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Power Titan X'es ~Final~


XI. Against Kēpheus

「此れ程のエネルギーとは」
 アリエスは驚嘆を漏らした。エグゼスは痛みを堪え、再びディソリッドを見上げた。
「多分、使ってたパワージェムが崩壊してる」
 ピスケスが推測した通り、ハリーとトゥバンが夫々、ディソリッド全体を操ろうとした結果、インディバイドカーボンは其の存在を否定されて融け出していた。そのパワーは外部に飛び出すだけでなく、ディソリッドのあらゆる部分を内側から破壊していった。
「だから言ったじゃねえか。ハリーは怪しいって」
 グリフは怒り心頭だった。
「大層な自信だな。彼を蹴落とせる立場だったとでも?」トゥバンは逆上した。
「どういう意味だ、其れ」
「此の儘じゃ全員、御陀仏だ」損傷し続けるコクピットの中で、タルパーは嘆いた。空気抵抗を起こしていた翼は既にほぼ全壊し、機体の落下も加速していた。

「そろそろ、エネルギーが尽きる」
 降り頻(しき)るプラズマ塊を撃ち続けるアルケムも、焦燥感を募らせていた。光弾を生み出す人造パワージェムだけでなく、デメテルの集中力も限界に近付いていた。
「おっと。こうしちゃいられねえ」アリエスは気合を入れ直した。
「全員、生きて総括させる」ピスケスはライダー達に告げた。
「グリスニングブリーズ」
 アリエスとピスケスが声を揃えると、エグゼスは両掌から穏やかな光の粒子をディソリッドに注いだ。
「浸蝕が、止まった……?」
 ジュピターはコクピットの中を見回した。エグゼスの光線は崩れゆくカーボンそのものを奇跡の力で消し去り、落下する機体にも上向きの力を掛けて優しく地面に置いた。
「パイロットは5人いる筈だ。全員、保護するぞ」
 プルートに先導されて、救護班が出動した。エグゼスも緑と青の光に分かれ、共にディソリッドの元へ降り立った。

「カラミティライダーが重体。他の4人は、命に別状ありません」
 グリフとトゥバン、それに2人の学生は担架で運び出された。
「評議会の犬共め」グリフは救護班に悪罵を投げ付けた。「俺達を何処へ連れて行く。俺の家族は、どうなるんだ」
「悪い様にはしない」プルートはグリフに告げた。グリフは信じなかった。
「救命ヘリ、急いで下さい。オペの手配も」ハリーの応急手当てをしながら、救護班員は電話で要請した。
「無駄だ」ハリーは呻く様に告げた。
「月並みな事、言ってんじゃねえよ」
 アリエスはハリーに駆け寄った。
「ピスケスと腹割って話す迄は、死ぬな」
「今更、話す事など……」
「嘘」ピスケスもハリーの目の前に現れた。「ずっと、私達に何か隠してた。そうでなきゃ突然、あんな事しない」
「……“エグゼス”を封印出来れば、何でも良かった」ハリーはピスケスから目を背け、少し躊躇った後、言葉を絞り出した。「トゥバンのやり方では、内戦は終わらない。だから——」
 其れが、ハリーの最期の言葉だった。手当てをしていた班員は首を横に振った。
「何、其れ。“封印”って、どういう事」
「多分、お前に楽させてやりかったんだよ」アリエスはピスケスに言った。「だから彼奴は、俺の事も許せなかった。嫉妬もあったんだろうけど、俺の存在が変身を可能にしてしまったからな」
「彼が信じ切れなかったのは、民衆の決起だけじゃなかったって事……」デメテルが2人の元へ歩いて来た。「悲しいね。大事に思えば思う程、一緒に戦うのが辛くなるなんて」
「最低な男」ピスケスは唇を噛んだ。「結局、仲間として見てなかったんだ。私の事も、他の誰の事も」

「2号室のライダーがいません」
 病院に搬送されたキングライダーは夫々、病院の個室で一夜を過ごした——一切の目撃者も痕跡も残さず、煙の様に脱出した1人を除いて。
《指導者格と思われる男です》
「やはりか」電話連絡を受けたプルートも、インシデントの対応に追われていた。「会館(こちら)で保管していたパワージェムも消えた。奴が所持していた物だ」
《あの男自身に、ジェムと引き合う力があったんでしょうか》
「まだだ」
 トゥバンは足を引き摺りながら地下のアジトに戻り、コンピュータでディソリッドの残骸を捜していた。
「機体を修復すれば、まだ戦える。エグゼスだけじゃない。ケフェウス軍とだって——」
「まさか、自力で内乱を起こしているつもりだったのかい」トゥバンの背後から、声がした。
「大使。何故、此処に」トゥバンが振り返ると、5つの人影と4つの銃口が彼を包囲していた。
「国に帰る前に、せめてもの手土産をと思ってね」ケフェウスの大使は、コンピュータから無色透明の結晶を抜き取った。
《Unexpected Error》クロノクォーツを失った事で、コンピュータはディソリッドを追跡出来なくなった。
「君に見つけさせた古代兵器(ビースト)も、恐竜マシンに仕込んだ鉱石(カーボン)も、悉く御釈迦にしてくれたからな」
 トゥバンは言葉を失った。先代ライダーから伝わる結晶(クォーツ)が只ならぬ輝きを見せた時、既に基軸国(ケフェウス)の策士に糸を引かれていたというのか。
「まあ、良い。太陽系を掻き乱す事にはある程度、成功した。御苦労だったね、無政府主義者殿(ミスター・アナーキスト)」

 事態が収束した後、評議会館ではスターフィールド学生との協議が行われた。
「延期にしてしまって申し訳無い」開口一番、大学長は頭を下げた。
「我々も、彼等の機体があそこまで暴走するとは」ヴィーナスは応じた。ディソリッド・ライダーの外(ほか)にも複数の学生がキングライダーに関与していた事は、救出された2人の学生によって報告されていた。
「今日は何よりも、我がスターフィールドの軌跡(あゆみ)と展望について改めて一致をかち取りたい」学長は本題に入った。
「原点から確認するという事か」
「如何にも。其の上で、生活保障の拡充は科学庁でも懸案になっていた事だ」
 学長は壁面ディスプレイに、自身が作成した資料を表示させた。
「此方からは、学生の窮状についての資料と、気候変動に対応した農漁業の増産計画があります」学生の副会長も、ウェアラブル端末で資料を空間上映した。「前者の説明は会長から。後者はデメテル委員の考案なんですが、本人はエグゼスの見送りに行ってまして」

 スターフィールドの屋外広場。2人のエレメンタルと1人の人間が、ベンチに並んでいた。
「よかったのか。協議の方に行かなくて」アリエスはデメテルに尋ねた。
「執行部の空気も、ストライキ直後よりは良くなってるし」デメテルは答えた。「貴方達が助けてくれた同胞(なかま)を、私が信じなくてどうするの」
「ごめん。デメテルに背負わせる積もりでやった訳じゃ……」ピスケスは狼狽えた。
「謝らないで。其のお陰で私も信じてもらえたんだから」デメテルはピスケスの頭を撫でた。「前線基地(むこう)でも、元気でね。2人とも」
「サンキュ」アリエスは言った。「ケフェウスはハーケン=ポラリスの増長も口実にして、戦火を拡げてやがる。ダバランにはちょっと心配されたが、俺はキマイラで同盟(なかま)の期待に応える」
「キングライダーも、黒幕はケフェウスだった」ピスケスも新たな決意を語った。「宇宙解放の戦い、まだまだ此れから」
《ツヴァイの最終点検が完了した。何時(いつ)でも出せるぞ》
 ダバランから連絡が入った。
《地球の事はデメテルと私に任せて、使命を果たして来い》
「其れにしても、びっくり」ピスケスは言った。「大人しかったデメテルが、本当にアルケムになっちゃうんだもん」
「人って、変わるんだよ」デメテルは笑った。「私の場合は、誰かさん達に感化されたんだと思うけど」
「そうやって、闘う団結は拡がっていく」アリエスは言った。「じゃあ、そろそろ行こうか。次の戦いに」

Epilogue

 パワータイタンは救済者ではない。
 確かに、その力を手にする者は一握りだ。卓越した個人に依存する営みは、理想というより困難な現実ですらある。
 だが、彼らは人々に道を示し、時には人々と一つになり、そして戦士の魂を継承してきた。
 巨人の肩の上に立ち、自ら巨人の血肉となる——世界を変えるパワータイタンの物語は、人類の歴史と未来そのものなのだ。

「キングライダーの乱、か」
 この十余年、ケフェウス連合からの干渉戦争が激しく、アンタレス系へのアプローチもコスモスを送り出すまでは手付かずだった。太陽革命に続いて狼煙を上げたポラリス革命の敗北とハーケンベアー政権の成立は、全宇宙解放への道程に大きな影を落としていた。
「やはり、この戦いはもう限界だ」

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