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Power Titan X'es ~IV~

IV. Double-Crosser

《評議会地球支部は、2体の機獣を撃破した「パワータイタン・エグゼス」について、“全宇宙の人類解放を目指す同志である”とし、“機獣のパイロットは行方も身元も不明だが、我々は団結を諦めない”と宣言しました》
 街頭の大画面に緑と青の巨人が映し出された瞬間、ハリーは眼鏡を外した。ぼやけた視界の中を、ふらつきながら歩く。何かにぶつかった。
「おい、大丈夫か」アリエスの声が、ハリーの目の前から飛び込んできた。
「ああ。ごめん」手に持った眼鏡を胸ポケットにしまいながら、ハリーは応じた。
「何処へ行くんだ。こんな時間に」
「ちょっとそこまで、研究室の消耗品を買いにね」
「なら、付き合うぜ。俺も大学に行くところだし」
「大丈夫。ありがとう」ハリーはアリエスの肩を叩くと、独りで往来の中へ消えてしまった。
「せめて、眼鏡は掛けて行けよ」暫しの沈黙の後、アリエスは叫んだ。

「何が“団結を諦めない”だ」
 トゥバンが地下に構えたアジトの一室で、グリフは受像機の電源を切った。
「俺たちを切り捨てたのは、評議会じゃないか」
「だが、攻め方は考えなければならない」トゥバンは言った。「まさか、ニーリンまでも敗れるとは」
「強化ユニットはあるんだろう。ワイルドにも、ニーリンにも」
「エグゼスの底力も未知数だ。それに、評議会は地球支部が倒れる前に増援を送り込むだろう」
「じゃあ、勝ち目は無いじゃないか」
「一つだけある」トゥバンは人差し指を立てた。「彼らの力の根拠だ」

「暑いー。融けるー」
 研究室に入るなり、ピスケスは弱音を吐いた。
「さっき、ハリーがこれを置いて行ったよ」ダバランはピスケスに、水の入ったボトルを差し出した。「君がへばるだろうからと」
「やったー。さすが先輩」
「地球も温暖化が続いてるのか」先に来ていたアリエスは腕を組んだ。
「過剰生産はしなくなったけど、気候は急には戻らないからね」ダバランは説明した。
「帝国が残したツケは、核だけじゃないんだな——で、その人形は?」
「デュエルマンティス」ピスケスは手に持ったプラモデルを、自分のデスクに飾った。「『飛躍戦機バトルホッパー』の。ライバル機だけど、これが一番かっこいい」
「何も解らないぞ、その説明じゃ」
 その時、研究室の扉が開いた。入って来たのは、両手に買い物袋を持ったハリーだった。
「アリエス。済まないが、ガニメデを貸してくれないか」荷物も下ろさないまま、ハリーは言った。
「それはいいけど」
「先輩。お水、ありがとうございます」ピスケスはハリーに駆け寄って、荷物を引き取った。
「そうか。この後、キマイラか」ダバランは言った。
「ええ。決戦本部会議です」
「あまり無理をするなよ」ガニメデのカードキーをハリーに手渡して、アリエスは言った。「幾らタフな人間でも、精霊(おれたち)ほどの回復力は無いだろう」
「……ちょっとくらい無理させてよ」ハリーは呟いて、研究室を後にした。
「先輩、今、何て」ボトルの水を飲み干した後、ピスケスは首を傾げた。
「さあ。俺にもはっきりとは」

「力の根拠って、エレメンタルパワーか」
 グリフはトゥバンに尋ねた。
「そうではない。曲がりなりにも、評議会は“労働者権力”だということを思い出せ」
「それがどうした。俺は農民だが」
「労働者も、君と同じだ。当然にも、自らの生活が第一なのだよ」
「だが、その生活はケフェウスとの戦いで……」
「其処に、評議会の弱点がある。キングビーストだけが我々の武器ではない」
「そうか。どっちに民衆の未来があるか、はっきりさせてやる」
「その為の作戦なんだが、今度は宇宙に出てみようと思う」トゥバンはディスプレイに、映像を出した。「これは、前線基地キマイラだ。 此処に、評議会の持てる力が集中している」
「今の政策の、象徴点ってわけか」
「其処を標的とすることで、人心の獲得を目指す」トゥバンは画面を切り替えた。「それともう一つ、目標がある」

「じゃあ、ニーリンのライダーって」
 太陽系外縁に浮かぶキマイラの会議室で、ハリーは意外な事実を告げられた。
「ああ。トゥバンは嘗て、キマイラの参謀だった」“ヴァンガード”の1人、パワータイタン・疾風(スイフト)として知られるドラコは言った。
「当時から、同胞を戦の駒のように考えるきらいがあったがな」そう指摘したのは、総司令のリカオンだ。「エグゼスを此方に派遣してもらう予定だったが、そんな場合ではなくなったようだ」
《未確認の機獣2体が接近。地球の方向からです》
 緊急で放送されたのは、決戦本部の誰も予想していない事態だった。
「まさか、キングビーストが」ハリーは会議室を飛び出した。

「それはねえ、ちゃんと嫌だって言った方がいいよ。勿論、言いにくいのは解るけど」
 廊下の壁に凭れ掛かって、ピスケスは電話していた。
「うん。うん。決戦の中だからこそ、貴女が我慢してる場合じゃないからね。——うん、頑張って。じゃあね」
 電話を切り、研究室の扉の前に立つと、ピスケスは何やらただならぬ空気を感じ取った。
「あ、ピスケス。大変だぞ」自動扉が開くや否や、アリエスが言った。
「キマイラから緊急連絡が入ったんだ。キングビーストが現れた」ダバランは告げた。
「キマイラに!?」
「今までの2機が両方、新装備でな」アリエスは頭を抱えた。「問題はハリーの奴だ。ガニメデは戦闘用でもないのに、単機で戦いに出たらしい」
「助けに行かなきゃ」
「それは現地のタイタンたちがやっている」ダバランが窘めた。「彼らは歴戦の“ヴァンガード”だ。今は、彼らを信じよう」

「じっとしてられないみたいだな」
 室内を歩き回っているピスケスに、アリエスは言った。
「アリエスも私のこと、解るようになったの」
「感情は、出会った時から解りやすかったぞ。謎なところは、今も謎だけど」
「アリエスはグラに乗って」ピスケスはアリエスに、カードキーを投げて渡した。「デルケトの同型機だから」
「止めても聞かないか」ダバランは苦笑した。
 2人は大学の駐機場へ急いだ。
「ツインフォーメーション、スティングレイツヴァイ・オリジナル」
 デルケトに乗り込んだピスケスがコマンドすると、2機の飛行船は横並びに連結し、上空へ飛び立った。

《来たな。エグゼスとやら》
 ツヴァイを出迎えたのは、鷲獅子のような機獣に乗ったグリフだった。
「半身換装式って、そういうことか」アリエスはペンダントヘッドを握り締めた。
《この先には行かせない》
「行かせてもらう」ピスケスはハーフカリスを腕に装着した。
 ツヴァイから緑と青の光が飛び出し、機獣の嘴の真ん前で交差して巨人に変わった。互いの目的を果たすため、ワイルドとエグゼスは直ちに巨体をぶつけ合った。

 ワイルドの背後では、既にニーリンがその前脚にガニメデを捕獲していた。ニーリンは頭部だけが以前の機体と同じで、九似の竜を模した長大な肢体をくねらせながら、光の翼を拡げて飛び回るスイフトと渡り合っていた。
《人質を解放する》トゥバンは告げた。《条件は、パンと平和だ》
「ふざけるな」スイフトは叫んだ。「俺達が何と戦っていると思っている」
《今は、系内の自由主義者と戦っているだろう》

 ニーリンに附属する群体無人機が、戦場の様子をカメラで捉えていた。映像は太陽系各星に配信されて、人々の耳目を集めていた。
「なあ。どっちが正しいと思う」
「人質は卑怯だよ……」
「でも、確かにパンと平和は欲しい」
 人々は動揺していた。
「これが狙いか」キマイラで待機していたレオンは腰を上げた。「あんな蚊蜻蛉、俺が——」
「待て」ヴォルフガングはレオンを制止した。「此方が情報を遮断するのは悪手だ」

——ルーピングカッター——
 エグゼスは輪状の光刃を飛ばした。
《良い事を教えてやる》身軽に光刃を躱して、グリフは言った。《ニーリンをコントロールしているのは、前脚のカプセルだ》
——え——ピスケスの受けた衝撃が、エグゼスの動きを止めた。——先輩が、敵機(ニーリン)を?——

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