棒だった。
——これで決める——アリエスは念じた。
「それが君たちの答えか」ニーリンはエグゼスに向かって突進した。
——ホーンインパクト——決め技に名を付けたのは、やはりピスケスだった。
 エグゼスは棍棒を構えたまま駆け出し、すれ違い様にニーリンの長い首を叩き折った。

「やりましたよ、先輩」
 ピスケスはデルケトの通信機で、ハリーに語り掛けた。
《……すまない》通信機から聴こえたのは、ハリーの低い声だった。
「先輩?」ピスケスは首を傾げた。
「また、何も出来なかった」ハリーは声を震わせた。
《仕方無いさ》アリエスの陽気な声が、スコルピオのコクピットに響いた。《ニーリンの光線がチートだったんだよ》
《帰りましょ。兎に角》ピスケスが呼び掛けた。

「予想外の展開があるかもしれんな」
 火花が散るコクピットの中で、トゥバンはほくそ笑んだ。

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