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Cosmo Future: Power Titan GINGA ~Ending~

未来へ

 この宇宙に生きる誰もが、矛盾を押し付けられ生き方を問われている。平和な世界にある日、脅威が降って湧く——それは、作家よりも政治家が好んで描く虚構(フィクション)だ。地殻変動が地震を起こすように、国家と階級も常に戦争と内乱を準備している。

「スト破りの要員を通すな」
 ハイドロン鉄道労組は大量廃線を阻止するため、大規模なストライキを決行していた。
「お前たち、本当にそれでいいのか」ピケットラインを越えようとする社員らに、リゲルは問い掛けた。
「あなた方こそ、どういう訳ですか」スト破りの社員は挑発した。「廃線するなと言いながら、運転を止めるというのは」
「鉄路は、皆んなの命を運ぶ道だ。それを会社とリヴァイアサンは、人殺しの道具を運ぶ為に作り替えようとしてる」
「戦争行きの列車なら、走らせるわけにはいかない」
若手の組合員たちが、口々に応えた。
≪政治ストは違法だ。直ちにピケットを解除しなさい≫
 スト破りの背後から、地球の肉食恐竜に似た機獣が群れを成してやって来た。白いボディと黒い脚に統一された量産型の機獣は、ちょうど人間を銜えて運べるほどの大口を開けて組合員を威嚇した。
≪指示に従わなければ、強制排除する≫
 動じない組合員たちに襲い掛かる機獣の各々を、連射された火の玉と光弾が撃破した。ピケットの後方から姿を見せたのは、火山弾を放ったヴォルガレオと、その背に跨ってリボルバーを構えるユニコーンだった。
「皆んなに救われたこの命、此処で使わずに何処で使う」ユニコーンは、銃型パワー増幅器のスイッチレバーにもなっている弾倉を脱着した。弾倉の中には、弾薬筒の形をした琥珀色のパワージェムが装填されていた。
≪Change mode≫
増幅器の切り替え音声を確認すると、ユニコーンは銃口を天上に向け、トリガーを引いた。
≪ケイオスが変身するぞ≫
機獣群に包囲される中、ユニコーンは琥珀色の稲光に包まれ、巨大化した。新たな姿となったケイオスは、右手から光の投げ槍を発生させ、機獣群に対峙した。

「オペレーション・ベレロフォン、開始。今日こそキマイラを叩くぞ」
 ケフェウス連合軍、ベース・タルタロス。白い軍服に身を包んだ兵士が、出撃の準備をしていた。彼が左腕に装備しているのは蛇の頭に似たデバイスで、鉛色の機体に紅色の透明な球体が埋め込まれていた。
「パワータイタン・爆風(バスター)、アルゲス。出る!」
兵士は球体の外縁に付いた歯車を右手で回した。紅色の光の渦が兵士の体を変化させ、白雲色の鱗に包まれた単眼の巨人が基地から飛び立った。
 宇宙空間で“バスター”を出迎えたのは、両翼に刃を備えた青い戦闘機だった。
「此方、アルタイル。第1作戦ポイントで会敵」
バスターが無数に光のカッターを飛ばし、アルタイルの翼が鋼の刃で応戦している所へ、何処からともなく飛んで来た数発のロケットがバスターを直撃した。宇宙用ジェットエンジンで駆け付けたのは、大型のビーム砲を備えた赤い戦車と、ロケットランチャーから煙を上げる白い潜水艦だった。
「ポラリス隊が合流して来たか。奇襲弾はアンタレス製だな」バスターはデバイスの歯車を回し、透明の球体にエネルギーを溜め始めた。
「スクラムフォーメーション、マシンタイタン・連帯(ユナイト)!」
3機のビークルは変形し、1体の巨人へと合体した——青い戦闘機は肩から上の部分に、赤い戦車は胴体に、白い潜水艦は下半身に。その右腕には翼の剣が、左腕には戦車の大砲が構えられた。
「シャウラ、ホクト」アルタイルは他の2人のパイロットに語り掛けた。「ケフェウスでも反戦の内乱が始まっている。この決戦に勝って、アンタレスとポラリスの民衆も更に勇気付けるぞ」
「言われるまでもない」ハイドロン労組出身のシャウラは意気込んだ。
「戦果を焦るなよ、2人とも」目標に照準を合わせながら、ホクトは言った。
 互いの主砲がエネルギー充填を完了し、紅色のプラズマと燎原の砲火が激突した。

≪周辺住民の皆さん。この基地で行われたケフェウス連合とリヴァイアサンの合同演習が、満月病の感染爆発を引き起こしたのです≫
 ハイドロン宙軍基地のゲート前でマイクを握るのは、ランドチャッターの演台に乗ったコスモスだ。
≪太陽系の工作員は出て行け≫
≪集まってウイルス撒き散らしてんのは、どっちだ≫
黒塗りの街宣車が、労組の隊列に怒号を浴びせた。
「いつもながら、音量だけは奴らに適わないな」音響機材を調整しながら、車内のジャガーは舌打ちした。「ノイズキャンセラーにも、限界がある」
「リュー!」幼体のスカイリューが、ジャガーにペンダントを渡した。ペンダントのヘッドは無色透明の楕円体と、1対の白い羽根飾りで構成されていた。
「気遣いは有り難いが、それはコスモスに返して来なさい」ジャガーはスカイリューに告げた。「波及の石(エアロランプ)は、皆んなを守る為に必要だ」
 基地のゲートから、武装した兵隊が湧いて出て来た。
≪解散しなければ、テロ行為と見做す≫
多数の銃口を向けられた人々は、萎縮するどころか一層、怒りの声を上げた。
≪コンディション・レッド≫ ジャガーからの無線を受けて、コスモスの足元で待機していたギガンジュロが演台から飛び出し、成体となって兵隊に立ちはだかった。
≪皆さん、聞きましたか。これが彼らの答えです≫ コスモスも熱弁した。≪アンタレス軍は一体、何から何を守ってるんですか。“命を守れ”という当たり前の要求が“テロ行為”であると。足元から反軍、反戦の声を上げる僕たちこそが、リヴァイアサンにとっての脅威だというのです≫
 兵隊は威嚇発砲を始めた。ギガンジュロは人民の前に土の壁を生み出し、水平撃ちに備えた。
≪防壁を破壊せよ。抵抗があれば催涙弾を使え≫
数人の兵士はグレネードランチャーを構えた。
「スカイリュー、スラッシャーを」コスモスが掲げた右手に、成体のスカイリューは上空からペンダントを落とした。ペンダントは空中で、ブーメラン型のゴーグルに変化した。
 アンタレス軍の擲弾が土の壁を撃ち砕いた後、土煙の奥から3体の巨大な影が現れた——1体はギガンジュロ、もう1体はスカイリュー、そして頭部にナイフ状の武器を備えた新たなギンガだった。
「僕たちに、国境は無い」コスモスは言った。「アンタレスに生きる全ての民衆が、リヴァイアサンを倒すんだ」

 パワージェムは自然の力——それが人々の営みに呼応して結晶したもの。受け継がれた力を身体(からだ)に宿し、己を変えて世界を変える——それが、パワータイタン。

(完)

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