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Cosmo Future: Power Titan GINGA ~Chapter 1~

到着

 光の力を纏った巨人が、両腕を拡げて星散る宇宙を飛んでいた。
「次のワープで着けるかな」
 巨人の胸で青白く点灯していたランプが目映い虹色の光を放ち、その目前で煌く星々は一気に真珠色の身体を飛び越して行った。
 彼の名はコスモス、パワータイタンとしての名は星翔(ギンガ)。ギャラクシーフェザーの力で、銀河系から遥か彼方にある文明の星を目指している。
 ワープが終了すると、胸のランプの鮮烈な輝きは収束した。先ほどの青白い灯火よりは若干輝度の落ちた、白い光が残った。
「あれだ」
赤く輝く恒星アンタレスを目指し、ギンガは飛行を続けた。

 惑星ハイドロン。アンタレスの惑星であり、かつて地球自治委員会で活動したトリトンやヴォルフガングの出身地である。
「——ん?」
 コスモスは異変に気づいた。ハイドロンの周辺に、やたら沢山の巡視艇が浮かんでいる。各艇には、アンタレス標準語で「海獣(リヴァイアサン)」を表すロゴが刻まれていた。これでは、素通りでの大気圏突入は不可能に近い。ヴォルフからは、“入星管理局は陸上の随所にある”と聞いていたのに。
≪そこのパワータイタン、止まれ≫
 一隻の巡視艇が、巨人を呼び止めた。
≪何処から来た≫
「ち、地球です。太陽系の」
≪地球人か。太陽系外への渡航歴は?≫
「これが、初めてですが」
コスモスは不安になってきた。
≪まあ、それなら入る分にはいいが——何、怪獣?≫
通信が飛び込んで来て、軍人は口走った。
「何処ですか?」銀色に光る両目が、巡視艇に迫った。
≪ち、丁度、ここの真下くらいだ——≫
ギンガは一直線に、大気圏へ突っ込んだ。
≪お、おい。話はまだ……≫
巡視艇のスピーカーが発する声は、もうコスモスには届かなかった。

怪獣

 断熱圧縮をものともせず、ギンガは急速に降下した。雲をすり抜け、高層ビルが見え始めると、コスモスは五感を澄ませて怪獣を探った。「真下」とは聞いていたが、惑星の自転でその位置は幾分ずれているはずだ。
「あっちだ!」
巨人は向きを変え、飛び続けた。

 街を騒がせているのは、尻尾を引き摺って直立二足歩行をする、典型的な「怪獣」だった。
 ギンガは両手から純白のサーベルを生成し、右手に持った1本を下方の怪獣に投げつけた。サーベルは怪獣の後方から首筋に命中し、火花を散らした。怪獣は悲鳴を上げた。
「何だ、今のは」
 街の群衆も、怪獣への奇襲に気づいた。人々は上空に巨人の影を認めた。
 ブーメランのように舞い戻ったサーベルを手に取り、ギンガは怪獣めがけて急降下した。羽根の形をした両刀に斬りつけられ、怪獣はひっくり返った。巨人は人気のない地点を選んで降り立ち、怪獣に手招きした。
「パワータイタン!?」
「軍じゃ、なさそうだけど」
人々の注目が見知らぬ巨人に集まる中、怪獣は巨人の挑発に乗って駆け出した。ギンガは二刀流で迎え撃った。
 戦闘の様子を、1台の報道ヘリが中継しに来た。追い詰められる怪獣は思わず火球を吐き、火球はヘリの方へ一直線に飛び出した。
「危ない!」コスモスは咄嗟に飛び立ち、2本の剣で火球を弾き返した。
 巨人の胸のランプは徐々に輝度を落とし、白だった灯火色もその時には黄色に変わっていた。消耗を実感しつつあったコスモスは、左腕につけた腕時計のような装置を胸の前に構え、四角い盤面に4つあるスイッチの1つを押した。
≪オープン・スカイチャプター≫
文字盤は空色の光を放ちながらベルトから遊離し、大型化しつつ1冊の本のように展開した。巨人は怪獣を見下ろし、左手で装置を捉え、
「疾風の巨人スイフトよ、我に力を」
そう唱えると、両腕の周りに空気を集め、ポーズを組んで空色に光る気流を噴射した。怪獣は吹き飛ばされ、地面に強く打ちつけられた。
 ギンガは再び着陸し、胸部に力を込めた。胸のランプが強い虹色の光を放ち、体内のエネルギーがそこに集中した。
「とどめだ——」
 必殺光線を放とうとしたその時、コスモスの目の前に緑色の光が立ち上った。光の中から、筋骨隆々とした類人猿型の怪獣の後ろ姿が現れた。
「か、怪獣がもう1体!?」コスモスは狼狽えてしまった。
 樹皮色の肌と深緑の体毛に覆われた巨猿は、爬虫類型の怪獣に両掌を向け、光のオーラを放った。オーラを浴びた怪獣は一時、身体の異変に戸惑ったが、次第に落ち着いていき、やがてその巨体は収縮し始めた。
「沈静化光線か? でも、どうして小さく……」ギンガは首を傾げた。
 怪獣はみるみるうちに、人間の手でつまめるほどの小トカゲになってしまった。それを見届けるような仕草を見せると、猿型の怪獣も緑の光を放ちながら、萎んでいくかのように姿を消した。

出迎え

「ともかく、事は収まったみたいだな」
 ギンガの身体も、純白の光となって霧散した。
 落ち着きを取り戻した群衆の中に、コスモスは光を散らしながらゆっくりと舞い降りた。パワータイタンから素顔の地球人に戻っても、惑星ハイドロンの中でその出で立ちは一際目立つものだった。
 灰色の尖った石飛礫がコスモスの頬を掠った。
「お前、太陽系人だな。何をしに来た」
四方八方から怒号が降りかかった。
「何をしにって……本当は、ええと、留学に。ただ、今、怪獣がいたので」
「だったら、入星許可証を見せてみろ」
「——しまった」
「どうした。見せられないなら、入管に突き出すぞ」
「はいはい、そこまで」
 口髭を蓄えた青年が、コスモスの窮地に割って入った。彼は、コスモスを12年間育ててきた実父やその盟友たちと、ほぼ同世代のようだった。
「ジャガーさん……」その青年は、地元の住民たちにも一目置かれているようだった。
「お前、地球のコスモスだろ。トリトンから、話は聞いてるよ」
「え。トリトンって、太陽系議長の?」
「そういうこと。ま、咄嗟のことで手続きどころじゃなかったんだろう。もういいよ、あとは俺が案内するから」
 そう言うと、ジャガーと呼ばれた青年はコスモスを連れてその場を後にした。

血債

「ありがとうございました。助けていただいて」
 車の助手席に乗せられたコスモスは、ハンドルを握るジャガーに礼を言った。
「いやあ、すまなかったね。彼奴ら、満月病のこともあって気が立ってるんだ」
「満月病……ですか」
「君が倒そうとしたサテリザード。あんな風に、大きく凶暴になるんだ。まあ、新型の感染症ってやつだな」
「それで、大気圏外の巡視艇に呼び止められたのか」
「ああ、渡航制限がかかっててね。まあ、太陽系には存在しないウイルスなんだが」
「でも、それなら」コスモスは首を傾げた。「さっきの皆さんは、どうして……」
「——太陽帝国によるアンタレス系侵略の歴史は?」
「勉強してます。小さい頃から、ヴォルフガングさんにお話を」
「あの中の何人かは、元徴用工だ」ジャガーは告げた。「もちろん、侵攻で大切な人を亡くした者もいる」
「だって、帝国はもう……」コスモスは戸惑いを顕わにした。「それに、父なんてアンタレス兵を守るために——」
「そうか。君は、疾風(スイフト)の息子だったな」ジャガーは言った。「そのために被曝二世となった君には、確かに酷な出迎えだ」
「まだ、父にも僕にも異変は起きてません」コスモスは語った。「でも正直、怖いですね」
「さあ、家に着いたぞ」ジャガーは車を停めた。「今日から、此処が君の宿だ」

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