見出し画像

Cosmo Future: Power Titan GINGA ~Chapter 7~

総括

≪平和を乱すジュータントめ。正義の科学で制御された、俺たちリュウボーグが退治してやる≫
≪持って生まれたこの力が罪だというのか。ならば、貴様らが作り出したその凶器は何だ≫
 コスモスはギガンジュロを膝に抱えて、ぼんやりと動画を見ていた。ギガンジュロの左腕には、コスモスが土産に買った変身ブレスが巻いてあった。
「これがエレメンジャーか」ジャガーが2人に声をかけた。
「さっきまでは、そうでした。これは次作の予告です」
≪過去に人を傷つけたのは、事実だ≫
≪親の借金がなければ、こんな体にはなってない≫
「かなり、面白そうではあるが」ジャガーはコスモスの肩を叩いた。「ミーティングの時間だぞ」
「あ」急に我に返ったように、コスモスは声を上げた。

「いつまでも、時化た顔してるなよ。スカイリューの怪我なら、すぐ治るんだから」
 会議室に入ったコスモスに、組合員は声を掛けた。
「彼奴ら、権力者(リヴァイアサン)には決して石を投げないんだ。“防疫パトロール”が聞いて呆れるぜ」
怒りをあらわにしたのは、リゲルだった。
「そんな妨害も跳ね除けて、集会をやり切った」ジャガーが全員に向けて語った。「このことを、まず確認したい。できて当たり前ではなかったからな」
「やってみるもんだな、と思ったよ。通りがかりの人に、“自粛してない労組があってよかった”って言ってもらえたし」
「リゲルの発言、良かったな。やればできるじゃんか」
組合員たちが口々に感想を述べた。
「コスモスの発言がポシャったのは、残念だったな。せっかく太陽系から来てくれているのに」
「すみません……」コスモスは俯いた。
「いや、君が悪いんじゃないよ。悪いのは、彼奴らだから」
「ああいうことがあっても、民衆には絶望しないでほしい」ジャガーはコスモスに語り掛けた。「何も、石を投げた一人一人を味方にしようってわけじゃないけどな。あれが労働者の本質なら、そもそもこんな組合は存在しない」
「そうですよね」コスモスは顔を上げた。「ヴォルガレオが僕のこと、止めてくれてよかったです」
「それに、ネットでも彼奴らの方が酷いって声がそれなりにあるぜ」組合員の1人が言った。「無責任な冷笑が可視化されやすい世界だけど、生活矛盾が高まる中で潮目が変わってきてるみたいだ」
「それはギガンジュロに教えてあげなきゃ」コスモスは言った。「あの子も、落ち込んでるので」

物語

「何気に初めてだな。こうやって、待ち合わせして会うのは」
 コスモスが誘った喫茶店で、ユニコーンはジュースを吸い込みながら言った。アイアングレーの装甲は、店の雰囲気にはあまり合わないジャージの様なジャケットで隠されていた。
「前に話した、ギガンジュロさ。大好きなヒーロー番組を見ても、全然はしゃがなくなっちゃったんだ」
「『エーテルマン』から見てるなら、村人に後ろから刺される回もあったけどな。ま、家族が傷ついて現実を思い知らされたってところか」
「冷たいなあ……言いたいことは解るけど」
「アンタ、『リュウボーグ』の原作漫画は読んだか」
「映像化の予告編しか見てないけど。もしハッピーエンドなら、分断を乗り越えて支配者を倒すのかなって」
「あのPVか。解り合う兆しを見せてた2人、クライマックスでどっちも死ぬぞ」
「え」コスモスは顔色を変えた。
「ジュータント側は変身薬(アンプル)の使い過ぎで、リュウボーグ側は上層部に嵌められてな。結末か? 作者が自殺して、『リュウボーグ』は未完の問題作になった」
「そんな……」
「反体制を求める大衆は多いんだろう。あれが映像化されるってことは」ユニコーンは言った。「但し、希望を与える作品であってはならない。世界は変わらないという絶望こそが、描かれるべき真実なんだ」
「そんなの、真実でも何でもない」コスモスはつい、大声を出してしまった。「また、集会やると思うからさ。君も肌で感じてほしいな。民衆の、可能性というか……」
「見に行くのはいいけど」ユニコーンは冷めた口調で言った。「アタシだって、労組を知らずに言ってるわけじゃない。最近まで体制側にいたんだからな」

無題

「ユニコーンだって、働いてるって言ってもバイトでしょ。せめて割り勘に……」
「いいの、いいの。誘ってくれたお礼だ」
 2人は言い合いながら店を出た。
「やっと見つけたぞ、ケイオス」
 コスモスとユニコーンの前に現れたのは、2人のサイボーグだった。
「エレボスじゃないか。それに、ニュクスも」ユニコーンは歓喜の声を上げた。「もう、3人で会えることはないと思ってた」
「俺たちのブラックホーンを返せ」エレボスと呼ばれたサイボーグは、険しい面持ちでユニコーンに右手を伸ばした。
「ねえ。この人達、軍の……?」コスモスはユニコーンに尋ねた。
「入隊前からの付き合いさ」ユニコーンは答えた。「合わせ技(トリプルサーキュレーション)に必要なジェムを、勝手に持ち出したのは謝る。でも、今はそれが無いとアタシの体が……」
「問答無用だ。お前は発見次第、処分することになっている」
「しょ、処分って」コスモスは思わず声を上げた。「友達なんじゃないんですか」
「私達も、ブラックホーンが無いと完全体になれないの」もう1人のサイボーグ、ニュクスは澄ました口調で言った。「コンバイン・イントゥ・プロトアメミト」
 2人の軍人は機械の身体を変形させ、強面の機獣へと合体した。
「合体獣……アタシを消す為に、こんな」ユニコーンは目を瞠った。「そっか。それがアンタたちの答えか」

「逃げよう。早く!」コスモスはユニコーンの手を引いた。「辛いのは解るけど、このままじゃやられちゃう」
「逃げるのはアンタだ」ユニコーンは怒鳴って、コスモスの手を振り払った。「アタシにはもう、逃げる理由が無い」
 ユニコーンは俯いて、乾いた笑いを漏らした。そして、再び目を見開き、右掌を前方に突き出した。その掌は闇のオーラを放ち、その中から一角獣の頭を模った彫刻のような物体が現れた。
「ユニコーン、それは……黒いスイッチャー?」コスモスは目を疑った。
「よく似てるだろう。これは、アンタの光が生み出した影だ」
 ユニコーンが親指で角(つの)形のトリガーを引くと、彫刻の頭頂から鍵状の突起が飛び出した。ユニコーンはその鍵を、下腹部のエナジーバックルに挿し込んだ。
≪Charging≫
バックルは電子音声でステータスを示した。直ぐに、ユニコーンは鍵を90度回した。
≪Power On≫
すると、ユニコーンの全身から闇のオーラが噴き出し、着ていたジャケットは忽ち破れ、頭部は一本角の生えたパワータイタンのそれに変化した。
「そんな……また、あの姿に」コスモスは顔を歪めた。

 ケイオスの状態を示すスカーシールドは、間も無くグリーンからイエローに発光色を変えた。ケイオスがバックルから鍵を引き抜くと、鍵は瞬時に長大な黒槍に変化した。
 機獣プロトアメミトは雄叫びを上げ、ケイオスに向かって突進した。ケイオスは両手に構えた黒槍で、瞬く間にその合体獣を両断した。

「ユニコーン……」コスモスは立ち尽くしていた。
≪市民の皆さんは直ちに避難してください。これより、脱走兵ケイオスを爆破します≫驚くべき迅速さで、全方向から戦車や爆撃機が集まって来た。
「急いだ方がいい」ユニコーンはコスモスに告げた。「軍の奴ら、避難の完了なんか待たないぞ」
「大変だ」コスモスは左腕のサクセスイッチャーで、事務所に電話を掛けた。「エレメンタルたちをカフェの前に。緊急です!」

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?