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カストル戦記:POWER TITAN ORIGIN ~Lost Record~前編~

《トランスフォーム。ライフギャラクシー》
「こいつは私が倒す——叡智の前衛、パワータイタンが」

 光の中から現れた巨人は、火星の民を薙ぎ払う銃剣の前に立ちはだかった。
「カストルか。自治派に唆されたな」帝国軍の管制室で、カニスは映像を睨みつけた。「そいつも片付けろ。巨人(タイタン)が2人とも倒れれば、連中の希望は潰える」
 機獣(ミノタウロス)は直ちに、背中のバルカン砲で巨人を攻撃した。巨人は全身から白い光を放ち、砲弾が届く直前に煙のように消えた。次の瞬間、機獣の背後に光とともに巨人は現れ、右手から緑色の蔓を伸ばして機獣を拘束した。
「瞬間移動か」変身が解け、仲間の肩を借りて歩くケイロンは、新たな力で戦うパワータイタンを見上げた。
 ミノタウロスは自慢の馬力で、巨人の綱を引き千切った。機体に緑の蔓が巻きついたまま、ミノタウロスは敵に向かって突進した。
《エクスプロード》巨人は両腕にパワーを溜めると、右手の指を鳴らした。その指先から不思議な光の粒子が放出され、迫り来る敵機に降り注いだ。
「ミノタウロスの信号が途絶えました。操縦できません」
 管制官はカニスに報告した。
「一体、何なんだ。あの光線は」カニスは怒鳴った。
「電子頭脳を駄目にしてやった」カストルは巨人の姿のまま、仲間たちに教えた。「自動化の脆弱さを思い知れ、兄さん」
 間もなく軍の戦車が到着したが、火星民やパワータイタンには目もくれず、動かなくなった重機を牽引してそそくさと撤収した。
「勝ったぞ。帝国軍に、勝ったんだ」火星の人々は歓声を上げた。

《聞きましたよ。火星(そちら)でも、元気でやってるようですね》
 火星自治会館。会議室のスクリーンに映し出されているのは、ビデオ通信で繋がっている地球の自治委員たちだ。
「人の心配をしている場合か」カストルは地球委員長のスバルに言った。「指名手配の私が去った今、地球で矢面に立っているのは委員会そのものだろう」
《目下、政府の方針は火星委員会を孤立させることです》スバルは答えた。《地球(こちら)で出来ることがあれば、何でもお手伝いします》
「ダブルタイタンを送って下さっただけでも、十分助かってますよ」頭を下げたのは、火星委員長のナトラだ。
「委員長」
 若手の委員が会議室に飛び込んで来た。
「ニュース速報を見て下さい。すぐに」
「ちょっと、失礼」ナトラは通話を繋いだまま、画面をテレビ映像に切り替えた。
《繰り返します。政府は火星処分について、“自治委員会がパワータイタン=カストル容疑者の身柄を引き渡せば凍結する”と発表しました》
「ポルクスさん、委員会宛てに正式な通達は?」ナトラは尋ねた。
「まだです」ポルクスは息を切らしながら答えた。「物事には、順序ってもんがありますよね」
「そもそも、こんな汚い取り引きをよくもまあ堂々と」ケイロンも憤った。
「まあ、支配者にとって重要な試金石なのは確かだろう」カストルは比較的、冷静だった。「むしろ、民衆を統治の論理になじませるための踏み込みなんじゃないか」
「あなたを売り渡しはしません」ナトラは言い切った。「仰る通り、決定的な指標です。ここで闘わない道を選ぶ委員会なら、いつでも潰せるという事だ」
「とにかく、緊急会議を招集しましょう」ポルクスは委員たちに連絡するため、会議室を出た。
《地球でも、連帯の行動を計画します》スバルは宣言した。

「私に気を遣う必要はない」
 緊急会議の場で、カストルは言った。
「半端な一致で蹴れば、こちらが空中分解する。皇帝(エンペラー)が持ちかける取り引きというのは、そういう攻撃だ」
「今更すぎますよ」
「警察がデモを襲ってきた時から、覚悟はできてる」
委員たちは口々に決意を語った。カストルの懸念は、杞憂だった。
「決まりですね」ナトラは議事をまとめた。「記者会見をしましょう。全国ネットで、こちらの回答を顕示するんです」

《カストル博士は、凶暴な弾圧から火星民を救った勇敢な巨人です。我々は太陽帝政による権威主義的な火星処分にも、不当な指名手配や卑劣な取り引きにも屈しません》
「何が『権威主義』だよ。この国は、いつから独裁(アカ)になったんだ」
 人口惑星キャピタル、「皇報電波塔」。会見の生中継を横目に茶を啜りながら、役人はぼやいた。
「放送電波を遮断しろ」役人の上司は命じた。
「え。いや、確かに胸糞な会見ですけど」役人は戸惑った。「政府は、連中を挑発したんですよね。なら、これが狙いだったんじゃ」
「内部分裂してくれれば、政府が手を汚すまでもなかった」上司は吐露した。「そうならなかった以上、火星を孤立させておかなければ」
 火星自治会館、広報スタジオ。マスコミ各社から駆け付けたカメラマンたちの後方で配信を担うスタッフの間に、ざわめきが起こった。
「あれ。急に電波が飛ばなくなったぞ」
「弊社(うち)もだ」
「外部からの電波干渉かもしれません」後方に控えていたポルクスが言った。
「任せな」ケイロンはポルクスに告げ、屋外に出た。「電波は光だから、火属性のカードで」
《Clearing Flash》
ケイロンが左腕のデバイスを上空にかざすと、特殊な光が辺り一帯に飛び交う電波を一掃した。
「メディアの皆さん」スタジオに戻って、ケイロンは呼びかけた。「お手数ですが、配信機材は再起動して下さい」

《自治委員会が政府の申し出を拒否し、公然とテロリストを擁護した事は、誠に遺憾である》
 記者会見の成功に追い詰められた帝政は、皇帝本人をテレビカメラの前に立たせた。
《我々は再び機獣を導入し、今度こそ火星処分を完遂する》
「帝国軍はいつやって来るか、判らない」ナトラは委員たちに提起した。「24時間体制で警戒に当たりましょう」
「私とケイロンは交代で、常にどちらかは待機していよう」カストルは申し出た。
「さすがにそれでは、お2人に負担がかかりすぎるのでは」
「どうやら、その必要もないようですよ」携帯端末に入った連絡を見て、ポルクスは言った。「コネのある記者が、情報をリークしてくれました。今夜中に来ます」
「どういうこと?」ケイロンは尋ねた。
「政府からマスコミ各社にタレコミがあったそうです。“何があるとは言わないが、今夜いっぱい会館前でカメラを回しておいた方がよい”と」
「商業メディアも、不意打ちの共犯ってわけか」カストルは呆れて溜め息を吐いた。「日没までに、タイタンシステムのメンテを終えなくては」
「その事なんですが」ナトラは提案した。「今夜は、火星民(われわれ)も前線に立ちたいのです」

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